[2]カザフスタン

1.カザフスタンの概要と開発課題

(1) 概要
 1991年12月の独立以降、ナザルバーエフ大統領の強い指導力の下、内政は安定している。大統領権限が強いが、議会も次第に権威を高めており、2004年秋に行われた下院選挙では初めて政党を中心とした選挙戦が展開された。なお、1997年12月、首都をアルマティから同国中央部にあるアスタナに遷都した。
 カザフスタン北部にはソ連時代に多くの核実験が行われたセミパラチンスク旧核実験場があり、また、独立後の一時期、国内にソ連が残した核兵器が存在したが、1993年12月に非核兵器国として核兵器不拡散条約(NPT:Non-Proliferation Treaty)に加入し、また、我が国等と核兵器の廃棄に係る協定を締結した。
 外交面の優先課題は、近隣地域の統合プロセスの強化と二国間協力の増進にあり、「ユーラシア経済共同体」、「上海協力機構」等の地域組織に積極的に参加し、また、ロシア、中国等の近隣諸国、及び、米国、EU諸国、我が国等との関係強化を重視している。国連、欧州安保協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)の活動にも積極的であり、また、世界銀行、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)、欧州復興開発銀行(EBRD:European Bank for Reconstruction and Development)等とも良好な関係を維持し、市場経済化、開発に取り組んでいる。
 経済面では、エネルギー資源(石油、石炭)、稀少金属を含む鉱物資源が豊富にあり、これらを利用した製鉄業がソ連時代に発展した。一方、豊富な埋蔵量が期待されながら未開発であったカスピ海東岸・北部での石油資源がソ連末期より世界の注目を集め、現在、カシャガン油田など大規模油田の開発が進められている。農業については、ソ連時代に開拓された大穀倉地帯が北部及び西部に広がっている。小麦は輸出余剰能力を有するも、この分野での投資が進んでおらず、設備の近代化と制度整備が喫緊の課題となっている。
 独立以来、旧ソ連崩壊の影響を受け苦しい状況が続いたが、経済改革によりインフレの沈静化などマクロ経済面での成果が現れ、1996年からは、ロシア金融危機等により打撃を受けた1998年を除いては、プラス成長を達成している。1999年には、4月に変動為替制を導入し(=実質的通貨切り下げ)、国際競争力が回復したことに加え、石油をはじめとする国際資源市場の回復と穀物の豊作に助けられ、成長率はプラス2.7%を達成した。また、2001年に13.2%、2002年に9.8%、2003年に9.2%と高い成長率で経済は好調を維持し、経済改革に関してはインフレ抑制や生産向上など成果を上げており、「経済移行国」を脱し、「市場経済国」として国際経済競争の中に入りつつある。他方で地域間及び業種間の所得格差の拡大といった社会問題を引き起こしており、バランスのとれた発展の実現が課題となっている。
 二国間の貿易経済関係は十分に活発とは言えないが、我が国からの主要輸出品目は石油・ガス用鋼管、自動車などの工業製品、主要輸入品目はフェロアロイやチタン、クロム等鉱石である。また、カスピ海の油田開発には日本企業も参加している。
(2) 開発計画
 カザフスタンは、ナザルバーエフ大統領が1997年10月の年次教書演説の中で、国の長期的な政策方針である「2030年までの長期発展戦略」を発表し、同戦略に基づき、いくつかの経済発展計画が承認され、経済改革が進められている。
(イ) 「2030年までの長期発展戦略」
 優先課題は以下のとおり。
 国家安全保障の確立、内政的安定と国民の連帯、市場経済に基づく経済成長(外国投資導入、貯蓄増大)、健康、教育、福祉の増進、石油・ガスを中心としたエネルギー資源の開発及び輸出を通じた経済発展並びに国民の生活水準の向上、運輸・通信を始めとするインフラの整備、高度な専門性を有する公務員の養成及び組織の確立によるプロフェッショナルな国家運営
(ロ) 「2001~2005年までのカザフスタンの社会・経済発展計画」
 「2030年までの長期発展戦略」の政策課題を具体化したもので、優先課題は以下のとおり。
 経済の自由化を通じた競争力の発展、貧困対策と行政改革の実施、製造業の再生及び人材の育成、農業発展プログラムの実現、ITの導入(電子政府の創設等)、教育・保険部門改革の促進、地方自治改革(権限の地方への移譲)
(ハ) 「2003~2015年までの産業・技術革新発展戦略」
 製造業の育成を通じた経済の多角化による資源偏重からの脱却を目指し、2003年5月に採択したもので、基本方針は以下のとおり。
 生産の近代化及び設備の更新、科学研究並びに新技術の開発・導入、健全な投資ビジネスの支援、投資誘致のための税制上の特恵付与

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.カザフスタンに対するODAの考え方

(1) カザフスタンに対するODAの意義
 カザフスタンはソ連崩壊後の新たな国際情勢において地政学的に重要な位置を占めており、同国の民主化・市場経済導入の動きはODA大綱の基本方針の一つである「途上国の自助努力支援」の観点からも好ましい。また、カスピ海地域は石油等のエネルギー資源が豊富で、同国は国際エネルギー市場への重要な供給者となることが見込まれるなど、国際的なエネルギー安全保障の観点からも重要である。
 加えて、2004年8月に川口外務大臣(当時)の中央アジア諸国訪問の際に「中央アジア+日本」対話が立ち上げられたが(於カザフスタン)、今後同対話を通じ、同国を含めた中央アジア諸国の地域内協力の促進が期待されている。
(2) カザフスタンに対するODAの基本方針
 2002年11月の政策協議で設定した「市場経済に基づく国造りのための制度整備・人材育成」、「運営・管理体制も含めた経済・社会インフラの整備」及び「体制移行や環境問題からくる社会的困難の緩和」の重点分野で、我が国は積極的な支援を行っている。
 こういった事情を踏まえ、我が国はカザフスタン固有の援助ニーズに応じた支援を継続するとともに、中央アジア地域の地域内協力の進展に資するとの観点も加味しつつ、経済協力を実施していく考えである。今後、現地ODAタスクフォースも交え、国別援助計画を策定予定である。
(3) 重点分野
 上記の各重点分野の下で我が国が取り組むカザフスタンの開発課題は以下のとおり。
(イ) 市場経済に基づく国造りのための制度整備・人材育成
 -市場経済の運営に関する法制度やシステム面での整備
 -市場経済メカニズムを最大限発揮するための幅広い分野での人材開発
(ロ) 運営・管理体制も含めた経済・社会インフラの整備
 -既存インフラを最大限活用し、中長期的かつ広域的視点から必要性の高い公共事業の検討
 -運輸インフラである道路網、鉄道網及び空港間を利用した効率的・効果的に行うネットワークの構築
 -インフラ施設整備後の運用、維持管理を踏まえた整備計画の立案
(ハ) 体制移行や環境問題からくる社会的困難の緩和
 -医療サービス水準の向上及び都市部と地方部の所得格差を反映した地域間格差などに係る課題への対応
 -水資源問題、砂漠化及び工業地帯での水銀、大気、土壌汚染等の環境問題への迅速な対応


3.カザフスタンに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のカザフスタンに対する無償資金協力は5.45億円(以上交換公文ベース)、技術協力は9.30億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款887.88億円、無償資金協力56.66億円(以上、交換公文ベース)、技術協力87.15億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 これまで運輸インフラ案件(鉄道、橋梁、空港)等に対し供与を行ってきており、2001年度には「アスタナ上水道整備計画」へ円借款の供与を行った。
(3) 無償資金協力
 保健医療分野での一般プロジェクト無償案件を実施してきているが、2003年度には「農村地域水供給計画」を実施した。
(4) 技術協力
 「カザフスタン・日本人材開発センター(日本センター)プロジェクト」を開始し、ビジネス・コース等が好評を博している。また、同国及び国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)からの要請を受けて「セミパラチンスク支援東京国際会議」を1999年9月東京で開催し、同会議における支援表明に基づき、専門家派遣、医療機材供与等の支援を実施中である。開発調査は、鉱物資源開発、道路・航空輸送、灌漑、環境等の分野で実施しており、また新首都アスタナの都市計画に資するマスタープラン作りも行った。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対カザフスタン経済協力実績

表-6 諸外国の対カザフスタン経済協力実績

表-7 国際機関の対カザフスタン経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図


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