(1) 概要
政治面では、2002年11月3日の総選挙でイスラム系政党の流れを汲む公正発展党(AKP:Adalet ve Kalkinma Partisi)が圧勝し、同年11月18日に第58代ギュル内閣が成立した。2003年3月9日、憲法改正により国会議員資格を回復したエルドアンAKP党首がシールト県やり直し選挙で当選し、同14日第59代エルドアン内閣が発足した。
外交面では、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)、欧州安全保障・協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)、経済協力開発機構(OECD:Organization for Economic Cooperation and Development)加盟国及び欧州連合(EU:European Union)加盟候補国として、対外関係上の比重は西側欧米諸国寄りを基調とする一方、ソ連崩壊後に誕生した中央アジア、コーカサスのトルコ系諸国との関係の強化にも努めているほか、中東諸国とも経済関係を中心に関係強化を図っている。当面の最重要課題はEU加盟問題であり、トルコのEU加盟交渉開始時期を2004年12月の欧州理事会で決定することに全力を挙げて、法整備等を実施してきた。その結果、10月6日に発表された加盟候補国にかかる欧州委員会報告書でもトルコとの加盟交渉開始が勧告された。右勧告を受けて、12月17日の欧州理事会においてEUがトルコとの加盟交渉開始に係る決定を行った。
経済面では、トルコ政府は、2度の金融危機(2000年11月、2001年2月)後国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)等より金融支援を受けており、IMFとの合意による経済改革プログラムに基づき、経済政策を運営。同プログラムは概ね順調に推移しており、景気は拡大、物価上昇率も鈍化、為替相場も安定し、債務残高(国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)比)も低下するなど、これまでのところ経済パフォーマンスは良好である。他方で、経済基調は先進国やEU諸国と比べると健全とは言い難く、外的ショックを受けやすいことから、今後とも金融市場等の動向への注視が必要である。
(2) トルコにおける経済開発計画
トルコで本格的な経済開発計画が導入されたのは1963年からであり、1960年代にトルコ経済の調査研究、長期の経済開発計画を策定する実施機関として国家計画庁が創設され、1963年に同庁より経済全般をカバーする長期経済開発計画が策定された。2000年12月に、2001年から2005年までの第8次5か年計画が国家計画庁により策定された。しかし、2000年12月以降、2度の金融危機を経てトルコの経済情勢は激変しており、IMF主導の経済改革プログラムについても見直しが行われたことなどを受けて、第8次5か年計画よりもIMF主導の経済プログラムが優先されている。また、将来的なEU加盟を目的として、EU基準に適合するように3か年の主要国家開発計画(2004年~2006年)を策定しているところである。
(1) トルコに対するODAの意義
トルコは、アジア、中東及びヨーロッパの結節点に位置し、その地政学的重要性が高く、穏健かつ現実的な外交路線を基調とし、先進諸国との協調並びに隣接する東欧諸国、旧ソ連新独立国家(NIS:Newly Independent States)諸国及び中東諸国との善隣協力関係を志向し、地域の安定化に貢献している。また、大きな人口を有し、市場経済・対外開放政策の推進を通じて、経済的潜在性が高いことから、トルコとの良好な関係を踏まえ積極的にODAを実施してきている。
(2) トルコに対するODAの基本方針
トルコは一人当たり国民総所得(GNI:Gross National Income)が比較的高い水準にある(2,790ドル、2003年、世界銀行)ことから、一般無償資金協力の対象ではなく、円借款及び技術協力を中心に援助を実施している。
(3) 援助重点分野
1998年に実施した経協政策協議において以下の4分野を重点的に支援していくことを確認した。また、1999年に発生したトルコ北西部地震による被害の復興支援の観点から、地震災害復興・防災体制強化についても支援していく方針。
(イ) 環境改善:環境負荷の軽減、都市環境改善、森林・土壌保全、海洋資源管理
(ロ) 経済社会開発のための人材育成:職業(技術)教育強化、交通網整備拡充、先端技術導入
(ハ) 地域間格差の是正のための農漁業及び保健医療等基礎生活分野の改善:農漁業分野の技術・普及、東部・南東部アナトリア及び黒海沿岸地域の開発、保健医療サービスの質的改善とアクセスの向上
(ニ) 南南協力支援:主に中央アジア・中東・コーカサス・バルカン地域諸国との南南協力支援
トルコの国際化及び地域安定に資する南南協力について、トルコ国際協力事業団(TICA:Turkish International Cooperation Administration)との連携も視野に入れつつ、積極的に案件形成を行っていく必要がある。
(1) 総論
2003年度のトルコに対する円借款は268.26億円、無償資金協力は1.04億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は13.51億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款4,513.82億円、無償資金協力14.62億円(以上、交換公文ベース)、技術協力363.76億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
運輸、エネルギー、水供給分野をはじめとするインフラ整備を中心に実施してきている。2003年度は「アンカラ給水計画」に対し268.26億円の円借款を供与した。
(3) 無償資金協力
文化無償協力をほぼ毎年実施しているほか、非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)等の活動を支援するため、草の根・人間の安全保障無償資金協力を2000年に導入し、2003年度には、草の根・人間の安全保障無償資金協力を5件実施した。
(4) 技術協力
保健・医療、運輸、鉱工業等の幅広い分野で、技術協力プロジェクト、研修員受入、専門家派遣、開発調査等を行っている。また、1996年度より中央アジア・コーカサス、中東欧諸国等を対象とした第三国研修を実施している。
(5) その他
1999年8月のトルコ北西部地震に際しては、国際緊急援助隊や耐震診断分野の専門家、2次にわたる医療チームの派遣、仮設住宅の供与及びその建設指導の専門家チーム派遣に加え、テント・毛布等の緊急援助物資の供与といった包括的な災害援助の実施とともに、236億円の商品借款を供与したほか、2002年3月には、イスタンブール市内の4つの長大橋梁の耐震補強のための円借款を供与した。これらの援助は、トルコ側政府関係者・一般国民より高い評価を得ている。
国家計画庁は、公共投資に関して強力なイニシアティブを発揮し、各国からの援助の割り振りを行っている。例えば、トルコ政府が重点課題としている東西の地域間格差については、我が国からの援助(技術協力)を東部黒海(DOKAP:Dogu Karadeniz Projesi)地域を中心に割り振りたいとの意向である。
(1) 地域間格差の是正
経済開発の過程で生じた歪み、特に東西地域間の格差の是正に資する協力について現地ODAタスクフォースで、情報収集・分析を行ない、我が国支援の方向性を検討している。ただし、国内治安対策、国際河川の水資源問題等、慎重に対応すべき点がある。
(2) EU加盟に対する動き
2004年12月、欧州理事会においてトルコとの加盟交渉を2005年10月3日に開始することが決定された。加盟交渉は、トルコの進路、開発の方向性、実施体制に大きな影響を与えることになるため、動向について十分現地ODAタスクフォースで情報収集・分析を行い、我が国支援の方向性を検討していく必要がある。