2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) 我が国は、01マレイシアが我が国と貿易、投資等の面で密接な相互依存関係を有するなど、我が国にとって政治・経済面において重要な存在であること、02また、調和のとれた安定した複合民族国家構築のため人造りを重視しており、労働倫理、経営哲学を日本等に学ぶ「東方政策」を推進しており、我が国との関係が全般的に極めて良好であること、03更に、80年代以降の急速な経済発展に伴い、環境、貧富の格差等様々な問題が顕在化していること、0497年のアジア経済危機による経済困難を経験しているマレイシアは、為替管理措置・固定相場制を導入しつつ、積極財政による景気刺激策、不良債権処理を含む金融セクター改革等の実施により困難の克服を図っているが、マレイシアの経済回復努力を支援する必要があること等を踏まえ、援助を実施する。
 なお、最近マレイシアから、経済構造の一層の高度化のために、我が国からの技術移転を求める声が強まっていること、マレイシアが情報産業に力を入れており、クアラ・ルンプール近郊に新たな情報都市「サイバージャヤ」を建設し、「マルチ・メディア・スーパー・コリドー計画(MSC)」を推進している点に留意する。
(2) 我が国は、マレイシアの社会・経済開発努力を積極的に支援するため、98年10月発表の新宮澤構想を踏まえ、99年3月及び4月にほぼ5年ぶりに円借款(総額1,140億7,300万円)を供与した。更に2000年3月には特別円借款1件を含む計3案件に対する円借款(総額1,192億4,700万円)を供与した。円借款のほか、政府開発援助(ODA)援助以外の公的資金協力として、国際協力銀行(JBIC)の国際金融等業務による保証の活用及び9億ドル相当円程度の融資を表明している。
(3) 我が国は、マレイシアにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び93年3月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等におけるマレイシア側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。
(イ) 環境保全
 マレイシアの持続的な発展のためには、環境と開発の両立が必要。開発に当たっては環境面に最大限の注意が払われるべきであり、(a)森林等の自然資源の保全及び持続可能な利用、(b)都市環境の改善・整備、(c)産業公害対策等に留意しつつ協力を行う。
(ロ) 貧困撲滅と地域振興
 マレイシアでは急速な経済発展によりセクター間や地域間での所得格差が拡大した。絶対貧困層は劇的に減少したものの、相対的な貧困の問題が顕在化しているため、この問題に対しては、(a)地方振興(経済・社会基盤の整備)、(b)農業振興、(c)農村工業振興を最優先に対処する。
(ハ) 人材及び中小企業の育成
 今後のマレイシアの発展に必要な、(a)人材育成、(b)中小企業・サポーティング・インダストリーの育成を重点的に支援する。
 人材育成としては、熟練工・技術者への職業訓練や高等教育への支援を中心としつつ、高付加価値産業、金融セクター、福祉・安全・衛生における人材育成に加え、東方政策、女性のエンパワーメントへの協力について、同国の優先度を考慮しつつ、具体的な協力を検討する。また、昨今の情報通信技術(IT)の重要性の高まりを踏まえ、情報通信技術への協力についても具体的な協力を検討する。また、中小企業育成としては、中小企業が国際競争力を備え、経済成長を支える輸出産業と連携するサポーティング・インダストリーとして育成されるよう、産業の研究開発能力の向上及び生産性・付加価値向上、情報処理技術の向上及び利用普及、サービス部門の育成、試験・標準にかかる能力向上及び調和化等への協力について、同国の優先度を考慮し、具体的な協力を検討する。
(4) 97年6月の対マレイシア援助技術協力政策協議において、マレイシア側より、重点分野については、(イ)科学技術、(ロ)情報技術(IT)、(ハ)人材育成、(ニ)環境の4分野の提示があったが、我が方からは、科学技術・情報技術については、人材育成・中小企業育成といった観点からの協力を行うなど、再検討を要する旨回答している。
(5) 我が国はマレイシアに、99年支出純額で1.22億ドルを供与しており(我が国二国間ODAの第15位)、99年までの支出純額累計で17.62億ドルを供与している(同第13位)。
 有償資金協力については、これまで経済インフラ整備(エネルギー開発等)を中心に行ってきている。但し、マレイシア国民の一人当たりGNP(98年3,600ドル)が我が国円借款基準を上回る(中進国)ようになったことに鑑み、94年度を最後に通常の円借款を「卒業」し、その後は例外的に検討を行うこととしている。例外的に検討を行う趣旨としては、「急速な経済成長に伴って生じた歪みの是正」への協力が挙げられており、対象分野としては、「環境改善」、「貧困撲滅・所得間格差是正」に加え、「中小企業育成」及び「人材育成」についてもこれに資する案件であれば採り上げることとされている。97年度までは特に要請はなかったが、アジア経済危機による経済困難を背景に、99年3月及び4月に、東方政策(留学プログラム)や高等教育借款基金計画等、総額1,140億7,300万円の円借款を供与する旨の交換公文の署名が行われた。なお、98年12月には経済危機の影響を受けているアジア諸国等の経済構造改革支援のための特別円借款が創設され、通常枠とは別枠で供与されることになったが、マレイシアについては特別円借款の対象分野であれば、上記の分野以外の案件についても供与することとしている。99年3月には、この特別円借款を含むプロジェクト案件の要請を受け、同年8月に政府調査団を派遣した。これを踏まえ、2000年3月、生産基盤強化のための火力発電所リハビリ計画に対する特別円借款を含む、総額1,192億4,700万円の円借款を供与する旨の交換公文の署名が行われた。
 マレイシアは国民一人あたりのGNPが比較的高いため、無償資金協力は原則として文化無償及び草の根無償のみ実施しているが、アジア経済危機に対する支援として、マレイシアの政府派遣留学事業を継続させるための緊急無償援助(約4億5,400万円)を97年度に実施している。
 技術協力は、同国の経済開発が進んだ結果、農林水産、鉱工業、医療等の分野の人造り支援に加え、環境や産業育成支援等の分野での比較的高度な協力の割合が高い。また、アジア地域の通貨・経済危機による経済困難の影響を踏まえ、「日・ASEAN総合人材育成プログラム」に基づき、人材育成への協力を実施している。
 開発調査は、従来、エネルギー、都市整備、治水計画、工業化計画等の社会・経済インフラの分野を中心に実施していたが、近年は、従来のシステムを改善する案件や地域格差是正に資する案件を積極的に実施している。
 我が国は、急速なマレイシアの経済成長を受けて、マレイシアが一歩進んでより主体的な援助国へ移行できるよう、同国の「援助国化」に向けた南南協力支援を推進している。
(6) 緊急援助については、97年、インドネシアで発生した森林火災の煙害は、隣国であるマレイシアにも及んだ。このため、我が国は、マレイシアに対して煙害による大気汚染の状況及び人体に及ぼす影響に関して、専門的助言・指導を行うため、国際緊急援助隊・専門家チームを派遣した他、消火器の緊急援助物資(1,800万円相当)を供与した。
(7) 急激な経済発展を進めてきたマレイシアは、種々の環境問題に直面しており、今後も持続的な発展を実現するためには、都市、農村を問わず環境の保全に十分注意を払うべき旨が国家開発計画(NDP:1991~2000年)の基本方針にも盛り込まれている。

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