2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) 我が国は、南西アジア地域においてインドが政治・経済上の重要国であること、我が国と伝統的に友好関係にあること、人口の約3分の1が貧困状態に置かれ、援助需要が高いこと、経済自由化に積極的に取組み市場指向型経済の推進を図っていること等を踏まえ、インドに対し円借款を中心として従来より積極的な援助を行ってきた。
(2) ODA大綱との関連では、我が国はインドによる核開発の可能性に関する内外の懸念を踏まえ、様々な機会をとらえ、インド側の自制を働きかけてきた。
 しかし、98年5月、インドは地下核実験を実施したため、我が国はインドに対し、新規無償資金協力の停止(緊急・人道的性格の援助及び草の根無償を除く。)、新規円借款の停止、国際開発金融機関による対インド融資への慎重な対応等の措置を決定した。
 ヴァジパイ首相は98年9月の国連総会でCTBTに署名する可能性を示唆し、また、99年2月のパキスタンとの首脳会談において「ラホール宣言」を発出する等、パキスタンとの緊張緩和及び信頼醸成への取り組み姿勢を見せたが、一方、99年4月には中距離弾道ミサイルの発射実験を行った。その後、99年9月頃からCTBTへの署名に関してはインド国内のコンセンサスを得る必要があるとの立場を維持している。
 この間、我が国は、99年1月及び2000年2月に日印次官級政務協議を行うなど、CTBTへの署名・批准等の核不拡散への取り組みを強く申し入れている。また、99年4月の中距離弾道ミサイル発射実験に際しては自制を強く求めた。2000年8月の森総理の訪印の際には、森総理よりヴァジパイ首相に対し、改めてCTBT署名を始めとする核軍縮・不拡散についての我が国の立場を明確に伝え、先方より、CTBT発効まで核実験モラトリアムを継続する旨の確認を得た。インド側は、CTBT署名に向けて最大限努力することは明らかにしつつも、署名時期についての直接的なコミットメントがなかったことに鑑み、我が方は98年5月以来の措置の見直しはしなかったが、インド側に対して継続中の円借款2案件の追加的資金供与を行う旨伝えた。
 更に、インドとの間で広範な分野における多面的協力を内容とする「21世紀における日印グローバル・パートナーシップ」の構築に合意し、その一環として両国間でIT分野での協力を推進していくこととしている。
 今後、対インド経済協力の具体的な実施については、上述の核実験に対する我が国措置を踏まえ、印側の核不拡散分野における具体的かつ前向きな対応及び二国間関係を勘案しつつ、総合的に検討していくこととなる。
(3) 我が国がこれまでインドにおいて行ってきた経済協力は、開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及びJICAにおける「インド国別援助研究会」の成果を基に、95年3月に派遣した政府ベースの経済協力総合調査団及びその後の政策協議等によるインド側との政策対話を踏まえ、次の分野を重点分野としてきた(最近では97年1月に無償・技協政策協議を行い、DAC新開発戦略の実施につき協議し、また、97年4月に円借款調査団を派遣した)。
(イ) 経済インフラ整備
 5カ年開発計画の優先目標である電力、運輸を中心としたインフラ整備支援を進める。公共投資とともに民間企業のイニシアティブを重視するインド政府の方針を尊重し、民間のみでは対応が困難な経済インフラ整備への支援を重視する。
(ロ) 貧困対策
 インドは人口の3分の1に及ぶ巨大な貧困層を抱えており、同国の社会セクターへの直接的支援は重要である。具体的には、(i)保健・医療(基礎保健・医療の改善とともに人材育成、安全な飲料水の供給等)、(ii)農業・農村開発(人口増に対応した食糧自給維持を図るための農業生産性向上、農業インフラ整備等)、(iii)人口・エイズ対策、(iv)中小企業支援(輸出振興及び雇用創出の促進)に対する協力を重視する。
(ハ) 環境保全
 人口増加等による環境悪化への対応を強化していく。特に公害防止対策、水質改善、水供給、植林、都市環境改善等への協力を推進する。環境分野の協力を積極的に進めていくため、93年1月に環境ミッションをインドに派遣し政策対話を行い、これまでに、公害防止、水質改善、水供給、植林に関する協力を実施し成果を上げている。
(4) 我が国のインドに対する援助を99年までの支出純額累計でみると、インドは我が国二国間ODAの第5位の受取り国であり、また86年以降は90年を除きインドにとり我が国は最大の二国間ODA供与国となっている。また、我が国は、96年9月に東京で対インド支援国会合(IDF)を開催する等、国際的な対インド支援においても重要な役割を果たしてきた。
 有償資金協力は、58年に我が国初の円借款をインドに供与して以来、我が国のインドに対する援助の中心となっている。特に、87年度以降は98年の核実験まで毎年度約1,000億円規模の供与を行ってきた。従来、電力、肥料工場などを中心に供与してきたが、近年供与対象事業の多様化を図っており、貧困対策、環境案件も多く実施している。
 無償資金協力については、近年(98年の核実験まで)は医療等の基礎生活分野に対する協力のほか、債務救済、食糧増産援助、文化無償、草の根無償等を行っている。
 技術協力については、近隣諸国等へインド自らが技術協力を行うなど、既に技術的には相当進んでいる分野もあるため、我が国技術協力に対する要請(特に専門家派遣、開発調査等)は多くない。91年度より開始された青年招へいを含め、人的資源、運輸・交通、行政等の分野での研修員受入れを行っているほか、近年、農業及び保健・医療分野においてプロジェクト方式技術協力を実施している。

前ページへ 次ページへ