[11]チュニジア

1.チュニジアの概要と開発課題

(1) 概要
 1987年のベン・アリ政権誕生以降、複数政党制の導入、数次にわたる大統領選挙・国民議会選挙の実施等を通じて民主化の推進に努力しており、2004年10月の選挙で、ベン・アリ大統領は国民の信任を受け4選を果たした。良好な経済成長も背景として政情は安定している。外交方針は、全体として穏健かつ現実的であり、フランス、ドイツ、イタリアをはじめとする欧州連合(EU:European Union)諸国との関係緊密化や北アフリカ諸国間での協力関係の強化を通じて地中海諸国間の関係強化を図っている。また、アフリカの一国として国連及びアフリカ連合(AU:African Union)等の活動を通じたアフリカ問題への関与をはじめ、アフリカ諸国との南南協力を推進しているほか、アラブ世界の一員として中東和平やイラク問題にも積極的に関与している。
 チュニジアは温暖な気候に恵まれ、伝統的に盛んな農業(主な農産物は小麦、大麦、柑橘類、オリーブ、ナツメヤシ等)に加え、天然資源としては燐鉱石のほか、少量ながら石油、天然ガスも産出するほか、食品加工、セメント、化学、さらには、近年急速に成長している皮革・繊維産業、情報通信産業、観光業等を擁し、多様な産業構造を有している。観光業は70年代以降著しい成長を遂げ、外貨収入の柱の一つとなっている。工業製品の輸出は欧州向けを中心として伸びている。また、欧州在住の出稼ぎ労働者からの送金も依然として重要な外貨収入源となっている。
 政府は経済の自由化を推進しており、1995年7月に地中海諸国で初めてEUとの自由貿易協定を締結したほか、アラブ諸国との自由貿易地域の創設にも着手している。他方、貿易の8割を欧州に依存しているため経済の動向は欧州の景気に大きく左右されること、2008年にはEUとの間の関税障壁が基本的に撤廃されること、灌漑農地が少ないため農業生産は天候に大きく左右されること、若年層を中心として高い失業率(14.3%)を抱えていることなど、多くの課題を抱えている。
(2) 経済社会開発5か年計画
 現在、チュニジア政府は第10次経済社会開発5か年計画の下、国際競争力の向上、民間セクターの生産性向上、地域間格差是正等を図る経済政策を実施している。
 2002年7月に発表された第10次経済社会5か年計画(2002年~2006年)は、年平均5.5%の経済成長の達成、年平均7万6,000人の新規雇用創出、国民貯蓄の対国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)比25.2%までの増加、対外債務の抑制を主要目標とし、各セクター別計画(農業・水産業、手工業、エネルギー、交通インフラ、IT、社会開発、環境分野)を設定して、世界経済への統合を目指した経済のレベル・アップ、経済の自由化を図るとともに、金融システムの改革強化、保健分野の改革、税制改革、行政システムの整備、教育・職業訓練システムの改革等を目指している。
 また、期間中の総投資額を約620億DT(チュニジア・ディナール)と算定し、外国投資として50億DT、主要国・国際機関からの援助として7.5億DTの無償資金と52億DTの有償資金を期待している。開発上の主要課題は、産業競争力の強化、水資源管理・開発、農業・水産業開発、観光振興、環境問題及び地域間格差の是正である。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.チュニジアに対するODAの考え方

(1) チュニジアに対するODAの意義
 チュニジアは、伝統的に親日的な国であり、穏健かつ現実的な外交政策をとり、中東地域やアフリカにおける諸問題への対応に関して我が国との戦略的パートナーシップの構築・強化を目指していること、対仏語圏諸国支援の文脈において我が国の経済協力を通じた対アフリカ外交を効果的に展開する上での重要な拠点であることなどから、チュニジアとの良好な関係を踏まえODAを実施している。
(2) チュニジアに対するODAの基本方針
 円借款及び技術協力を中心に積極的に援助を実施しており、1998年4月に経済協力政策協議を実施し、農業及び水産業の開発・振興、水資源開発、基礎インフラ整備、地方開発、環境分野の5分野を重点分野とすることを確認した。さらに、2002年10月に策定したチュニジア国別援助計画は、チュニジアの開発上の主要課題等を踏まえた上で、特に優先的に取り組むべき重点分野・課題として、産業のレベル・アップ支援、水資源開発・管理への支援、環境への取組に対する支援を挙げている。なお、上記以外の分野、例えば、基幹産業である農業・水産業や貧困地域の開発についても、現状や支援ニーズを正確に分析した上で必要かつ適切な支援の実施を検討することとしており、現地ODAタスクフォースで対応していく。また、重点分野への援助実施にあたっては、何れの分野においても共通課題である人材育成等の側面に配慮することとしている。なお、チュニジアとは1999年3月に「アフリカにおける南南協力推進のための日・チュニジア三角技術協力計画」を署名し、アフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)プロセスの一環として、チュニジアにおける我が国の支援プロジェクト等を拠点に両国で協力して他のアフリカ諸国への支援を実施している。
(3) 重点分野
 チュニジア国別援助計画では以下の3分野を重点分野としている。
(イ) 産業のレベル・アップ支援
 全ての分野において国際競争力をつけることが必要であるが、我が国の得意分野も踏まえ、運輸及び情報通信セクターを中心とした経済インフラ、生産・品質管理、生産性向上、中小企業育成、技術開発、職業訓練等の分野を支援する。
(ロ) 水資源開発・管理への支援
 今後は水資源開発に対する支援だけではなく、水需給管理、表流水・地下水の管理を含め、総合的な水資源管理に対する支援を我が国の経験及び技術力を活かして進めることとしている。なお、特に開発の遅れている地方や貧困地域の振興という観点からの配慮を行うこととしている。
(ハ) 環境への取組に対する支援
 水質管理、大気汚染、廃棄物の処理、土壌劣化防止、砂漠化防止、再生可能エネルギーの導入、地下水資源の有効利用等の分野でチュニジア側が進めている環境政策に沿った協力を進めることとしている。また、円借款及び水産無償案件の実施にあたっては、これまでどおり環境に十分配慮することとしている。

3.チュニジアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のチュニジアに対する円借款は80.26億円、無償資金協力は0.70億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は10.71億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款1,784.83億円、無償資金協力35.84億円(以上、交換公文ベース)、技術協力164.50億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 1993年以降毎年円借款を供与しており、1996年からは年次供与国となった。2003年度には「北部地域導水計画」に対して80.26億円の円借款を供与した。
(3) 無償資金協力
 一人当たり国民総生産(GNP:Gross National Product)が比較的高い水準にあることから一般無償資金協力の対象ではないが、2003年度には、教育分野を中心に草の根・人間の安全保障無償資金協力計7件を実施した。
(4) 技術協力
 保健・医療、水産業等の分野において、技術協力プロジェクトをはじめ、研修員受入、青年海外協力隊及びシニア海外ボランティア派遣等を積極的に実施している。1999年3月の「アフリカにおける南南協力推進のための日・チュニジア三角技術協力計画」に関する枠組み文書の署名を受け、1999年よりアフリカ諸国を対象にした第三国研修を開始し、2003年度には主として仏語圏アフリカ諸国を対象に約100名に対する研修が実施された。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対チュニジア経済協力実績

表-6 諸外国の対チュニジア経済協力実績

表-7 国際機関の対チュニジア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件

プロジェクト所在図


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