2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) フィリピンは(イ)近隣国として長年にわたり我が国と緊密な関係を保ち、両国関係は良好に推移しており、特に貿易・投資等の面で我が国と密接な関係を有すること、(ロ)80年代後半以降、IMF等の指導の下、経済構造改革を積極的に推進し一定の成果を上げたが、アジア経済危機の影響により経済は減速したため、生産性向上・国際的競争力の強化をはじめ、経済成長回復のための支援を必要としていること、(ハ)依然として多くの貧困層を抱える国であり(98年の貧困人口率約35%)、援助需要が大きいこと、また、(ニ)貧困撲滅は現政権の重点政策の一つであること、等を踏まえ援助を実施する。
(2) また、98年、フィリピンはアジア経済危機の影響を受けた通貨ペソの下落に加え、エル・ニーニョ現象による農業生産の不振により景気後退を余儀なくされた。我が国は、フィリピンの一層の経済・社会改革努力を支援するため、99年3月東京で開催された対フィリピン支援国会合において、新宮澤構想の一環としてアジア開発銀行との協調融資により供与した円借款363億円に加え第23次円借款1,357.4億円の供与を表明、無償資金協力、技術協力とあわせて総額約1,865億円の支援を表明した。この他にも、同じく新宮澤構想に基づく、援助以外の公的資金協力として、輸銀を通じた総額16億ドル相当円の支援を表明した。
(3) 我が国は、フィリピンにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び99年3月に派遣した経済協力総合調査団等によるフィリピン側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。また、同重点分野は、2000年8月に作成・公表された対フィリピン国別援助計画にも反映され、今後の我が国の対フィリピン援助の基本方針となっている。
(イ) 持続的成長のための経済体質の強化及び成長制約要因の克服
(a) 適正なマクロ経済運営
 政府及び民間の資金調達の円滑化、技術協力を活用した中長期的な経済運営能力の強化
(b) 産業構造の強化(特に裾野産業育成への支援)
 サポーティング・インダストリーの育成、中小企業向け資本市場整備、産業構造強化のための人材育成
(c) 経済インフラ整備
経済発展のボトルネックとなりうる経済基盤の未整備の克服(特に都市部と地方部のバランスや産業拠点の強化に配慮)
(ロ) 格差の是正(貧困緩和と地域格差の是正)
(a) 農業・農村開発
 農業生産性の向上、農村における基礎的社会・経済インフラ整備、農民組織の強化、農地改革の推進
(b) 基礎的生活条件の改善(保健医療、上下水道整備、都市貧困層への対策)
(ハ) 環境保全と防災
(a) 環境(行政能力の強化、一般廃棄物対策、産業公害対策、自然環境保全)
(b) 防災(災害常襲地帯を中心とした対策)
(ニ) 人材育成及び制度造り
(a) 初等・中等教育の普及と質の改善
 校舎・教室・教育機材等の供与ハード面の整備への支援、教員養成・研修、地方の教育行政官の能力向上等
(b) 技能・技術教育の充実
 各種技能・技術の向上及び地域社会の産業ニーズに合った教育の提供
(c) 行政能力の向上と制度造り(特に地方政府に配慮)
(4) 2000年2月下旬~3月上旬には関係省庁から成るミッションを派遣し、フィリピン側と経済協力政策協議を行い、99年3月の経済協力総合調査団で取り上げた4つの重要分野のフォローアップを行うとともに、対比経済協力実施上の問題点(既往案件の円滑な実施、無償資金協力のコストに係る負担(輸入関税等)、技術協力協定)に係る議論を行い、両国間の認識を共有した。
(5) 2000年6月には第23回フィリピン支援国会合が、はじめてフィリピンで開催され、社会経済発展、貧困削減、構造改革等に関する議論が行われ、ドナーより総額約26億ドルの支援が表明された。我が国はフィリピンに対する最大の援助国として、援助の効果的かつ効率的な実施を求めつつ、同国の持続的な経済成長に向けた努力を支援するため、第24次円借款として10案件に対し総額599億8,700万円を新たに供与することを表明した。
(6) 我が国はフィリピンに対して、99年に4.13億ドル(支出純額)を供与しており、フィリピンは我が国二国間ODAの第6位の受取国となっている。また、99年までの累計額は88.43億ドル(支出純額)で第3位である。また、フィリピンにとり、我が国は最大の援助国であり、フィリピンが受け取る二国間ODAの半分以上(98年シェア56.4%)を供与している。
 有償資金協力については、電力等のエネルギー分野及び道路、港湾等のインフラ整備の案件が中心となっているが、近年は環境保全、地域間格差是正等にも重点を置いている。
 無償資金協力については、来から、教育・人造り分野及び国民の福祉向上に直接資する基礎生活分野や農業分野に重点を置いているが、特に近年は、保健・医療施設の整備や防災対策に資するプロジェクト等幅広い協力を実施している。99年度には食糧増産、医療等の分野の5案件、ノン・プロジェクト無償、草の根無償、文化無償により総額85.28億円を供与した。
 技術協力では、従来から、農業、産業技術、医療、教育・職業訓練等幅広い分野における人造り協力を進めている。99年度には、引き続きエイズ等の保健・医療、農村の生活改善、農村振興に関するプロジェクト方式技術協力を行っている。また、2000年7月より、農民の所得向上に対する協力を開始した。開発調査は、これまで、インフラ整備、地域開発、農業、水資源、鉱工業、電力、環境等多岐にわたる分野において実施してきており、99年度は、交通、治水、農業等で新規案件を開始した。
(7) 環境分野については、フィリピンにおいては環境保護法等の法令面の整備は行われているものの、その執行が不十分であることに鑑み、技術協力を中心に、政府関係機関の行う環境モニタリング、環境影響評価や環境改善指導の実施体制の整備、人材育成に対する支援を行うこととしており、これまで首都圏の一般廃棄物処理及び産業公害対策、森林等環境保全、上下水道の整備等を実施してきている。
(8) また、我が国はフィリピンを人口・エイズ協力の重点国と位置付けている。人口分野については、家族計画や母子保健に関する広報活動などを行う「家族計画・母子保健プロジェクト2」(プロジェクト方式技術協力:97年4月~2002年3月)を継続実施している。またフィリピンは94年度から新たに設けられた「人口家族保健フロントライン計画」の対象国となっている。この計画は、人口家族計画分野について地域住民に密着したきめの細かい協力を行うため、青年海外協力隊や医療専門家等の協力を得ながら、避妊具や避妊薬、保健婦や助産婦の使用する簡易医療機材等の供与を行うものである。
 エイズ分野については、これまで数次にわたり協力検討のための調査団を派遣してきており、現在は「エイズ対策プロジェクト」(プロジェクト方式技術協力:96年7月~2001年6月)等を実施している。

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