IV 中近東地域


1.概  説

(1) 中近東地域は、域内21カ国によって構成される。同地域は世界の原油確認埋蔵量の65%を有し、世界の石油生産量の31%を占めている。我が国は輸入原油量の85%を中近東地域に依存しており、安定的なエネルギーの確保の観点から重要性は非常に高い。
(2) 中近東地域は広範かつ多様な国家からなる。気候の面では、高湿度の紅海及びペルシャ湾沿岸、地中海性気候の北アフリカ、高山性気候のアラビア半島南部等を除き、大半の地域は乾燥気候である。民族的には、アフガニスタン、イスラエル、イラン、トルコ等を除いた国では、主にアラブ系民族から構成されている。
 政治体制面では湾岸諸国の王制・首長制に始まり、トルコ、エジプト等の共和制、イランのイスラム共和制等多様である。また、地域的機関として、アラブ連盟をはじめ、81年にサウディ・アラビア、クウェイト、オマーン、ア首連、バハレーン、カタルを構成国として設立された湾岸協力理事会(GCC)、アラブ・マグレブ連合(5カ国で構成)等が存在する。
 経済面でも、中近東地域は、非常に多様であり、天然資源の分布状態の差異、各国の歴史的要因等により所得水準が大きく異なる。湾岸諸国の中では、豊富な石油収入を元に経済社会開発を推進し、インフラ整備等の面において相当の水準に達している国も見られるが、人材不足、厳しい自然条件や耕地面積の狭小さ等農業開発への様々な制約、人口の急増、都市化の進行、これらにより生ずる食糧自給率の低下等の様々な問題を抱えている国もある。更に、少ない天然資源、財政赤字、民間部門の成長の伸び悩み等から、農業、基礎保健医療、水供給等基礎生活分野にさえ十分な予算が確保できないほど経済的に困難な状況にある国もある。
(3) 中近東地域は、第二次世界大戦後これまで4度にわたるイスラエルとアラブ諸国間の中東戦争、レバノン紛争、アフガニスタンへの旧ソ連の侵攻及び同国撤退後の内戦、イラン・イラク紛争、湾岸危機等多くの紛争が発生する等不安定な地域であり、国際経済や世界の平和と安定に大きな影響を及ぼしてきた。
 中東和平問題については、湾岸危機後の91年10月、史上初めて全関係当事者(イスラエル、シリア、レバノン代表団及びジョルダン・パレスチナ人合同代表団)が参加したマドリード中東和平会議が開催され、当事者同士による二国間交渉が開始された。また、92年1月には、中東和平地域問題会議がモスクワで開催され、いわゆる「多国間協議」のプロセスが開始された。この協議は、環境、経済開発、水資源、難民、軍備管理の5つの作業部会(WG)と運営委員会から成り、我が国は、環境WGの議長、経済開発、水資源、難民WGの副議長、運営委員会のメンバーとして積極的に貢献している。
 二国間交渉については、94年5月にパレスチナ暫定自治が開始され、同年10月にはジョルダンとイスラエルの間で平和条約が締結され、更に95年9月にはパレスチナ暫定自治を拡大する暫定自治拡大合意が締結される等、徐々に進展を見せた。その後、97年にはイスラエルが東エルサレムに入植地を建設したことや、自爆テロ等の影響から和平プロセスが膠着し、98年10月成立したワイ・リバー合意も間もなくその実施が凍結された。しかし99年7月、イスラエルにおいて和平推進派であるバラック政権が成立し、パレスチナ、レバノン、シリアの全てのトラックにおいて和平に取り組む姿勢を明らかにし、99年9月にはパレスチナとの間でシャルム・エル・シェイク合意を締結した。2000年7月のキャンプ・デービッド首脳会談は成果なく終わったものの、パレスチナ最終地位合意締結を目指し、現在様々なレベルで交渉が進められた。また、バラック政権は、2000年5月にはイスラエル軍をレバノンから撤退させ、22年間に亘るレバノン占領を終了させた。しかしながら、2000年9月にイスラエルのシャロン・リクード党首の「神殿の丘」訪問を契機として、イスラエル・パレスチナ間に衝突が発生、現在も収拾しておらず、和平プロセスの進展は予断を許さない状況となっている。
 我が国も、和平プロセスを後押しするためにパレスチナをはじめとする和平当事者に対し、経済的支援を実施、93年2月に2年間で2億ドル、98年11月ワシントンで開催された対パレスチナ支援閣僚会合において2年間2億ドルの支援を表明、既に5億7千万ドルを越えるパレスチナ支援を実施している。また、我が国は99年1月には高村外務大臣(当時)を中東地域に派遣し、パレスチナ評議会での政策スピーチや「南レバノンに関する4項目の提案」を通じて、和平当事者に対し和平プロセスの推進を働きかけ、更に99年10月には東京でパレスチナ支援東京会議を開催する等、政治的役割を積極的に果たしてきている。今後の中東和平地域への支援は、現在停滞している和平プロセスの動向を見つつ検討していくこととなる。

図―1 中近東地域



表―1 中近東諸国の人口、一人当たりGNP及び我が国との関係
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