[6]ブータン

1.ブータンの概要と開発課題

(1) 概要
 1972年に即位したジグメ・シンゲ・ワンチュク現国王は、前国王が敷いた近代化・民主化路線を継承し、国家開発計画に意欲的に取り組んでいる。国王に対する国民の信望は厚く、政情は基本的には安定している。1998年6月には国王主導による国政改革が行われ、国会により選出された閣僚が国王に代わり内閣の運営を行うなど、民主化に向けた取組が進んでおり、憲法の制定に向けた作業や、地方分権に向けた取組も進行中である。
 外交面では、非同盟中立政策と善隣友好外交を基本方針としているが、インド・ブータン条約により特殊な関係(インドによる対外関係への助言)にあるインドとの間で、引き続き緊密かつ良好な関係を維持しており、インドはブータンの最大の援助国となっている。
 経済面では、畜産部門も含めた農業が国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の34%、就業人口の79%を擁する最大基幹産業である。しかし、地理的制約により農地の規模も小さく、灌漑施設の整備や農業機械の導入の遅れ、農産物生産地域から市場へのアクセスの不備等により、依然として小規模な地域自給型の労働集約的産業が中心となっている。このような状況下において、ブータン政府は、我が国のブータンに対するODAの中で、ブータン国内の農民に対する小型の農業機械の供与を可能とする食糧増産援助にトップ・プライオリティーを置いている。
 社会開発面では、2001年度において、出生児平均余命(62.5歳)、成人識字率(47%)、初・中・高等教育の純就学率(33%)となっており、途上国の中でも低い水準にある。
 治安面では、2003年12月、ブータン政府は、ブータン領内に侵入しブータン南部地域にキャンプを設営していた過激派組織(インド・アッサム州においてインドからの分離独立運動を行っているアッサム統一解放戦線等)掃討のための軍事行動を開始し、短期間のうちに過激派のキャンプを一掃した。但し、ブータン南部地域においては、引き続き治安情勢に警戒を要する。
(2) 「第9次5か年計画」
 2002年7月に始まった第9次5か年計画においては、インフラ整備(道路網、配電網、通信網・ITの整備)、社会サービスへのアクセス改善(農村整備、基礎的教育・医療・飲料水・衛生へのアクセス確保)、良い統治の確保(地方分権の推進)等に重点が置かれている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数

2.ブータンに対するODAの考え方

(1) ブータンに対するODAの意義
 1964年のコロンボ・プランによる西岡京治専門家(故人)の派遣による農業分野での協力以来の我が国のブータンに対するODAは、両国間の友好関係の礎となり、国際場裡(国連人権委員会における「北朝鮮の人権状況決議」の採択等)における我が国主張への理解にもつながっている。
 ブータンは、人口約90万人の小国であるにもかかわらず、円借款を除く我が国のODAスキームが広範に展開し、着実に成果を上げてきていることから、我が国ODAの効果的な実施を考える上で、また我が国国民に対するODA広報を行ううえで、格好の題材となりうる。
(2) ブータンに対するODAの基本方針
 我が国は、ブータンとの友好関係を踏まえ、また同国が急峻なヒマラヤ山中にある内陸国という不利な条件の中で経済開発に努めている姿勢を評価し、伝統文化の保護、環境保護と自然資源の持続的活用、均衡のとれた平等な開発等、国民が幸福感を持って暮らせる社会を最終目標とする「Gross National Happiness(GNH)」を開発の基本理念として掲げているブータンに対し、その理念の実現を支援するODAを実施する。
(3) 重点分野
(イ) 農業・農村開発
 農業基盤整備(農業機械化の促進を含む)、農業技術開発・普及
(ロ) 経済基盤整備
 道路・橋梁の整備改善、地方電化の促進、通信・放送の拡充改善
(ハ) 社会開発
 教育機会の拡充、保健医療(感染症の予防を含む)の充実、公衆衛生の普及
(ニ) 良い統治
 地方分権の推進

3.ブータンに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のブータンに対する無償資金協力は10.32億円(交換公文ベース)、技術協力は7.75億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、無償資金協力は215.62億円(交換公文ベース)、技術協力82.07億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 無償資金協力については1981年度より、農業分野、及び、同国が後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)であることを考慮し基礎的インフラ整備を中心に協力を行ってきており、2003年度は、道路整備・維持管理に必要な機材の供与の他、2000年度から継続している同国の安全な交通路確保のための橋梁架け替え計画及び草の根・人間の安全保障無償を実施した。
(3) 技術協力
 技術協力については、青年招聘を含む研修員受入れ、専門家派遣、青年海外協力隊派遣、シニア海外ボランティア派遣等各種形態による協力を実施している。2003年度は、行政、社会基盤、人的資源、保健医療、農業等を重点分野として協力を実施した。開発調査については、再生可能代替エネルギーによる地方電力化の為の調査を開始した。

4.留意点

 対ブータンODAの実施に際しては、南部の治安情勢の推移を見極めつつ対応する必要がある。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ブータン経済協力実績

表-6 諸外国の対ブータン経済協力実績

表-7 国際機関の対ブータン経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図


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