2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) 中国に対する政府開発援助の基本的考え方
 我が国は、79年の大平総理(当時)訪中の際、中国の近代化努力に対して我が国としてできる限りの協力をすることを表明して以来、中国が安定して発展し、また、日中間に友好な二国間関係が存在することは、我が国のみならずアジア太平洋地域の平和と繁栄にとり極めて重要との考えの下、ODA大綱を踏まえ、中国の援助需要、経済社会状況、日中二国間関係を総合的に判断の上、対中経済協力を実施してきている。
 我が国の対中ODAは、70年代末、中国が改革開放政策に転換し、我が国に対し協力を要請してきたのに対し、改革開放政策支持の一環として実施されてきたものである。以来、中国の改革・開放政策の維持・促進に貢献すると同時に、対中ODAは、日中関係が拡大・深化していく中で、日中関係の主要な柱の一つとして安定的な日中関係を下支えする強固な基盤を構成してきた。さらに、対中ODAによる経済インフラ整備等を通じて中国経済が安定的に発展してきたことは、アジア太平洋地域の安定にも貢献し、ひいては我が国にとっても利益をもたらしてきた。なお、我が国ODAによるインフラ整備等は、中国における投資環境の改善にも貢献し、日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与した。中国側も、様々な場で、このような我が国の対中ODAに対して高い評価と感謝の意を表明してきている。
 他方、我が国の厳しい経済・財政事情や中国の国力増大、すなわち、経済力・軍事力の強化やビジネスの競争相手としての存在感の増大といった変化を背景に、我が国国内において、対中ODAに対する厳しい批判が存在する。更に相当な経済発展により経済状況就中援助需要は大きく変化した。
 これらに応えるべく、国民各層に存在する様々な意見や議論等を踏まえ、2001年10月に政府は「対中国経済協力計画」を策定した。同計画では、我が国国民の理解と支持が得られるよう国益の観点に立って個々の案件を精査することとしており、以下を重点分野としている。
 従来型の沿海部中心のインフラ整備から環境保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度作り、技術移転などを中心とする分野をより重視する。また、日中間の相互理解促進により資するよう一層の努力を払う。
(イ) 環境問題など地球的規模の問題に対処するための協力
 環境保全(水資源管理、森林保全・造成、環境情報の作成、対応政策に関する調査研究)、新・再生可能エネルギーの導入及び省エネルギー促進、感染症対策(HIV/AIDS、結核)の協力を行う。
(ロ) 改革・開放支援
 世界経済との一体化支援(制度整備や人材育成支援を含む市場経済化促進、世界基準・ルール(WTO協定を含む)への理解促進)、ガバナンス強化支援(法の支配や行政における透明性・効率性向上、草の根レベルでの啓発・教育活動支援)を行う。
(ハ) 相互理解の増進
 専門家派遣・研修員受入・留学生支援・青年交流・文化交流・学術交流・大学間交流などの強化(日本研究促進、日中共同研究を含む)、留学生受入の環境整備、観光促進のための政策提言・人造りなどを行う。
(ニ) 貧困克服のための支援
 貧困対策に関する政策・制度面での整備・人造り、貧困層を対象とした草の根レベルの保健・教育分野の支援、貧困人口を多く抱える地域の民生向上に向けた協力で貧困層に裨益するもの(日本農業などへの影響の有無に留意)を支援する。
(ホ) 民間活動への支援
 中国側の投資受入のための基盤整備努力支援(知的所有権保護政策の強化など)、我が国の優れた設備、システム、技術などの活用を図ることができる案件の発掘努力を行う。
(ヘ) 多国間協力の推進
 日中両国による第三国に対する支援、東アジアにおける環境分野などでの域内協力の推進を行う。
(2) 2001年度の援助実績
(イ) 総論
 2001年度の中国に対する援助実績は1,755億円。うち、有償資金協力は1,614億円、無償資金協力は約63億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は78億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力は2兆8,293億円、無償資金協力は1,297億円(以上、交換公文ベース)、技術協力1,322億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
(ロ) 有償資金協力
 対中国円借款は、79年の供与開始以降、複数年度にわたり供与額を約束するラウンド方式で行われてきたが、平成13年度からは「円借款候補案件リスト」(いわゆるロングリスト)に基づき各年度毎に取り上げる案件を選定する単年度方式へと移行した。
 また、「対中国経済協力計画」に従って、環境保全、人材育成、地方開発等に重点分野を絞り込むとともに、国益の観点に沿って案件を個々に精査した結果2001年度の供与規模は、約1,614億円(交換公文ベース)となり、前年度比約25%の減額となり、また、その半分以上(54%:金額ベース)が環境分野を対象としたものとなった。
(ハ) 無償資金協力
 対中国無償資金協力は、79年、「日中友好病院建設計画」を端緒に開始され、95年8月に中国の核実験を契機に一時原則凍結の措置がとられたが、97年3月より再開され、それ以前の水準(60~80億円)で推移してきた。2001年度は、「対中国経済協力計画」に基づき、両国民共通の課題(環境、感染症等)解決、両国民の相互理解、及び、内陸部貧困地域等における民生向上に資する分野などを重点分野とした。
(ニ) 技術協力
 対中国技術協力は、これまで1万人以上の研修員受入れや5,000人以上の専門家派遣を通じ、日中両国及び両国民の間の相互理解及び相互信頼を増進してきた。2001年度は、「対中国経済協力計画」の重点分野に即して案件採択を行うとともに、機材供与等ハード面だけでなく、人造りや政策支援、知的支援等ソフト面での協力を重視した。また、スキーム連携の見地から、日中友好病院、日中友好環境保全センター等資金協力により建設した施設に対して技術協力スキームを通じて機材供与や専門家派遣を行っている。
(ホ) その他
 我が国は、79年の大平総理(当時)訪中の際、中国の近代化努力に対して我が国としてできる限りの協力をすることを表明して以来、積極的に経済協力を促進してきており、中国は我が国援助の最重点国の一つに位置付けられている。我が国は、以下の点を踏まえて、中国への援助を実施することを基本的立場としてきた。
 環境協力について、中国は、急激な経済発展により深刻な環境破壊が進んでおり、またその影響が黄砂の飛来等となって我が国にも及んでいる。そのため、2001年に策定した対中国経済協力計画でも環境対策を重点分野に挙げ、積極的に取り組むこととしている。実際にも、上述のとおり、2001年度の円借款の半分以上が環境関連事業となっており、その事業も多岐にわたっている。
 2002年10月、日中両国は、国交正常化30周年を記念し、北京において日中環境協力週間を行った。この週間中、第4回「日中環境協力総合フォーラム」をはじめ、日中間の環境協力をテーマとした行事が集中的に開催された。
 近年の環境協力は、資金協力と技術協力の連携を図りつつ、プロジェクトを実施している。例えば、日中環境開発モデル都市構想はモデル都市専門家委員会の提言に基づき、大気汚染対策を中心としたプロジェクトに対し円借款の供与を行った。また、専門家を派遣し、モデル都市に指定された各都市の環境能力の向上を図っている。これらによって大連、貴陽、重慶の3つのモデル都市の環境は改善されつつある。また、環境協力の一環として、我が国は中国において植林を行っている。特に、荒廃地が広がり、黄砂の発生源の一つと考えられている黄土高原を中心とした黄河中流域では、有償資金協力、無償資金協力により植林を行うと共に、技術協力により、乾燥地に適した植物の研究支援を行っている。

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