(1) 概要
アサド前大統領死後、バッシャール大統領への政権委譲は円滑に行われた。バッシャール大統領は、一定の留保を付して自由化、開放路線を鮮明にし、急激な変革は避けつつも法律改正を含む諸措置を講じてきている。2001年後半以降、政治改革よりも経済改革を優先する方向性が強まったが、国内の既得権益層の抵抗や非効率な行政制度の弊害等から改革は必ずしも円滑には進捗していない。シリアは、中東和平問題をはじめとする地域情勢の鍵を握る重要なプレーヤーである。故アサド前大統領は、冷戦終結と湾岸危機発生に代表されるような中東における地政学的構造の変動を受け、米国主導による中東和平プロセスへの参加を決意したが、イスラエルとの和平交渉は紆余曲折を経て、2000年3月のジュネーブにおけるアサド・クリントン会談を最後に交渉は暗礁に乗り上げ、再開の目途は立っていない。
シリア経済は、非効率な国営企業の存在等に起因し、1990年代後半以降低迷傾向にあったが、2001年以降は農業生産の回復、高水準の原油市況に支えられ、回復している。故アサド大統領政権の後期に若干緩和されたものの、厳格な社会主義経済体制がとられてきた。バッシャール大統領就任以降、改革が進められており、民間銀行、外国銀行の設立、証券市場設立の決定等が行われたが、改革のスピードは就任当初の期待と比し、漸進的なものとなっている。
(2) 5か年開発計画
第9次5か年計画において掲げられている基本理念、目的、政策及び施策をとりまとめると次の4点に集約される。
(イ) 投資促進による経済改革:ハード、ソフト両面の投資環境改善
外国資本及び民間資本からの投資の促進によって、経済改革を進める意図が明らかにされている。投資環境の改善を主要施策として、投資原則の確立及び投資を呼び込む際に必要となるソフト、ハード両面のインフラ整備を進めるとしている。
(ロ) 近代的な産業導入:既存産業の合理化と新規産業の創出
既存産業の更なる合理化、近代化を進め足元を固めつつ、技術産業、情報産業等の近代化産業の導入を行うとともに、原油、綿花等の非加工製品の輸出を抑制し、これに付加価値をつける新規産業の創出を進めることとしている。
(ハ) 国民の生活レベルの向上:失業対策と所得増加
約11%(2001年)といわれる高い失業率を低下させるための対策を課題としている。政府として上述の政策によって雇用機会を創出するとともに、労働者の質の確保に努めている。また、国民生活のコストと収入のバランスが関心事となっており、所得を増加させる施策を打ち出している反面、従来の生活補助政策からの転換を試みていることは注目に値する。他方、基礎生活分野(BHN:Basic Human Needs)分野への配慮による国民生活の質の向上にも言及しており、初等教育、就学前教育の拡充等が掲げられている。
(ニ) 人口と環境問題への取組:2020年を目標年とした人口施策
2020年を目標とした人口施策について言及しており、都市問題、エネルギー分野、社会経済インフラ分野での取組みを進めるとしている。