(1) 欧州諸国は、西欧地域を中心に工業化が進展し経済的に自立している国がほとんどで、従来よりサイプラス(注1)、ギリシャ(注2)、ジブラルタル(注3)、マルタ、アルバニア及び旧ユーゴースラヴィアがDACリストに掲げられ、DAC加盟国からODAの供与を受けてきた。一方、中・東欧諸国は第2次大戦後長期にわたって共産主義政権下にあり、中央計画経済体制の下に経済発展が大幅に遅れていたが、89年以来の共産主義体制崩壊後、市場経済化に向けた努力を行っており、上述のアルバニア、旧ユーゴースラヴィア以外の中・東欧諸国も先進諸国から支援を受けることとなった。我が国は、中・東欧諸国のうち、ポーランド、ハンガリー、チェッコ、スロヴァキア、ブルガリア、ルーマニアに対して援助を供与することとし、96年度からはバルト3国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)、97年度からはウクライナ、モルドヴァも我が国ODAの対象国とした。
中・東欧諸国はポーランド、ハンガリーを先駆けとして、89年以来民主化及び自由化の動きが劇的に進展し、現在は民主的政権の下で市場経済化に向けて経済改革が進められている。市場経済への円滑な移行のためには、自由主義経済諸国からの経営管理技術の導入及び資金供給が必要とされている。また、中・東欧諸国の環境問題は周辺諸国にも影響を与えるほど深刻である。更に、疲弊した経済インフラなど、中・東欧諸国の抱える課題は大きい。
(2) 中・東欧諸国に対し、先進諸国はG24(対中・東欧諸国支援国会合)の枠組みの下で、その改革を積極的に支援している。G24は、対ポーランド、ハンガリー支援を協議・調整することを目的として89年7月に発足し、EU加盟15カ国、我が国、米国、カナダ、豪州等の24カ国及びIMF、世銀、OECD等の国際機関が参加している。支援対象国は当初の両国に、チェッコ、スロヴァキア、ブルガリア、ルーマニア、アルバニア、バルト三国、スロヴェニア、マケドニア旧ユーゴースラヴィア共和国、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナが加わった。
また、91年4月には、中・東欧諸国及び旧ソ連諸国の市場経済への移行を支援するため欧州復興開発銀行(EBRD)がロンドンに設立された。中・東欧地域における経済発展状況については、ポーランド、チェッコ、ハンガリー、スロヴェニアなど改革が順調に進展している諸国、それに続くスロヴァキア、クロアチア、遅れをとっているルーマニア及びブルガリア、そして紛争の影響で改革が停滞あるいは手つかずの状態にあるボスニア・ヘルツェゴヴィナ、アルバニア、マケドニア旧ユーゴースラヴィア、ユーゴースラヴィアと、国または地域により格差が著しく拡大しつつある。このため、各国の実情に応じた適切な支援を実施する必要がある。
(3) 旧ユーゴースラヴィア問題については、95年11月の包括和平合意(デイトン合意)を受け約4年にわたる紛争が終息した。しかし、依然として根深い民族間の相互不信と対立のため和解促進は容易でなく、今後の情勢は予断を許さない。また新ユーゴースラヴィアのコソヴォ自治州においては、独立を求めるアルバニア系住民とユーゴースラヴィア当局との間で武力衝突が続いたため、99年に入り政治的解決を目指して国際社会による調停作業が行われたが、ユーゴースラヴィア側の拒否により調停が不調に終わった後、3月24日、NATOはユーゴーに対する空爆に踏み切った。一方、政治的解決のための努力は引き続き行われ、6月3日、ユーゴー側は和平案を受諾、コソヴォ問題はひとまず決着したが、この間に発生した多数の難民に対する人道支援、コソヴォ及び周辺国への復興に対する支援が大きな課題として残されている。また、2000年9月に行われたユーゴスラヴィア大統領選挙においてミロシェヴィッチが敗れ、コシュトゥーニツァ政権が誕生したことを受け、国際社会は同国の民主化、国際社会への復帰に向けた努力を支援している。
(4) 二度の世界大戦の惨禍に見舞われた中・東欧諸国の安全保障と経済発展に対する関心は極めて強く、各国は西欧への仲間入りを目指して様々な取り組みを行ってきており、西欧と中・東欧の政治・経済両面での一体化が具体的に動き出している。まず、NATOは、97年7月のマドリッド首脳会議において、加盟希望12か国のうちチェッコ、ハンガリー、ポーランドの3カ国をNATO東方拡大の新規加盟交渉の対象国と決定し、99年3月これら3カ国の正式加盟が実現した。今後は、NATO拡大第二陣へ向けての動きとともに、EUの拡大に焦点が移ることとなる。97年7月欧州委員会は、市場経済化や民主化の進捗状況等を検討し、チェッコ、ハンガリー、ポーランドの3カ国に加え、エストニア、スロヴェニア、サイプラスとの新規加盟交渉を98年に開始することを提言した「アジェンダ2000」を採択し、これら諸国との加盟交渉は同年3月に開始された。加盟候補国は97年12月の欧州理事会で正式決定されたが、行政面での社会制度等のEU基準達成への努力とともにEU共通財政の見直しが必要となっている。また、99年12月のヘルシンキ欧州理事会において、スロヴァキア、ブルガリア、ラトヴィア、リトアニア、ルーマニア、マルタの加盟希望6カ国を新たに加盟交渉開始国とすることが決定され、2000年2月、正式に加盟交渉が開始されている。