[3]キルギス
1.概 説
91年12月、ソ連の解体とともに独立国家となった。アカーエフ大統領は、2000年10月の大統領選で三選され、任期を2005年12月までとしている。同大統領は民主化・市場経済化の改革路線を推進し、98年10月に行われた国民投票の結果、土地私有制を認める憲法修正案が承認されるなど、同大統領の改革路線は、国民の多数の支持を得ている。しかしながら、2000年2月の議会選挙、同年10月の大統領選挙では、米、OSCE等が懸念を表明するなど、最近はアカーエフ政権の民主化路線に翳りが出てきている。そのような中2003年2月に行われた憲法改正及び大統領信任の国民投票では、憲法改正及び大統領の信任に多数の票が投じられた。
外交面では、安全保障、貿易面で密接な関係をもつロシアとの良好な関係維持を重視している。96年3月にはロシア、ベラルーシ及びカザフスタンと統合強化条約を締結した。また西側諸国との関係強化にも積極的で、欧州安保協力機構(OSCE)をはじめ、国連、IMF、世銀、アジア開発銀行(ADB)に加盟しており、同国の推進する改革路線は西側諸国から評価を得ている。また、98年12月、同国はCIS諸国で初のWTO(世界貿易機関)加盟国となった。
キルギスは、元来農業、牧畜、軽工業を除き産業や資源に乏しく、経済基盤が弱いことから、経済改革は困難を伴った。こうした状況の中、IMF、世銀との協議を順調に進め、市場経済に向けて積極的な姿勢を示した結果、94年以降マクロ経済は次第に安定に向かい、97年の実質GDP成長率は9.9%に達した。しかし、98年のロシア金融危機は同国経済に深刻な影響をもたらし、通貨ソムの下落、消費者物価の上昇、鉱工業生産、貿易の停滞をもたらした。インフレは2000年に入って落ち着いたが、国際収支は目立った回復はなく、対外債務残高は増大、ロシア等から債務リスケジュール交渉を迫られるなど困難な状況が続いている。市場経済化の進展に伴う所得格差の増大、潜在失業者数の増加、基本的な貧困層の増大など、多くの構造的問題も抱えている。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
我が国との交流は、官民ともに活発である。92年5月に渡辺副総理兼外務大臣(当時)が同国を訪問し、93年4月及び98年10月にはアカーエフ大統領、96年11月ほか二度ジュマグーロフ首相が、2000年2月にはムラリエフ首相、2001年6月にバキエフ首相、同年11月イマナリエフ外相が訪日している。民間でも経済協力調査団の派遣や日本・キルギス経済委員会など、人的往来は盛んである。しかし、貿易投資など我が国との経済関係は未だ低いレベルにある。
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) キルギスに対する政府開発援助の基本的考え方
キルギスはソ連崩壊後の新たな自由主義国家として、その民主化、市場経済導入の動きはODA大綱の観点からも望ましいものであるため、同国が人材不足や経済インフラの老朽化などの問題に効率的に対処し、経済的な困難を克服して国造りを行えるように、我が国は同国に対し積極的な支援を行っている。
ただし、これまでは経済改革の優等生として世銀、IMF等から評価が高かったが、近年対外債務が増加しており、今後マクロ経済については注視が必要。また、キルギスは世銀の提唱したCDF(包括的開発フレームワーク)にパイロット国として国家をあげて積極的に取り組んでおり、それに基づいて2010年までの国家開発計画を発表している。
我が国は、キルギスが93年1月にDACリストパートIに掲載されODA対象国となる以前の91年から研修員受入れや専門家派遣などの協力を開始しており、また、旧ソ連諸国に対する総額2億ドルの緊急人道支援の一部として医薬品、医療機器、ワクチンなどの供与を中心に、93年以来533万ドルを供与している。また、95年5月、市場経済化を担う人材育成の拠点として、キルギス日本センターを首都ビシュケクに開設(支援委員会所管)し、我が国から派遣した専門家による経済経営関連講座を開講した。
95年10月には、経済協力に関する政策協議を実施し、その結果等を踏まえ、市場経済の導入支援、BHN(基礎医療、教育等)分野、経済インフラ分野、農業分野を援助の重点分野としている。
99年8月、JICAからキルギスに派遣された4人の資源開発調査団が、タジキスタン国境から侵入したイスラム武装集団により人質となる事件が発生した。同年10月、事件は無事解決したものの、安全上の配慮から、しばらくの間は、人の派遣を伴う援助は限定的に行っていた。その後、安全対策の観点から、99年12月の安全確認調査団派遣を経て、2000年7月にはJICA現地駐在員事務所を設置した。更に2001年7月にも安全確認調査団を派遣し、イスラム原理主義を名乗る一部過激派のキルギス及びその周辺国における動向や、安全確保のためのキルギス政府の体制等を調査した。その調査結果を踏まえ、今後は同国の治安状況に十分に留意しつつ、協力の対象地域を拡大していくこととしている。
また、2002年10月に行われた支援国会合において、これまでの援助実績をアピールすると共に、知的支援も含め今後も援助を実施していくことを表明した。更に、同会合の開催中に、3月のパリクラブ合意に基づく債務繰り延べに関する交換公文の署名も行っている。
(2) 2001年度の援助実績
(イ) 総論
2001年度のキルギスに対する援助実績は6.17億円。うち、無償資金協力は3.15億円(交換公文ベース)、技術協力は3.02億円(JICA経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力256.65億円、無償資金協力75.05億円(以上、交換公文ベース)、技術協力37.26億円(JICA経費実績ベース)である。
(ロ) 有償資金協力
これまで、国際収支支援、運輸セクターを中心に実施してきたが、近い将来、キルギスに対して債務繰延が行われる可能性があるため、新規の協力は困難な状況となっている。
(ハ) 無償資金協力
医療分野での一般プロジェクト無償、文化無償、ノンプロジェクト無償、食糧増産援助、草の根・人間の安全保障無償を実施しており、2001年は、主に食糧増産援助を実施した。
(ニ) 技術協力
市場経済、行政分野を中心に研修員を受け入れており、財政金融や鉱業技術、環境などの分野に専門家派遣を行っているほか、2000年度より青年海外協力隊の派遣が開始された。また、支援委員会事業として行っているキルギス日本センター事業が同委員会解散に伴い終了となるが、JICA事業として新たに行うべきか否か調査団を派遣し検討した。開発調査は、金融、通信、資源開発、工業開発を対象に実施している。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考)2001年度実施草の根無償資金協力案件
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