VIII 欧州地域

1.欧州地域に対する政府開発援助(ODA)の考え方

(1) 意義
 中・東欧、バルト、旧ソ連の欧州部の国々の多くでは共産主義体制が崩壊した1989年以降、民主化及び自由化の動きが進展し、現在は民主的政権の下で市場経済化に向けて経済改革が進められている。我が国としては、こうした取組は、これら地域及び欧州全体の更なる安定と発展にとって望ましいと考えており、こうした動きを促すため、市場経済化、経済インフラの再建、環境問題等への取組に対する支援を行うこととしている。
 このような状況の中、2004年5月に欧州連合(EU:European Union)加盟を達成した国(ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロベニア、スロバキア、バルト3国(同時にEU加盟を果たしたキプロスはODA対象国ではない。))、2007年のEU加盟に向けた改革に取り組んでいるルーマニア及びブルガリア、2007年のEU加盟を標榜し、改革努力を続けるクロアチア、市場経済化等が遅れている旧ソ連諸国のウクライナ、モルドバと、民族紛争や国内の混乱の影響を受けたものの戦後復興から社会・経済の開発段階へと移行しつつあるボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニア、マケドニア、セルビア・モンテネグロと、国または地域毎の格差が生じている。また社会主義時代に対策の遅れた環境問題(大気汚染、土壌汚染等)や、疲弊した経済・社会インフラの整備など、これら諸国の抱える課題は大きい。
 1989年以降民主的政権の下で市場経済化が進められ、またEU加盟を果たしたことなどを背景に、チェコ、ハンガリー、ポーランドを中心に我が国からの直接投資は増加傾向にある。また、この地域には今後のEU加盟を目指している国も多く、それらの国々の市場経済化を支援することを通じ投資環境を整備することは、我が国との二国間関係の強化にもつながる。
 旧ユーゴを中心とする西バルカン諸国は、1990年代以降に発生した紛争の影響で改革が停滞していたが、現在は復興支援を必要とする段階を徐々に卒業しつつあり、今後は持続的な経済発展に向けた努力を必要としている。将来的にEUに加盟することが予想されるこの地域の平和定着を促し、欧州統合が進むことは、欧州の一層の安定化に資するものであり、EUとの間で戦略的パートナーシップを構築している我が国の国益にもかなっている。このような考え方から我が国は2004年4月にEUと共催で西バルカン平和定着・経済発展閣僚会合を開催し、この地域の改革努力の継続と国際社会の関与の必要性を確認した。旧ソ連崩壊後の経済混乱が直撃したウクライナ、モルドバは、現時点で欧州の最貧国となっているが、ロシアとEUの間に位置するという地政学上の重要性を有しており、これら諸国の安定と持続的発展は、欧州全体の安定にとって必要不可欠である。このような観点から、これら諸国の改革を支援する意義は引き続き大きい。
(2) 基本方針
 欧州の国々は民主化、市場経済化の努力を続け、既にEU加盟を果たしたり将来EU加盟を目指していること、環境対策が遅れた結果、大気汚染・土壌汚染等の環境問題が深刻化していること等に鑑み、これまで我が国は以下の分野を重点的に支援してきている。また、比較的所得水準の高い国が多いことから、基本的に技術協力及び円借款を中心として支援を行っている。
(イ) 市場経済移行支援
 ビジネス人材育成、投資促進支援、インフラ復旧・開発や産業育成など。
(ロ) 平和の構築・定着支援
 西バルカン諸国については、地域における平和の定着は持続的な経済発展に必要不可欠な前提であることから、これまでの人道・復興支援に継続してコミュニティ再建、地雷被災者支援などの支援を行うとともに、戦後復興支援から、EU加盟のために必要な社会・経済の改革支援へと視点を移していく。
(ハ) 環境保全支援
 大気汚染対策、省エネルギー対策など。
(ニ) EU加盟国に対する支援
 2004年にEU加盟を達成したハンガリー、ポーランド、バルト3国などの10ヵ国、また2007年の加盟を予定しているブルガリア、ルーマニアなどの国々は、政治・経済的にEUへの統合の度合いを深めていくことを踏まえ、我が国としてもより効果的な援助を目指し、支援分野等の一層の重点化を進めることが必要である。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係



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