(1) 概要
インドは世界第2位の人口大国であり、1991年に8億4,600万人だった人口は、2002年には10億4,860万人へと増加した。人口増は10年間で1億8,000万人に及ぶ。実質国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率は、1947年に独立して以来1970年代まで3~4%程度と緩慢であったが、部分的な自由化政策が実施された1980年代には平均5.6%に高まった。1990年代には1991年の通貨危機を発端として本格的な経済自由化・対外開放政策が推し進められたため、経済成長率は平均6.4%へとさらに上昇した。2002年度の経済成長率は、モンスーンの不調により農業生産が停滞したため1991年以来最低の4.0%に落ち込んだが、2003年度の経済成長率は8.2%に回復している。2003年度の部門別GDP構成比は、農業及び関連産業22%、製造業22%、サービス業56%であった。
1990年代から順調な経済成長が続いているものの、所得分配が不平等なままであることと人口増加が著しいことから、農業就業者や都市部の低所得層、低カースト層にとって貧困問題は依然深刻である。貧困人口比率は減少する傾向にあるが、1999年の調査によると、貧困人口比率は26.1%、貧困者数は2億6,000万人であった。またインフラ整備が経済成長に追いついていないことも大きな問題であり、電力や水の供給が不足しているほか、道路、鉄道、航空の交通インフラも輸送量の増大に対応しきれなくなっている。これらの問題は産業の発展にとって大きな障害となるほか、人口流入によって膨張する都市部の生活基盤を悪化させている。
経済の自由化が進展しITサービス産業等が急速に拡大したにもかかわらず、農村経済や社会的弱者層が経済成長から取り残されたことを背景として、2004年5月の下院総選挙ではインド人民党(BJP:Bharatiy Janata Party)を中心とする与党国民民主連合が破れ、コングレス党を中心とする統一進歩連盟が連立政権として樹立された。現政権は高い経済成長の達成、そのための投資拡大や規制緩和の実現を経済政策目標として掲げており、前政権の経済自由化・開放政策を基本的に継承しているが、他方で総選挙の結果に配慮して、雇用保証や教育・保健など社会セクター政策にも力を入れようとしている。
(2) インドの開発計画
(イ) 第10次5か年計画(2002-2007年)
年平均経済成長率目標を8%と設定し、10年間で所得の倍増を目指すとともに、衡平かつ持続可能な成長を目標としている。重点分野は以下のとおりである。
(a) 保健・医療や教育などの社会福祉の向上
(b) 農業生産性の向上
(c) 指定カーストや少数民族の社会経済的地位の改善
(d) 経済成長と環境保全の両立
(ロ) 統一進歩連盟の共通政策綱領
2004年5月に成立したコングレス党を中心とする統一進歩連盟は、新政権の施策としての共通政策綱領を作成し、以下の6項目を政権運営の原則としている。
(a) 社会的融和の維持・促進
(b) 経済成長と雇用創出
(c) 農民・非組織部門就業者の福祉・幸福の増進
(d) 女性のエンパワーメント強化、指定カースト・指定部族等への教育と雇用の優先的機会提供
(e) 企業家・技術者等に対する支援
(f) 腐敗がなく透明性と説明責任を有する政府の構築
(1) インドに対するODAの意義
インドは急速な経済成長や活発な外交活動を通じて国際社会における存在感を高めるとともに、南アジアにおいて大きな影響力を有しており、経済協力を通じてインドとの間に安定した二国間関係を築き、インドの安定的発展を確保することは、南アジア地域の平和と繁栄、更には我が国を含むアジアの平和と繁栄にとり極めて重要である。また、我が国のシーレーンの安全確保に重要な位置を占めており、これらを踏まえ、我が国は同国との「グローバル・パートナーシップ」の構築に合意している。
近年、インドは順調な経済成長を続けており、外国投資の規制緩和、国内経済の自由化を積極的に進めている。購買力を有する3億人の中間層の存在は、今後の有望な投資先・市場としての潜在性を有しており、この点においても、二国間関係緊密化の必要性は高い。
インドは人口の約3割を貧困層が占めており、インドにおける貧困削減はミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)を達成する上でも重要である。
(2) インドに対するODAの基本方針
インドは、堅調な経済成長を示しているものの、依然として多数の貧困人口を抱えていることから、経済成長を通じた貧困削減を目指すこととしている。また、近年の経済成長に伴い、都市人口の急増による水不足や環境の悪化などの問題も顕在化している。このため、環境対策についても重点的に支援していくこととしている。
なお、現在、インドに対する援助の戦略性をより一層高め、政府全体として一体性と一貫性を持って効果的・効率的な援助を実施するため、現地ODAタスクフォースにおける議論等を踏まえ、対インド国別援助計画を策定中である。
(3) 重点分野
我が国の対インド経済協力は、インド側との政策対話を踏まえ、これまで次の分野を重点分野としてきた。
(イ) 経済インフラ
経済活動の基盤となるインフラの整備は喫緊の課題であり、電力・運輸交通を中心とした経済インフラの支援を進める。
(ロ) 貧困対策
灌漑などの農村開発、農業技術の移転を通じて農村部での貧困削減を進める。また、保健・医療の改善を支援する。なお、観光振興は幅広い層への雇用促進効果があることから、インドが誇る豊富な観光資源の活用も進める。
(ハ) 環境保全
都市部では、人口の急増に伴う環境悪化対策として、下水道整備や上水道の確保を進める。農村部では、森林破壊を食い止めるための植林事業を重点的に進める。
(1) 総論
2003年度のインドに対する円借款は1,250.04億円、無償資金協力は18.41億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は10.34億円(JICA経費ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款は2兆2,461.89億円、無償資金協力は816.93億円(以上、交換公文ベース)、技術協力219.66億円(JICA経費ベース)である。
(2) 円借款
円借款は、1958年に我が国最初の円借款をインドに供与して以来、我が国のインドに対する経済協力の中心となっている。近年、電力、運輸分野等を中心とした経済インフラ整備、貧困対策、環境対策を重点分野としている。2003年度は、交通渋滞の緩和と交通公害減少を通じた都市環境の改善を目指し、デリー市において地下鉄と高架鉄道等を建設する「デリー高速輸送システム建設計画(v)(供与限度額:592.96億円)」やハリヤナ州において、貧困層を中心とした地域住民の所得倍増、植林による地域の生活環境改善を図る「ハリヤナ州森林資源管理・貧困削減計画(供与限度額:62.80億円)」等に対する円借款を供与しており、我が国にとって最大の円借款供与対象国である。
(3) 無償資金協力
無償資金協力は、近年は医療等の基礎生活分野に対する協力の他、債務救済、草の根文化無償、草の根無償等を実施している。2003年度は「ポリオ撲滅計画」、「サー・ジェイ・ジェイ病院及びカマ・アンド・アルブレス母子病院医療機材整備計画」の一般無償資金協力の他、草の根文化無償、草の根無償を実施した。
(4) 技術協力
技術協力は、近隣諸国へインド自らが技術協力を行うなど、インドが技術的に相当進んでいる分野もあるため、これまでの我が国技術協力の実績は多くない。研修員受け入れを中心として実施しており、他に下痢症対策プロジェクト、養蚕普及強化プロジェクトなどを実施している。
開発調査については、環境保全対策として、ガンジス河の汚染対策に協力するため、各種調査を実施した。
インドは2003年に対外援助受け入れ政策を発表し、今後の援助は国際機関を除き英国、米国、我が国等数か国に限って受け入れるとした。なお、2004年の政権交代後これら対象国をG8にまで広げた。
我が国は、ジャイプール上水道整備計画(円借款事業)等において、アジア開発銀行等との協調融資を行っている。