国際平和協力分野における人材育成検討会
アドバイザリー・グループのメンバーからの提言
平成16年4月23日
- はじめに
- 冷戦終結後、様々な要因による地域・民族紛争が多発する中、国連を中心とする伝統的な平和維持活動等に加え、近年は、国際平和協力により、脆弱な停戦をより持続的かつ安定的な平和に移行させるとともに、内戦によって被害を受けた地域の復興を促し、紛争の再発を防止する取組の重要性が認識されるようになってきた。
- 特に、国際平和協力の様々な局面において、わが国が継ぎ目なく迅速で効果的な協力を行うためには、これまでカンボジア、コソボ、東ティモール、アフガニスタン等で培った経験を踏まえながら、わが国の国際平和協力を一層充実させる必要がある。
- しかしながら、わが国の場合、国際平和協力の分野で、専門的知識と経験を有する人材は全般的に不足しており、その育成が急務である。またこうした人材の迅速かつ効率的な派遣方法の確立が喫緊の課題になってきている。
- 本検討会では、国際平和協力懇談会の提言を踏まえ、国際平和協力分野に含まれる様々な課題に対して我が国が人的貢献を行っていくために必要な人材育成のメカニズムを幅広く検討した。アドバイザリー・グループによる提言が政府の関係省庁及び独立行政法人国際協力機構(JICA)による具体的な行動計画の作成に資することを期待する。
- 人材の確保
国際平和協力分野に関心と意欲を持つ若い世代は多い。しかし、実際にどのような進路を取り、何を身につければよいのかといった情報に接する機会も十分でないために、実際に活躍できない場合も少なくない。
今後我が国が国際平和協力のために継続的に人材を供給していくためには、裾野の人口を広げ、層の厚い人材資源の蓄積が重要となる。
このため、国際平和協力への理解を深め、様々な可能性につき情報を提供する場を更に充実させる必要がある。かかる観点から、国民が利用しやすい情報提供に努め、情報発信方法を検討することが急務である。例えば、関係各機関(内閣府、外務省、文部科学省、JICA)が所有する人材資源に関するデータベース間の連携を強め、相互の関連性を理解しやすく改善する必要がある。また内容も、単なる客観的人材データを登録するだけではなく、本人の能力や希望をインタビュー等を通じて十分に把握することも重要である。実際に国際平和協力に携わろうとする人材にとって、学校や企業等所属先との関係で機動的な派遣が困難な場合が多い。我が国の雇用体系全体において、今後、このような人材に対する配慮、システムが必要となる。これまで国際平和協力に携わってきた人材をリスト化し、今後当該分野での活動を希望する人材への情報供給のツールとして活用できるようにする。
より多くの政府機関・地方自治体に属する専門家・技術者を国際協力のための人材として確保し、一定期間、国連機関等に派遣するための方法について検討すべきである。具体的には、国家公務員・地方公務員の国際機関への派遣をより迅速かつ容易にすること、国際平和協力に参加するための休職制度、国際平和協力への参加を公務員のキャリアパスの中に適正に位置づけること、などである。
民間企業・団体が、現職の社員がその身分を保持したまま青年海外協力隊に参加できるように措置を講じていることなどを参考にしつつ、民間企業の社員が、一定期間職場を離れて国際平和協力活動に参加することを支援する仕組みを作ることを検討すべきである。
国際平和協力活動においては、自衛隊員や警察官のみならず、政府職員、国連職員、NGO職員などの民間人も積極的な役割を果たして行かなければならないこと、そのためには国連機関、NGO団体、政府が協力し合って安全対策をとらなければならないことを広く国民に説明し、いっそうの理解と支持を得るように努めるべきである。
- 人材の養成
国際平和協力分野で人材を活用するためには、人材のレベルに応じて必要な付加価値をつけるための教育・研修が望まれる。国際平和協力分野で活躍するためには、大学等で理論や語学を学ぶことと同時に、現場経験が極めて重要である。必ずしも紛争地域でなくても開発途上地域でのフィールドの経験も国際平和協力活動には役立つものである。そのような観点から国際平和協力分野で働くことを目指す学生・大学院生に対しては、できるだけ現場経験を与えることが重要であり、既にいくつかの大学で試みられているように、青年海外協力隊等国際平和協力分野に関するボランティア活動や外務省、JICA等でのインターンとしての活動を、所属する大学・大学院の単位として認定することを一層促進することが望ましい。また、関係科目担当の大学教員にも、現場経験のある者を積極的に受け入れるよう働きかけるべきである。
専門知識、安全対策等の分野では、我が国は未だ経験が豊富とはいえないものもあり、そのような場合は、知見のある海外の機関(大学、国際機関、NGO等)あるいは国連大学等日本に本部や事務所のある国際機関と連携し、それらのノウハウを吸収したり、それらの機関の実施する研修を活用することが望ましい。
また、大学において、国際平和協力に関する講座や教員の充実を図るとともに、現場経験のある人材による実践的な教育を推進することも重要である。将来的には、国際平和協力に携わる人材が習得すべきカリキュラムを作成し、基礎的能力の向上をはかることが望まれる。
国際機関や国際平和協力の現場に即戦力として対応できる人材は潜在的に社会人に多いと言える。そのため、大学における教育の他に、国際平和協力に関心を持つ若手の社会人や定年前後の社会人を対象とした人材育成プログラムがあれば、経験を国際的に活かしたい人材を効果的に発掘・養成することができる。JICA等が中心となってこのようなプログラムを作り、また、このようなプログラムを作成する民間の取組に政府として協力していくことが重要である。更に、それら人材プログラム終了後、技術協力専門家等としての活用や国際機関等に就職できるよう官民協力し支援することが望ましい。
更に、安全対策等他の我が国人材に裨益すると思われる知見について共有するなどの連携が必要である。その際、海外の人材と共に研修を行うことは、人材交流の観点からも意義がある。
国際平和協力活動は、しばしば紛争地域もしくはその周辺地域で実施されるため、派遣職員の安全確保のための研修をいっそう充実すべきであり、派遣団体は十分な安全対策をとらなければならない。
- 人材の活用
迅速かつ効果的な人材の派遣のためには、データベース等を整えると共に、きめ細かい準備や現地での対応調整などが必要である。
国際協力の現場で活躍した人材のその後のキャリアパスも深刻な問題である。国際機関等で現場経験を有する貴重な人材が別の現場等に派遣されるまでの間、例えば、大学の教員や開発分野の専門家という形で日本国内で働くことができる環境を整備しておくことが、こうした人材が長期にわたって国際平和協力に従事していく上で重要である。
また、政府とNGOが協力し、国際機関等とも連携して有機的な派遣体制を確保していくことが重要である。更に、人材の確保から活用まで各機関が縦割りで効率性を欠く取り組みを行わないよう、行動計画にて設置される連絡調整会議を通じてモニタリングするシステムが必要である。
国際機関との連携強化という観点からは、以下のようなことが検討されるべきである。
- 日本の国連ボランティア計画(UNV)への拠出金を拡充することを検討し、UNV事務局と協議の上、より多くの日本人国連ボランティアを国際平和協力の現場に送り込む。
- 日本人JPO(junior professional officer)制度を促進し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連児童基金(UNICEF)、世界食糧計画(WFP)、UNDPなど国連機関を通じて国際平和協力の現場に派遣する。また、日本人JPOが現場での経験を最低3年間は積めるように支援すると共に、JPO終了後、正規職員として採用されることができるように、また将来にわたって国際機関で活躍することができるように一層の支援をする。
- 日本政府が国際平和協力の分野で任意拠出金を国連機関に出す場合、金額に応じて適当な人数とレベルの日本人職員を採用するように初期の段階から働きかける。
- 日本のNGOに対する支援として、実務経験を積ませるために現場へ日本人スタッフを派遣する場合の人材費支援を拡充する。
- 日本のNGOと国際機関等が意見交換・協議する場を多く設けていくことが重要である。
- 国際平和協力の実施においては、政府職員、国連職員、NGO職員などの民間人が、しばしば紛争地域もしくはその周辺地域で平和協力活動を行わなければならないことにかんがみ、個人レベル、派遣団体レベル、政府レベルにおいて、それぞれ十分な安全対策がとられるべきである。また現場で平和協力活動に従事する邦人国連職員と邦人NGO職員の安全確保については、国連や各NGOの安全対策と日本政府の安全対策とが補完し合えるように、十分な協議と準備をすべきである。
- フォローアップ
本「行動計画」において、文民分野における人材育成のあり方について「国際平和協力懇談会」のフォローアップがなされた。他方、「国際平和協力懇談会」報告書で指摘されている、自衛隊、文民警察等も含めた総合的な人材育成分野のフォローアップも、然るべくなされることが急務である。更に、国際平和協力分野での専門的な人材養成・研修、人材のリクルート、技術協力専門家等としての活用、国際機関等への派遣、派遣した人材のその後のキャリアディベロップメント支援等をより包括的かつ効果的に行うため、国際平和協力分野全体に係る有機的なメカニズムの構築に向けた具体的措置が待たれる。
また、今後の国際平和協力のための人材育成にあたっては、人材の確保、養成、活用のそれぞれに関してより具体的な目標を設定し、それを達成するための方策を検討すべきである。
アドバイザリーグループメンバー(五十音順)
浅羽俊一郎 |
(国連難民高等弁務官日本・韓国地域事務所副代表) |
池田満豊 |
(NPO)ワールド・ビジョン・ジャパン海外事業部 緊急援助・人材派遣課長 |
井上 健 |
(アジア生産性機構工業部長) |
草野 厚 |
(慶應大学総合政策学部教授) |
黒川千万喜 |
(NPO)ジャパン・プラットフォーム前事務局長(現顧問) |
田中明彦 |
(東京大学東洋文化研究所所長) |
山中子 |
(国連大学・北海道大学大学院国際広報メディア研究科客員教授) |
弓削昭子 |
(UNDP駐日代表) |
横田洋三 |
(国連大学学長顧問/中央大学法科大学院教授) |
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