2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) タイに対する政府開発援助の基本的考え方
 我が国とタイは、伝統的に友好関係にあり、政治、経済、文化等の各分野において協力関係を増進させており、特に貿易・投資等の面で密接な相互依存関係を有すること、更には、東南アジア諸国のマクロ経済安定化のためにはタイ経済の安定が欠かせないこと等を踏まえ対タイ援助を実施している。我が国にとってこのような重要性を有するタイには、同国の安定・繁栄に向けた援助を実施することは、我が国の平和と繁栄という国益にもかなうものであり、同国の発展段階に応じた支援を行っている。
 援助手法としては、タイが93年度をもって原則として無償資金協力の対象国ではなくなっている(前述参照)ことから、円借款と技術協力が中心となっている(文化無償資金協力、草の根無償資金協力は継続)。
 我が国は、2000年3月、ODAの効率化・透明性の向上に向けた取り組みの一環として、以後5年間を目途とする具体的な案件策定の指針となるタイ国別援助計画を公表した。
 同計画は、これまでの政策協議等によるタイ側との政策対話を踏まえ、タイの政治・経済・社会情勢の認識、また、開発計画や開発上の課題を勘案し策定されたものであり、以下の分野を援助の重点分野としている。
(イ) 社会セクター支援(教育、HIV/AIDS問題を中心として)
 当国は急速な経済発展に伴う歪みの是正の観点から第8次5カ年計画において計画の重点を「経済発展」から「人間中心の開発」に移している。我が国は、タイが重視している「人間中心の開発」への協力を行い、社会セクターにおいて特に我が国の支援を必要とする教育分野、エイズ対策分野を中心に支援を行うとともに、援助に際しWID(途上国の女性支援)配慮やNGO支援に留意する。
(ロ) 環境保全
 タイにおいては経済成長に伴う各種の環境問題が顕在化しているが、我が国が蓄積してきている環境保全に関する技術的なノウ・ハウの移転を促進するとともに、円借款、開発調査等による環境への協力を実施する。
(ハ) 地方・農村開発
 当国は、バンコク一極集中の緩和及び地域間の経済格差是正に向けて、地方振興を図るため地方への投資優遇措置の実施等に努力している。我が国は、タイの地方格差是正に資するよう、企業の地方展開の拠点造りにつながる地方都市のインフラを整備し、就業人口の50%を占める農業の振興を図り、あわせて農村地域の開発(特に東北タイ等の貧困農村地域開発)に積極的に努力する。
(ニ) 経済基盤整備
 タイが輸出指向型の高度な産業構造を形成し国際競争力の強化による継続的な経済発展を達成するため、バンコク一極集中及び産業・経済の急速な発展に伴い不足している経済インフラ整備を支援するとともに、急激な産業構造の高度化に対応するため、特に現在深刻な不足に悩まされている技術系の人材の育成に資する職業訓練等への協力を行う。また、産業構造の裾野を拡げる中小企業・サポーティング・インダストリー育成への支援を行う。
(ホ) 地域協力支援
 我が国は、日・タイ・パートナーシップ・プログラム(後述)等を通じタイの関与する南南協力を支援してきた。また、タイを拠点として、タイ一国のみならず地域全体に裨益するプロジェクトを開始しており、このような地域協力の推進を支援する。
(2) 2001年度の援助実績
(イ) 総論
 2001年度のタイに対する援助実績は136.46億円。うち、有償資金協力は64.05億円、無償資金協力は3.16億円(交換公文ベース)、技術協力は69.25億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力は19,192.78億円、無償資金協力は1,621.99億円(以上、交換公文ベース)、技術協力1,820.16億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
(ロ) 有償資金協力
 有償資金協力については、タイの自立的な発展のための支援を積極的に行っていく方針である。2001年度は、「PEA送電網拡充計画(第7段階第2期)」及び「第2メコン国際橋架橋計画」に対して約64億円を供与している。
 今次借款において取り上げた事業は、2000年3月に策定されたタイ国別援助計画の経済協力重点分野に位置づけられるものである。タイ北部地域における送電網拡充は経済基盤整備、地方開発に資するものである。また、タイ・ラオス間にかかる第2メコン国際橋の建設は円借款で初めての国境を跨る案件であり、アジア開発銀行を中心に関係国において検討されてきた大メコン河流域(GMS)プログラムの協力案件である「東西回廊」建設構想の一環として位置づけられるものである。本事業及び関連運輸インフラの整備により、ベトナム中部、ラオス南部、タイ東北部及びミャンマー南部の物流をはじめとする経済活動を活性化し、タイを含む各国の経済発展や貧困削減に寄与することが期待されている。本事業は地域協力支援、経済基盤整備、地方開発に資するものである。
(ハ) 無償資金協力
 無償資金協力は、タイの順調な経済成長を受けて、93年度をもって原則として終了としたが、草の根無償資金協力や文化無償協力は引き続き供与している。98年度は、経済危機に対する経済構造改革支援として例外的に20億円のノンプロジェクト無償資金協力を含め、総額22億5,900万円を供与した。2001年度は文化無償(1件)、草の根無償資金協力(計26件)、草の根文化無償(1件)が実施されている。
(ニ) 技術協力
 技術協力においては、協力分野は多岐にわたり、農林水産業、エイズ対策等の保健・衛生、大学や職業訓練などの人造り、環境等のほか、近年はコンピュータ・ソフトウェアやバイオテクノロジーなど比較的高度な分野にも広がりつつある。また、「日・ASEAN総合人材育成プログラム」や、99年11月に提唱した「東アジアの人材育成と交流強化のためのプラン(小渕プラン)」に基づき、経済の持続的発展に資する分野に焦点を当てた専門家の派遣・研修員の受け入れ等を重視している。開発調査は、これまで道路・港湾をはじめとした経済インフラの整備、農林水産分野を中心に行ってきているが、近年は、タイの持続的な成長確保の観点からも、都市問題、環境問題及び地方格差是正に役立つ案件についても積極的に取り組んでいる。
(ホ) その他
 タイが徐々に援助国としての役割を果たしていくことを目的とした支援も始まっている。94年8月に合意された「技術協力における日本・タイ・パートナーシップ・プログラム」では、我が国とタイが他の開発途上国の開発努力を支援するために、共同で技術協力を実施する枠組みを定めたものであり、これまで我が国がタイに行ってきた技術協力の成果を活用し、タイ側が経費の一部を負担し、タイで第三国研修を実施したり、他の途上国に共同で専門家派遣等を行ってきた。現在上述パートナーシップ・プログラムのフェーズ2の実施に向け準備を進めている。
 エイズは、タイの深刻な社会問題となっており、91年に国家エイズ委員会を中心としたエイズ対策実施体制を構築し、予防対策の推進に取り組んでいる。我が国は、タイをエイズ協力の重点国としており、これまでもプロジェクト方式技術協力や草の根無償資金協力などを通じて、積極的に協力を行ってきている。なお、エイズ予防対策プロジェクト(プロジェクト方式技術協力(93~96年))では、エイズ患者などへの医療サービス向上のために、エイズに関する検査分析研究を強化するとともにエイズ教育用教材の開発などエイズに関する公衆教育を進めてきた。現在は、タイのエイズに関する研究環境を整えることを目的として、国立衛生研究所機能向上プロジェクトを実施中である。
 また、途上国における寄生虫対策の人材育成と情報交換等を目指した、「国際寄生虫対策」構想の具体化の一つとして、タイのマヒドン大学をアジアにおける寄生虫対策の拠点として周辺国を対象とした第三国研修、プロジェクト方式技術協力を2000年より実施している。

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