[17]ルーマニア

1.ルーマニアの概要と開発課題

(1) 概要
 1989年の社会体制転換後、ルーマニアは「欧州への回帰」を目標に政治体制の民主化および経済の市場化を推進してきた。我が国もこれらの努力を支援するため1991年より対ルーマニア経済協力を開始している。
 2000年に行われた大統領・議会選挙の結果、イリエスク大統領が1996年以来大統領の地位に返り咲き、中道左派政党である社会民主党による政権(ナスターセ首相)が発足した。
 政治及び外交面では、同政権は2002年に欧州連合(EU:European Union)加盟交渉を開始したほか、2003年5月には念願ともいえる北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)加盟を果たした。EU加盟については加盟にかかる政治的基準については1997年にすでに民主的な社会であると認められており、汚職の問題や司法・内務分野での一層の改革が必要とされているものの、2004年12月の欧州理事会で加盟交渉終了が承認され、2007年1月に加盟の運びとなった。
 経済面では2000年以降、インフレも沈静化の傾向にあり、経済成長は年率約5%前後を維持するなど、マクロ経済の一応の安定を達成したといえる。しかし、こうしたマクロ経済の安定は、とりわけ国営企業における過剰ともいえる雇用を堅持するといういわば「痛みを伴わない改革」という路線を採用した結果であり、2004年10月に発表された欧州委員会の報告書により「機能する市場経済」ステータスを付与されたとはいえ、国営企業の一層の民営化促進のほか農業生産性の向上、中小企業振興、外国投資促進等多くの課題が残されている。
(2) 「ルーマニア経済に関する中期国家開発計画」
 2002年、ルーマニアがEU加盟交渉を開始するに際して、欧州委員会に提出した「ルーマニア経済に関する中期国家開発計画」では、重点項目として、1所有権の明確化と国営企業民営化の促進、2国家予算の適正管理、3税制改革の推進、4貿易促進、5産業構造の調整、6中小企業促進、7人的資源の活用、8環境保全、9地方開発を挙げている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ルーマニアに対するODAの考え方

(1) ルーマニアに対するODAの意義
 1989年以降、市場経済化を進め、現在、マクロ経済的な安定は一応達成されている。2007年のEU加盟を目指し、多くの経済・社会改革を推進・実現中であるが、EU、世界銀行、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)等の国際機関が報告書の中で共通して指摘している開発課題として環境保全、国営企業民営化の推進、貧困削減、汚職撲滅等が残されている。
 また、ルーマニアは2007年のEU加盟を最大の国家目標としており政策の多くが「EU志向」となっているが、他方で我が国ODAを高く評価している。EU内における親日国として確保することは我が国の対欧州政策上も重要であり、また、これまで実施されてきたODAが我が国とルーマニアとの二国間経済関係の発展に寄与しているという事実も踏まえ、同国と安定した協力関係を維持していく意義は大きい。
(2) ルーマニアに対するODAの基本方針
 ルーマニアは世界銀行基準による中所得国に分類されるため、草の根・人間の安全保障無償資金協力および文化無償資金協力を除く無償資金協力は行われておらず、我が国の援助は主に技術協力及び円借款を通じたものとなっている。
 ルーマニアの開発政策がEU加盟を念頭に置いたものとなることは避けられず、そうした現状の中で我が国の存在感を十分に発揮できる分野への援助が重要であり、そのためには、EUによる対ルーマニア支援との競合を避けつつも、ルーマニアのEU加盟という政策目標と矛盾せず、かつ我が国が比較優位を持つ分野への支援が有効である。
(3) 重点分野
 ルーマニア側関係省庁と現地ODAタスクフォースとの間で政策協議を行い(2004年10月)、以下を重点分野とすることを確認している。
(イ) 環境保全
 旧社会主義体制下に導入され老朽化した設備による操業が続けられるなど最も対策の遅れている分野の一つであり、エネルギー、鉱工業分野における公害対策はルーマニアにとって解決すべき緊急かつ最大の課題の一つである。これまでも我が国ODAを重点的に実施してきており、我が国の知見と技術を発揮することのできる分野である。また、ルーマニアは京都メカニズムの実施における重要なパートナーとなり得るとの観点も重要である。
(ロ) 産業育成と貿易・投資促進
 国営企業等で過剰雇用を抱えるといういわば「痛みを伴わない改革」の代償として、例えば、以下のサブセクターで未だ多くの課題を残している。
(a) 国営企業民営化(エネルギー、金融分野における民営化)
(b) 投資促進・中小企業振興
(c) インフラ整備(運輸インフラの整備)
(d) 農業(人口の約40%が第一次産業に従事する農業国であるが、農業生産性は低い。)


3.ルーマニアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のルーマニアに対する無償資金協力は0.57億円(交換公文ベース)、技術協力は7.48億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款476.24億円、無償資金協力24.57億円(以上、交換公文ベース)、技術協力76.46億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 技術協力
 技術協力としては、技術協力プロジェクト「地震災害軽減計画」を実施している。これは、補強技術の開発、耐震設計技術の改善等を図ることによって、欧州有数の地震国であるルーマニアにおいて、その被害を軽減させるための技術の向上、普及を目標としている。
(3) 無償資金協力
 無償資金協力としては、ブカレスト国立音楽大学への楽器供与として0.37億円を実施した。これは、国内唯一の国立音楽大学として数々の音楽家を輩出している同大学に、その多くが老朽化し教育活動に支障を来している楽器の購入に係る資金を供与するものである。
草の根・人間の安全保障無償資金協力として、2件を実施した。

4.ルーマニアにおける援助協調の現状と我が国の関与

 ルーマニアがEU加盟を最大の国家目標しており、最大の援助主体はEUであることから、同国に対する支援の大部分が「EU志向」となることは避けられない。EU加盟国による「Twinning Programme」はその典型である。他方、EU以外ではドナー間の援助協調は必ずしも進んでいないが、現地UNDP事務所を中心に援助協調の試みが見られる。我が国はUNDPを中心とした国連諸機関が開催するドナー会合(環境保全、中小企業振興分野等)に積極的に参加しているほか、EU支援との援助協調を図るため、現地EU代表との間で不定期の協議を開催している。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ルーマニア経済協力実績

表-6 諸外国の対ルーマニア経済協力実績

表-7 国際機関の対ルーマニア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図


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