インドネシアは、貿易・投資等の面で我が国と密接な相互依存関係を有し、我が国にとって政治・経済面において重要な存在であること、我が国の海上輸送にとって重要な位置を占める。また、石油、ガス等の天然資源供給国となっていること、2億人を超える人口規模を有し、ASEAN諸国の中核となる国として東南アジア経済の発展と安定のため重要な役割を担ってきていること、従来より貧困削減、地域格差是正等のため多大な援助需要があったことに加え、97年のアジア経済危機以降社会経済情勢が不安定化し、引き続き適切な改革の遂行及び新たな状況への対策を通じ、経済の回復と民生の安定を図ることが課題となっていること等を踏まえ、対インドネシア援助を実施している。
我が国は、インドネシアにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び経済協力総合調査団、経済協力政策協議等による政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としてきている。
経済危機の影響を特に強く受けている社会的弱者への対応を中心に、社会的・地域的公平性を確保しながら国全体の均衡ある発展を目指す。具体的には、貧困撲滅(貧困層の生活環境の改善)、基礎生活分野に対する支援(居住環境の整備、保健医療)、人口・家族計画及びエイズ対策、東部インドネシアの開発(地域間格差是正)を重視する。
(ロ) 人造り・教育分野
インドネシアが経済危機を克服し、国際競争力の強化と付加価値の高い工業化を進めるためには、教育水準の向上をはじめ広範な分野での人造りが重要。初等・中等教育の充実、教員の質の向上(小・中学校の理数科教員を中心とする)、技能・技術者教育の充実を重視する。
(ハ) 環境保全
急速な開発に伴い生じてきた環境問題(森林等の自然資源の減少、公害・災害の発生)の深刻化と大都市への人口集中による居住環境の悪化への対応が必要。森林等の自然資源・自然環境の保全(生物多様性の保全等)及び持続可能な利用、都市居住環境及び公害面での協力、環境問題全般における体制の整備(環境関連の政策実施能力の向上等)を重視する。
(ニ) 産業構造の再編成に対する支援
経済危機の克服とその後の経済成長の回復・維持のため健全なマクロ経済運営と裾野の広い産業振興、農業振興のための支援を行う。マクロ経済運営に対する支援、サポーティング・インダストリーの振興及び中小企業支援、農業振興(農産物の多様化、付加価値の高い農産物の生産)を重視する。
(ホ) 産業基盤整備(経済インフラ)
インドネシアの持続的経済発展のためには外国直接投資の継続的な導入が必要であり、このための投資環境整備を行う。電力、水資源開発、運輸、通信を重視する。
更に、メガワティ政権発足後、インドネシアの政治・経済・社会の状況とメガワティ政権が取り組むべき諸課題を踏まえ、2001年9月の経済協力政策協議での政策対話を経て、我が国は当面インドネシアに対し「経済の安定のための支援」「各種改革の推進に対する支援」「経済ボトルネックの解消等緊急のニーズへの対応」の三点を重視して支援を行う方針を定めた。
2001年度のインドネシアに対する援助実績は2,549億円。うち、有償資金協力は2,363億円、無償資金協力は73億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は113億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力3兆8,397億円(債務繰延、リファイナンスを除く)、無償資金協力2,099億円(以上、交換公文ベース)、技術協力2,390億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
インドネシアは、2001年の我が国二国間ODAの第1位の受取国であり(支出純額、8.60億ドル)、2001年までの累計でも第1位(支出純額182.23億ドル)である。特に97年7月以降は、経済危機への対応として新宮澤構想をはじめとする様々な支援策を打ち出し、特に資金規模の大きい円借款をプログラム型借款という形で迅速に供与しドナーとして最大規模の援助を行った。
(ロ) 有償資金協力
有償資金協力については、経済インフラ分野を中心にしつつも、環境、社会インフラ、人材育成等の分野へも対象を広げてきているが、97年のアジア経済危機の発生を受けて、98年度及び99年度の2年間にわたり、インドネシアの国際収支支援と社会的弱者対策を主目的とした財政支援型のプログラム借款(いわゆる足の速い借款)を供与した。2000年度からはインドネシア経済が回復の兆しを見せてきたことから、プロジェクト型借款の供与を再開した。有償資金協力においては、インドネシアの持続的経済成長を実現させるため、経済ボトルネックの解消に資する案件として、外国投資の促進に資する経済インフラ境整備案件を中心に当面は供与していく方針である。また、「経済の安定のための支援」として債務繰延を実施しており、2002年4月に開催されたインドネシア債権国会合(パリ・クラブ)においては、2002年4月1日から2003年12月31日までの間に期日が到来するインドネシア向け公的債務のうち、元利(最大で約54億ドル)の返済を繰り延べることが合意された。この合意を踏まえ我が国も最大で対象債権額約27億ドルの債務繰延を行うことになった(我が国対象債権額のうち、円借款分は約2,082億円)。
(ハ) 無償資金協力
無償資金協力は、従来から技術協力との連携案件を中心に資金供与を行ってきており、保健・医療分野及び人造り・教育分野、環境分野、農業分野に重点をおいた協力を行ってきた。今後はインドネシアの経済社会情勢の変化を踏まえ、地方分権、ガバナンス、地方インフラ、平和構築に資する案件に力点を置きつつ柔軟に対応していく方針。2000年度は、教育、水供給、保健、環境の各分野での一般プロジェクト無償資金協力を行ったほか、水産無償資金協力、食糧増産援助、ノンプロ無償資金協力、緊急無償資金協力としてマルク避難民への支援を実施した。2001年度は、同年度に新設された研究支援無償のスキームを用い、インドネシア共和国の地方分権化研究計画を通じてインドネシアの地方分権に係る政策研究を支援した。また、水供給、環境分野(森林火災跡地回復)の支援を継続するとともに、有償資金協力で建設したダムの堆砂緊急対策計画(リハビリ無償)、教育分野では技術協力と連携したポリテクニック拡充計画、インドネシア・テレビ公社の放送設備整備計画(IT無償)の各一般プロジェクト無償資金協力を行った他、食糧増産援助、ノンプロ無償資金協力、西ティモールにおける東ティモール難民問題解決のための緊急無償資金協力などを実施した。
(ニ) 技術協力
技術協力では、幅広い分野での人造りに貢献しているほか、特に通貨危機への対応として「危機の克服及び社会的弱者支援」に資する分野に重点を置いてきた。
2001年度は、前年に発表されたPROPENAS(国家開発5カ年計画)を踏まえ、従来の社会開発や貧困削減の分野に加え環境保全分野等も重視した案件採択を行うとともに、1月に施行された地方分権関連法にも配慮し、地方開発政策等の経済構造改革への支援のための技術協力プロジェクトや専門家派遣を行っている。
また、開発調査については、社会的弱者支援及び地域間格差の是正に資する案件を優先的に検討している。なお、一層効率的な協力を図るため、将来的に資金協力事業等、他の援助形態の協力実施に結びつく可能性の高い案件を優先的に選定している。
また、2001年9月の両国首脳会談での了解に基づき、我が国は2002年3月より、経済政策支援プログラムを開始した。これはインドネシアにとって重要な政策課題について、我が国6名の有識者とインドネシア側関係者との政策対話を通じて、インドネシア側の改革努力を支援するものである。2002年3月の以降2002年に3回の会合を行い、インドネシアの経済政策に対する有益な提言を纏めた。
(ホ) その他
インドネシアにおいては、ドナー間の意見交換、援助調整のための対話の場が多く設けられている。年1回のCGIや四半期毎に開催されるCGIレビュー会合、これらに関連した議題毎のワーキング・グループ会合のほか、ドナー円卓会合などがある。また、99年より、ガバナンス改革を促進する目的で、UNDP、世銀、ADB等を中心として、各国ドナーも参加する「ガバナンス改革に関するパートナーシップ」というイニシアティブが発足し、1~2ケ月に1回程度ドナー会合が開催されている。
2001年11月、ジャカルタで開催された第11回CGI(対インドネシア支援国会合)はメガワティ政権発足後初めて開催されたもので、今次CGIにおいては、前述の三つの柱(「経済の安定のための支援」、「各種改革の推進に対する支援」、「経済ボトルネックの解消等緊急のニーズへの対応」)の下、引き続き可能な限りの支援を行うこと、またインドネシアが直面している深刻な公的債務問題に関し、債務繰延について国際的な枠組みの中で柔軟に対応していく方針であることなどを表明した。更に我が国は、既存円借款案件等からの支出予定額が7.2億ドル(約857億円)であること、また優先度・緊急性の高い2案件に対し、総額417億円の新規円借款の供与を表明するとともに、エネルギー分野関連案件についても新規円借款供与の検討を進めていることを表明した。なお、この会合では、現在インドネシアが直面する課題である貧困削減に向けた問題として、「経済安定・回復」、「ガバナンス強化と汚職追放」、「貧困層のエンパワーメントと投入強化」、「援助需要と効率性」について意見交換がなされたとともに、各国政府・国際機関からは、インドネシアの2002年度の資金需要を満たすための支援として総額31.4億ドルに及ぶ支援が表明された。