17 ロンドン サミット
通常兵器の移転並びに核兵器、生物兵器及び化学兵器の不拡散に関する宣言(仮訳)
1991年7月16日
- 我々7ヵ国の元首及び首相並びに欧州共同体の代表は、昨年のヒューストンにおける会合において、核兵器、生物兵器及び化学兵器の拡散並びに関連するミサイル運搬システムの拡散が国際の安全に対して与える脅威を強調した。湾岸危機は、これらの兵器の無統制な拡散及び通常兵器の過剰保有がもたらす危険を際立たせた。このような危険の再発を防止する責任は、武器供給国と武器受領国の双方が、また、国際社会全体が分かち合わなければならない。我々各自は、我々の中の何人かが共同で又は個別に行った諸々の提案に明らかなように、適当な場において、中東におけると他の地域におけるとを問わず、このような危険に取り組む決意である。
通常兵器の移転
- 我々は、多くの諸国が合理的水準の安全保障を確保するため武器の輸入に依存すること、及び自衛の固有の権利が国際連合憲章において承認されていることを認める。国際関係における緊張は、その根底にある利害対立の問題に取り組み、それを解決しない限り、存続しよう。しかし、湾岸危機は、いずれかの国が自衛のための必要を遥かに超え、近隣諸国に脅威を与えるような大量の兵器を蓄積することができる場合には、平和と安定が損われることがあることを明らかにした。我々は、このような乱用が決して二度と繰り返されることのないよう確保する決意である。我々は、透明性、協議及び行動の三原則をすべての国が実施するならば、前進することができるものと信じる。
- 透明性の原則は、通常兵器及び関連する軍事技術の国際的な移転について適用されるべきである。これに向けての一歩として、我々は、国連の下に武器移転の普遍的な登録制度を導入するという提案を支持するとともに、その早期の採択に向けて努力するものとする。このような登録制度は、いずれかの国が合理的水準を超えた通常兵器の集積を試みた場合には、国際社会に対する警報を発することとなろう。情報は、すべての国が、定期的に、かつ、武器移転が行われた後において提供しなければならない。我々は、更に、通常兵器の保有の全体について一層の公開性を求める。我々は、このようなデータの提供及び説明要求手続の設定こそ、信頼と安全を醸成する重要な措置であると信じる。
- 協議の原則は、主要武器輸出国の間において通常兵器の移転に係るガイドラインの作成のためにとるべき共通のアプローチにつき合意を図る目的で討議を行うという、最近とられたイニシアティブを早急に実施に移すことにより、直ちに強化されるべきである。我々は、本件に関する討議が最近開始されたことを歓迎する。これらの討議は、7月8日及び9日にパリで行われた国際連合安全保障理事会の常任理事国による有望な対話、及び欧州共同体の枠組みの中でその加盟国間で進行中の討議を含む。我々各自は、これらの場及び他の適当な場において、このような重要な過程における建設的な役割を引き続き果たしていく。
- 行動の原則は、我々すべてに対し、兵器の均衡を失した蓄積を防止するための措置をとるよう求めるものである。そのためには、すべての国が、不安定化要因となる、又は緊張を更に激化させるおそれのある武器移転を慎むべきである。先端技術兵器の移転、並びに特に懸念が持たれる国及び地域に対する売却については、特別の制限が加えられるべきである。同様の移転制限が適用され得る機微な物品及び先端兵器生産能力を定義するため、特別の努力を行うべきである。すべての国は、これらの基準の厳格な実施を確保するための措置を講じるべきである。我々は、本件につき引き続き綿密な注意を払っていく意図を有する。
- イラクによる侵略及びこれに続く湾岸戦争は、国際社会にとって武力紛争のコストが如何に大きいものであるかを実証した。我々は、軍事支出水準の低減が、健全な経済政策と適正な施政にとっての重要な一要素であると信じる。すべての国が、乏しい資源をめぐって競合し合う多数の要請と格闘している状況の下では、あらゆる種類の武器に係る過度の軍備支出は、経済開発に取り組むという優先的なニーズに充てるべき資源の減少をもたらす。また、過度の軍備支出は、多額の債務を、その返済手段を作り出すことなく累積させるおそれもある。我々は、国際連合開発計画(UNDP)が最近刊行した報告書につき、また、最近若干の援助国において、被援助国の軍事支出が均衡を失している場合には援助計画の策定に当たりこの状況を考慮する旨が決定されたことについて、好意をもって留意するとともに、他のすべての援助国も同様の措置をとるよう奨励する。我々は、国際通貨基金の専務理事及び世界銀行総裁が、最近、開発途上国による過度の軍事支出に対して、非生産的な公共支出の削減との関連で注意を払っていることを歓迎する。
不拡散
- 我々は、核兵器、生物兵器及び化学兵器並びにミサイル運搬システムの拡散に対して深刻な懸念を有する。我々は、不拡散体制の強化と拡大によって、この脅威と闘っていく決意である。
- イラクは、その核兵器、生物兵器及び化学兵器による戦争能力並びにミサイル能力を、国際的な監視の下に、破壊し、撤去し又は無害化することにつき、また、将来にわたりそれら兵器システムに係るイラクの能力が開発されないことを確保するため検証及び長期的監視を行うことにつき規定した安全保障理事会決議687を完全に遵守しなければならない。我々は、国際連合の関連諸決議に従い、国際連合特別委員会及び国際原子力機関(IAEA)がその任務を十分に実施することができるよう、あらゆる支援を提供する。
- 原子力分野において、我々は、
- 核兵器の不拡散と原子力エネルギーの平和的利用の発展との間の権衡に立脚した衡平かつ安定的な不拡散体制を支持する旨のできる限り広範な合意を獲得するため、努力を行うという我々の意思を再確認し、
- 核兵器不拡散条約(NPT)の重要性を再確認するとともに、他のすべての非署名国に対し、同条約に署名するよう要請し、
- すべての非核兵器国に対し、自国のすべての原子力活動を、国際的な不拡散体制の基盤を成すIAEA保障措置に係らしめるよう要請し、
- すべての原子力供給国に対し、原子力供給国ガイドラインを採用し実施するよう求める。
我々は、ブラジル及びアルゼンティンが、IAEAとフルスコープ保障措置協定を締結すること、及びトラテロルコ条約を自国につき発効させるための措置をとることを決定したことを歓迎するとともに、南アフリカのNPT加入を歓迎する。
- 我々各自は、更に、次のことを達成するために努力する。
- 1995年以降もNPT体制を維持し、かつ、強化するという我々共通の目標
- IAEA保障措置制度の強化と改善
- 汎用品に係る適切な輸出規制を確保するためにとられる原子力供給国グループの新規措置
- 我々は、9月に開催される生物兵器禁止条約再検討会議が成功し、同条約の信頼譲成措置の強化と拡大を図るとともに実効的な検証措置を講ずる余地について探究することによって、同条約の現行規定の実施の強化が図られるものと期待する。我々各自は、他の諸国による同条約への加入を奨励し、また、すべての締約国に対し同条約上の義務を厳格に履行するよう求める。我々各自は、同条約の実施の強化につながる再検討会議の成功は、生物兵器の拡散を防止する上で重要な貢献になるものと信じる。
- 化学兵器を禁止する強力かつ包括的で実効的検証の可能な条約の作成交渉が成功し、すべての国が署名を行うことこそ、化学兵器の拡散を防止する最善の途である。我々は、米国による最近の発表を歓迎し、それによってこのような条約の速やかな締結が可能になるものと信じる。我々は、交渉をできる限り速やかに成功裡に終了させることを希望する。我々は、同条約の原締約国となる旨の我々の意図を再確認する。我々は、できる限り早期に同条約が発効し得るよう、他の諸国に対し、最も早い機会に同条約の締約国となるよう求める。
- 我々は、生物兵器及び化学兵器の拡散につながるおそれのある輸出についても規制を強化しなければならない。我々は、オーストラリア・グループ参加国により、また、その他の諸国によって、化学兵器の前駆物質及び関連設備の輸出規制に係る措置がとられたことを歓迎する。我々は、すべての輸出国の慣行を一層収斂させることを追求する。我々は、すべての国に対し、このような努力を支持するよう求める。
- 我々の目標は、化学兵器及び生物兵器の全面的かつ実効的な禁止である。これらの兵器の使用は、人道にもとる暴虐行為である。我々各自は、いずれかの国がこれらの兵器を使用した場合には、その国に対し国際連合安全保障理事会及びその他の場において厳しい措置を課すことにつき即座に検討する旨同意する。
- ミサイル運般システムの拡散は、世界の多くの地域における国際の安全にとって新たな不安定要因をもたらした。ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)の創設者として我々は、過去二年間に、他の多くの諸国の参加によってMTCRが拡大したことを歓迎する。我々は、1991年3月のMTCR東京会合において発出された、すべての国に対してMTCRガイドラインの採用を呼び掛ける共同アピールを支持する。同ガイドラインは、平和的及び科学的目的の宇宙利用における協力を禁止しようとするものではない。
- 我々は、拡散及び通常兵器移転のもたらす危険を減少させるため、重要な貢献を行うことができる。このような問題に関する我々の努力及び協議は、他の供給国との間におけるものを含め、全世界にわたる抑制に係る新たな環境を醸成するよう、すべての適当な場において継続する。受領国を含む他の諸国の支持があってこそ、また、我々人類すべての者の安全を危うくしかねないこれらの脅威を除去するための新たな努力において国際社会が結束してこそ、我々は成功することができるのである。
|