1975年から1990年まで内戦状態にあったが、1992年に発足したハリーリ政権の下で本格的な復興事業が開始された。現在まで復興事業は国家政策の主要課題となっている。また、2000年5月には1978年以来イスラエルの占領が続いていた南部地域からイスラエル軍が一方的に撤退し、もとより後進地域であり、かつ戦争と占領により荒廃した南部地域の復興開発も重要な政策課題となった。社会階層間及び地域間格差に起因する経済的、社会的矛盾の軽減も大きな課題となっている。
復興政策が進められる中で通貨の安定、インフレの抑制、インフラの回復、一定の経済成長と民間経済の回復等、一定の成果は達成されたが、復興事業による支出の増加や歳入不足による財政収支の赤字が続き、多額の累積債務が生じている。2002年11月、ハリーリ首相(当時)がシラク仏大統領の支持を得てレバノン財政支援国際会議(パリII会議)が開催され、欧州連合(EU:European Union)諸国、湾岸諸国、米国、カナダ、我が国(新藤外務大臣政務官(当時)が出席)、マレーシア、世界銀行、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)等の出席の下、湾岸諸国を中心に低利融資等のスキームで総額40億ドル強の支援が表明された。また、同年12月、レバノン銀行業界は約40億ドルの無利子短期財務証券を引き受けることに合意した。こうして当面の財政危機は免れたが、パリII会議でレバノンが公約した行財政改革、民営化等の改革は遅延しており、累積債務問題は現在も喫緊の課題として残されている(2004年8月末の公的債務総額は約323億ドル)。
外交面では、レバノンはいまだ紛争状態にあるイスラエルとは外交関係を有さず、隣国シリアとの極めて密接な協力関係にある。イスラエルに対する厳しい外交姿勢が米国との間で問題となる場合もあるが、米国、フランスをはじめとするEU諸国、我が国等との関係を重視して多角的な外交関係の維持に努めている。欧米、湾岸、アフリカ諸国等に1,000万人以上居住している言われるレバノン系移民及び在外レバノン人の存在もレバノンの多角的な国際関係の背景となっており、彼等の存在は国際ビジネスや本国への送金などにより経済の維持にも貢献している。
(1) レバノンに対するODAの意義
レバノンは中東和平プロセスの当事国であること、内戦終結後の国土の復興やイスラエル撤退後の南部地域の開発がレバノンにとって緊急の課題であり、中東地域の安定にとっても重要であることなどから、レバノンとの良好な関係を踏まえ、中東和平プロセス支援の一環としてレバノンに対するODAを実施している。
(2) レバノンに対するODAの基本方針
レバノンの一人当たりの国民総所得(GNI:Gross National Income)は比較的高い水準(4,040ドル、2003年、世界銀行)にあるため、環境案件を中心とした円借款、草の根・人間の安全保障無償資金協力及び技術協力により、同国の政情、治安状況及び国内経済状況(特に財政の健全化)等を見極めつつ援助を実施してきている。
(3) 重点分野
円借款では環境案件を中心として優良案件を実施することとしており、草の根・人間の安全保障無償資金協力では、保健、教育、身障者支援、環境・衛生、地雷等の分野での案件を対象としてきている。
(1) 総論
2003年度のレバノンに対する無償資金協力は2.07億円(交換公文ベース)、技術協力は3.51億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款130.22億円、無償資金協力17.37億円(以上、交換公文ベース)、技術協力11.06億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
1996年度に初の円借款を供与して以降の供与実績はない。同国は中進国にあたるため、円借款での支援を検討する場合には、基本的に4分野(環境・人材育成・地震対策・格差是正)に限定されることになる。
(3) 無償資金協力
2003年度には、保健、教育、身障者支援、環境・衛生、地雷等の分野で文化無償及び草の根・人間の安全保障無償資金協力を合計24件実施した。
(4) 技術協力
海水養殖の専門家を2002年9月に派遣した。
小規模無償支援ドナー国会合が四半期毎に開催され、我が国もこうした援助に関する政策協議に参加している。
レバノン社会では宗派主義が強く、イスラム教のスンニ派、シーア派、ドルーズ派等、キリスト教のマロン派、ギリシャ正教、ギリシャ・カトリック、アルメニア正教等、大小18にも上る宗派が存在しており、草の根・人間の安全保障無償援助に際しては、こうした宗派間のバランスに留意する必要がある。