[5]イラン

1.イランの概要と開発課題

(1) 概要
 1997年8月に発足したハタミ政権は、「法の支配」、「言論の自由」等の政治理念の下、「市民社会の形成」を目指す諸改革を推進してきた。保守派による圧力が高まるなか、2001年6月にハタミ大統領は再選されたが、その後も保守派の抵抗は激しく、2004年の第7期国会選挙では、保守派の憲法擁護評議会が現職議員を含む多数の改革派系立候補者を認めず、保守派が大勝した。
 外交面では、ハタミ政権発足以降、緊張緩和を目指す対話路線が強く打ち出され、欧州諸国やイスラム革命後関係が悪化していた近隣諸国との関係改善が進んでいる。特に、欧州諸国との間では、要人往来や欧州企業の経済進出が活発化している。他方、国際社会には、イランをめぐって核開発、中東和平プロセス反対派への支援、人権問題等に関する懸念等が存在しており、こうした懸念を払拭するための更なる努力がイランに求められている。
 経済面では、ハタミ政権は、経済構造調整政策の推進や外貨導入を内容とする第3次経済社会文化開発5か年計画(2000年~2005年)を実施している。イランの原油確認埋蔵量(2004年時点)は1,037億バレルで世界の11.4%を占め、我が国にとって第3位の原油供給国である(2003年シェア15.9%)。
(2) 第3次経済社会文化開発5か年計画
 イラン・イスラム憲法に基づいて長期計画に従った経済運営が行われている。1989年に最初の5か年計画が策定され、現在は2000年3月~2005年3月までを対象とした第3次経済社会文化開発5か年計画が実行されている。
 第3次5か年計画では、将来的に高まることが予想されていた失業率に対処するための雇用創出が重点となっており、計画期間中に380万人の雇用を創出することが目標とされている。また、この目的の達成のために、計画期間中に年率6%の経済成長を達成することを目指している。こうした目標を達成するため、国営企業の民営化促進、民間企業育成・外資誘致、経済の自由化・規制緩和政策、雇用政策の推進等の経済開発政策とともに、水・農業政策、工業・鉱業・商業政策、エネルギー政策等の各セクターで実施すべき社会開発政策が盛り込まれている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.イランに対するODAの考え方

(1) イランに対するODAの意義
 イランは、中東地域における大国であり、ホルムズ海峡を擁し、イラク、アフガニスタン等の隣国であるなど地政学上重要な国であるほか、世界有数の産油国であり、我が国にとって主要な原油供給国である。こうしたイランの重要性及び同国との伝統的に緊密な関係を踏まえ、イランが中東地域の安定勢力となるために、ODAを実施している。
(2) イランに対するODAの基本方針
 第3次経済社会文化開発5か年計画及び1999年7月に実施した経済協力政策協議の方針に沿った案件に対し、技術協力を中心として草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施している。また、自然災害に対する人道支援として、1990年、1997年、2002年、2003年の地震災害等に対し、国際緊急援助隊の派遣、緊急援助物資等の供与を行ってきた。
(3) 重点分野
 1999年7月に約10年振りとなる経済協力政策協議を実施し、以下の分野を重点分野とすることで合意している。
(イ) 農業生産の拡大
(ロ) 職業訓練
(ハ) 市場経済移行支援及び経済インフラの整備
(ニ) 環境保全及び公衆衛生の改善
(ホ) 水供給

3.イランに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のイランに対する無償資金協力は18.08億円(交換公文ベース)、技術協力は16.72億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款810.28億円、無償資金協力34.23億円(以上、交換公文ベース)、技術協力178.20億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 2000年の「マスジット・エ・ソレイマン水力発電計画(II)」への供与以降、新規円借款の供与実績はない。
(3) 無償資金協力
 2003年12月のケルマン州バムで発生した地震への支援として、緊急無償及び草の根・人間の安全保障無償を供与している。
(4) 技術協力
 2002年度より技術協力プロジェクトを新たに2件開始するなど、ハタミ大統領訪日のフォローアップとして対イラン技術協力に力を入れてきている。開発調査については、農業及び環境保全分野における案件を引き続き実施している。

4.留意点

 核開発問題等、イランをめぐる国際社会の懸念を踏まえつつイランに対するODAを実施していく必要がある。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対イラン経済協力実績

表-6 諸外国の対イラン経済協力実績

表-7 国際機関の対イラン経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図


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