第13節 主要援助国の援助政策・実施体制

1.米国

(1) 援助政策等
 クリントン政権は93年1月に成立して以来、東西冷戦後の国際情勢に対応した新たな米国の援助政策の立案とその効果的な実施体制の確立を目指して様々な施策を採ってきた。
 まず、米国の援助方針の策定に着手し、持続可能な開発を基本目標に裾えた上で(イ)環境問題への対応、(ロ)民主主義の育成、(ハ)人口の安定化と基礎医療の確保、(ニ)経済成長、(ホ)人道的援助、の5つの重点分野を含む開発戦略を採用し、実施している。なお、(ニ)経済成長には貧困削減も包含されており、米国国際開発庁(USAID)はDAC「新開発戦略」を踏まえ、2007年までに途上国の貧困層を1/4にまで減少させるとの目標を掲げている。また、援助の効果的実施という観点からは結果重視の姿勢を明確にし、援助先についても開発パートナーとして相応しくない国への援助は行わないとの方針を打ち出した。
 また、95年3月の社会開発サミットの場においてゴア副大統領は「新たなパートナーシップ・イニシアティブ(New Partnership Initiatives)」を発表した。このイニシアティブの目的は、従来以上に草の根レベルに焦点を当て、中央政府の政策と調整を図りつつ、被援助国の民間企業、地方政府やNGO等を含む市民社会の能力強化を行うことにより、持続可能な開発を目指すこととされている。このような対外援助に関する基本方針は2期目のクリントン政権においても維持されている。
 さらに、援助実施体制の強化という観点からは、ゴア副大統領を中心として推進する政府再活性化政策のモデル機関に米国国際開発庁(USAID)を指定し、組織・機構の再編、組織の合理化、結果重視の政策立案及び実績評価システムの導入等様々な改革を実施してきている。
 94年の中間選挙で共和党が上下両院の過半数を超える議席を確保したことに伴い、対外援助を取り巻く情勢は厳しくなった。共和党が打ち出した2002年までの均衡予算達成方針の下、対外援助予算も削減の対象とされ、対外援助予算の大部分が含まれる海外活動歳出予算は97年度(97.10-98.9)には過去20年間で最低の約122.7億ドルとなった。その後は行政府側の強い働きかけもあり増加に転じ、99年度予算は約154.2億ドル、2000年度予算は約153.2億ドルまで回復しているが、緊急災害援助にかかる補正部分や中東和平(ワイ・リバー合意)関連の特別予算を除いたベース部分の増加額は僅かに留まっている。議会における対外援助に対する見方は依然として厳しく、財政黒字の状況下にある2001年度予算審議においても、大統領の要求額(約152億ドル)に対して、上院・下院ともに約20億ドルの削減を要求してきており、援助予算額は頭打ちの状況にある。
 DAC統計上の暦年のODA実績で見ると、米国は、議会における予算審議の遅れに起因する連邦政府一時閉鎖という特殊事情により実績が落ち込んだ95年を除き、91年以降日本に次ぐ第2位の援助国である。97年には、米国の最大援助供与国であるイスラエルがDACのODA対象国リストから卒業したことなどから、米国のODA実績は96年のの93.8億から68.8億ドル(対GNP比0.09%)に大きく落ち込んだが、99年には91.45億ドルまで回復している。地域的には北アフリカ・中東・中南米への援助が多い。
 機構面では議会を中心にUSAIDを含む対外活動関連機関の統廃合の議論がここ数年なされてきた。95年にUSAIDの国務省への統合を含む法案が議会に提出されたが、大統領は拒否権を発動した。しかし、ヘルムズ上院外交委員会委員長を中心に統廃合を求める声は強く、これに対応するため97年4月、クリントン政権は、USAID、軍備管理・軍縮庁及び情報庁という対外活動関連3機関の国務省への統合構想を発表した。
 議会での審議を経て、98年3月外務改革・再構築法が施行され、軍備管理・軍縮庁及び情報庁は国務省に統合されたが、USAIDは独自の予算を有する独立機関として存続することとなった。ただ、業務遂行については従来USAID長官は大統領へ直接報告することになっていたのに対し、国務長官に報告することとなり、国務長官のガイダンスに従うこととなった。
 このような対外援助をめぐる情勢の中で、USAIDを始めとする行政府は一貫して対外援助に対する米国のコミットメントは不変であるとの姿勢を堅持している。また、クリントン政権は97年に旧ソ連圏向けの「自由のためのパートナーシップ(Partnership for Freedom)」及び「アフリカ貿易・投資イニシアティブ」といった新たなイニシアティブを発表した。これらのイニシアティブでは、貿易、投資の拡大とそれを支える開かれた市場が対象国の経済発展を促し、ひいては米国の利益にも繋がるとの理念の下、伝統的な開発援助を維持しつつも、貿易、投資の拡大を促進するための技術援助に重きを移していく方向が示されている。
 米国援助の内分けは、98年実績で二国間援助が75%、国際機関を通した援助が25%となっているが、そのうちの二国間援助の形態は、経済開発援助(Development Assistance:DA)、経済支援援助(Economic Support Fund:ESF)、食糧援助、人道援助等に大別される。DAは、開発途上国の中・長期的な経済開発を目的とし、特に貧困層の生活環境改善のための案件について主に技術協力を中心に実施するものであり、二国間援助の約30%を占める。援助内容は、人口・エイズ、WID、子供の健康、環境、零細企業振興、民主化、エネルギー分野の支援等多岐にわたっている。
 ESFは、二国間援助の内、30~40%を占め、米国が政治及び安全保障上の観点から特に関心を有する国々に対して供与されるもので、国際収支改善のための商品無償、無償資金供与等を中心としたいわゆる足の速い弾力的な援助形態である。特定の政権維持のために供与されることが多く、現在その大部分はイスラエル、エジプトに向けられている。ESFは同時に構造調整型援助の財源でもある。援助内容の決定は、国務省によって行われ、USAIDが実施する。
 食料援助は、54年農薬貿易開発援助法(Public Law 480)を根拠にした援助である。同援助は、米国小麦等の低利・延べ払い輸出(タイトル01)、無償による緊急の食糧援助(タイトル02)及び受領国の経済開発を目的とする対政府無償援助(タイトル03))に分かれており、タイトル01は農務省、タイトル0203はUSAIDが執行する。
 また、USAIDは、近年、人道援助の分野にも力を注いでおり、人道対応局を設け、開発関連部局と連携しながら、災害救済、緊急食糧援助、NGO支援などを含めて迅速で効果的な危機の対応に取り組んでいる。因みに、現在、米国の二国間ODAの3割以上がNGO(米国ではPVO(private and voluntary organization))を通じて行われているが、95年にはUSAID/PVOパートナーシップ政策が策定され、NGOとの連携を一層強化することとされている。
 なお米国の対外援助は「対外援助法」(61年制定)に基づいて行われているが、同法は数多くの修正が加えられて極めて複雑かつ膨大なものとなっており、援助の非効率化を招いていると指摘されている。特に実質上全ての援助計画を議会がチェックすることは、援助の柔軟性、機動性を阻害していると指摘されている。クリントン政権下、94年には対外援助法を全面的に改正する「平和・繁栄及び民主主義に関する法(Peace, Prosperity and Demmocracy Act)」が議会に提出されたが、成立には至らなかった。
(2) 実施体制
 二国間援助は、資金協力、技術協力ともに基本的にUSAIDが国務省と密接に協議の上実施する。また、USAIDは援助プログラムの実施を専門に省庁に委託することもある。国際機関を通じた援助のうち、世銀、IMF、地域開発銀行等の国際開発金融機関については財務省が管轄し、国連専門機関については国務省が管轄している。なお、国際開発金融機関を通じる援助の場合も、外交政策の観点から国務省が関与する。

図表―108 米国の二国間ODA上位10ヶ国

 USAIDの特徴は、海外事務所に多くのスタッフを置き、具体的な援助実施の権限が現地事務所に委ねられている点であるが、前述のUSAIDの機構改革、援助予算の削減等の理由から海外事務所の閉鎖を余儀なくされている。なお、2000年5月末現在のUSAIDの現地採用を含む職員総数は、7,481人(うち、本部勤務者数は1,862人)である。

図表―109 米国の二国間援助地域別シェアーの推移



図表―110 米国の二国間援助分野別シェアーの推移



2. フランス

(1) 援助政策等
 フランスは、その外交政策において開発援助重視の姿勢を明確に打ち出し、主要ドナーとしての地位を堅持している。
 フランスの開発援助は、(イ)相手国とのパートナーシップと対話に基づいた援助、(ロ)調和・効率性向上に向けた開発援助政策決定・実施における他のドナーとの調整、(ハ)援助実施における分権化を図りより草の根に近い地域間の連携に基づく援助体制を推進すること、を基本的方針としている。その上で、(イ)途上国の経済的自立とグローバル経済への参加の達成、(ロ)政府機関と民主主義の基盤の強化、(ハ)貧困の撲滅と社会サービスの提供、(ニ)研究の機会及び科学的情報へのアクセスの改善、(ホ)地球的協力の推進、を開発援助における優先目的として設定している。
 フランスの開発援助は、98年2月より始められた改革プロセスの結果、99年1月より新体制が発足しているが(後述)、この中でフランスは開発援助における「優先連帯地域」(ZSP:Zone de solidarite prioritaire)とそれ以外の地域を区別する政策を設定している。優先連帯地域は、主に資本市場での資金調達が困難な最貧国、特にフランスと歴史的・政治的関係の深い仏語圏アフリカ諸国を中心に構成され、二国間援助の主な対象となる。その他地域においては、フランスが政治・経済・科学・技術・文化的プレゼンスの維持を主な目的として開発援助を実施している。
 ODA実績について見ると、99年は総額56.37億ドル(DAC報告ベース)であり、対前年比1.83%の減少だが、援助額は日本、米国に次いでDAC諸国中第3位となっている。
 また、ODAの対GNP比率では、ピークとなった94年の0.64%から減少を続け、99年については、前年の0.40%を下回る0.39%となった。しかし、DAC諸国平均(0.24%)を依然として大きく上回り、DAC諸国中(第6位)及びG7中(第1位)の順位は変わっていない。仏フラン・ベースでは、94年以来続いてきた総額及び対GNP比の低下傾向から99年に一旦脱したように見えたが、2000年予算法案においては、再度、総額・対GNP比とも減少に転じている。
 フランスは伝統的に二国間援助を重視し、ODA全体に占める二国間援助の割合は98年で72.9%、99年で73.2%と大きいが、傾向的には97年の75.7%より低下している。地域別に見ると、伝統的に関係の深いアフリカ諸国に対する援助を重視してきたが、98年の二国間援助に対するサハラ以南アフリカ諸国向けの割合は36.3%と、97年の45.4%から大きく減少している。フランスはまた、仏語・仏文化の普及の観点から、教員・技術者の派遣、留学生の受け入れなどによる教育・文化教育を重視しており、二国間援助に占める技術協力の割合は、49.7%(98年)となっている。また、教育関連も二国間援助の30.5%(98年、コミットメント・ベース)と大きな割合を占めている。
(2) 実施体制
 援助実施体制は、従来、援助スキーム、対象地域によって担当する省庁・機関が異なり、複雑かつ多元化していた。具体的には、二国間援助については、協力省、外務省が無償資金協力・技術協力を、仏開発公庫(CFD)がプロジェクト型資金援助と構造調整資金協力を、そして経済・財政・産業省が有償資金協力を所掌してきた。国際機関を通じた多国間援助については、外務省が国連専門機関を、その他(EU等)を経済・財政・産業省が所掌していた。
 97年6月に成立したジョスパン左派連立政権は、この複雑な援助実施体制について、効率化、簡素化、透明化などをめざし、積極的にその改革に取り組んできた。98年2月に援助実施体制改革に向けた指針が閣議にて公表されて改革プロセスが開始され、99年1月より新体制が発足した。この新体制の概要は以下の通りとなっている。
(イ) 外務省と協力省の統合及び経済協力実施体制の二極化
 外務省に協力省が統合され、経済協力に関する協力省予算は外務省に一本化された。外務省の文化・科学・技術協力総局に従来の協力省の業務を加えて再編した国際協力・開発総局の業務を協力大臣(統合後も外務大臣の補佐として存続)の所掌とし、協力大臣は対途上国のみならず先進国も含めた文化・科学・開発など広い意味での国際協力を担当することとなった。さらに、従来から協力大臣の所轄だった人道援助や仏語圏諸国との関係、軍事協力についても引き続き協力大臣の担当となっている。これまで大使館と別組織だった在外の協力省ミッションは、大使館の一部局となった。
 この改革により、開発援助に関わる主要省庁は外務省と経済・財政・産業省に概ね二極化され、この二省で政策・プロジェクトの定義、管理、監視、評価を行う体制となっている。
(ロ) 省庁間国際協力開発委員会
 98年2月の法令により省庁間国際協力開発委員会(CICID:Comit01 interminist01riel de la coop01ration internationale et du d01veloppement)が創設され、国際開発協力と政府援助の目的の定義、開発協力に関係する各省庁間の調整等にあたることになった。首相主催の下、関係閣僚により構成され、委員会事務局は外務省と経済・財政・産業省の両省に設置されている。99年1月に第一回会合を開催し、優先連帯地域(ZSP)の対象国を決定した。
(ハ) 仏開発庁
 資金協力の実施機関であった仏開発公庫(CFD:Caisses fran01aises de d01veloppement)は、協力省の一部人員を吸収し、より包括的な援助実施機関としての仏開発庁(AFD:Agence fran01aise de d01veloppement)へと改編された。外務省、経済・財政・産業省の共同管轄下で、主に優先連帯地域において個別プロジェクトの策定・実施を担当する。
(ニ) 国際協力高等評議会
 企業、NGO、組合等の国際協力に関わる様々な関係者との協議の場として設置された国際協力高等評議会(Haut conseil de la coop01ration internationale)は、広範にわたる議論のためのフォーラムとしての役割を果たす。同評議会の主な目的は、民間・公的援助団体間の相互関係を改善し、政府と民間の共同作業を促進し、また国民の間に広く開発協力について理解を深めることである。
 同評議会は、99年11月に正式に設置され、2000年4月にはジョスパン首相に対する意見報告書を提出した。同報告書においては、フランスの開発援助が社会的不平等の是正や持続的開発、民主主義や人権の促進などを重視すべきとの方向性を打ち出し、また近年減少傾向にあるODA額の増加を求める提言を行っている。

図表―111 フランスの二国間ODA上位10ヶ国
図表―112 フランスの二国間援助地域別シェアーの推移



図表―113 フランスの二国間援助分野別シェアーの推移



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