開発協力事業(開発投融資を含む)の概要と実績


  1. 事業の開始時期・経緯・目的

    (1) 開始時期
     昭和49年度の国際協力事業団(JICA)設立に際し、同事業団の前身である海外技術協力事業団及び海外移住事業団から引き継いだ業務以外の新規業務として創設。

    (2) 経緯及び目的
     我が国の経済協力においては、従来必ずしも政府ベース経済協力と民間ベース経済協力の連携あるいは資金協力と技術協力の結びつきが十分ではなかったとの認識から、これらの連携や結びつきを強化することにより、我が国の国際協力の一層の拡充及び強化を図ることをねらいとして創設された。
     開発途上国の自立的経済発展のために民間部門の果たす役割は極めて重要である。このような観点から、開発協力事業は、本邦企業等が行う開発事業に必要な資金や技術の提供を通じて、途上国の社会基盤整備、企業振興、輸出促進等を中心に、その自立的経済発展に資することを目的とするものである。

  2. 事業の仕組み

    (1) 概要
     開発協力事業は、本邦企業等が開発途上地域等において行う開発事業のうち、地域の社会開発並びに農林業及び鉱工業の開発に寄与する事業に対し、必要な資金を貸付け又は出資し、併せて当該途上地域等に対して必要な技術支援を行うものである。
     本事業は、貸付及び出資に係る業務(開発投融資業務)及び技術支援に係る業務(調査・技術指導業務)に大別される。

    (イ)開発投融資業務
     開発投融資業務は、本邦企業等が開発途上地域等において行う開発事業のうち、国際協力銀行からの資金供給が困難なものについて、当該地域の経済社会の発展と民生安定に資する経済協力効果の高いものを対象として、ソフトな条件の資金を提供し、事業の円滑な実施に協力しようとするものである。
     開発投融資の対象となる事業としては次の2つがある。
    (1)関連施設整備事業
     国際協力銀行等から貸付等を受けている開発事業に関連して必要な施設で、周辺地域の住民の生活、福祉の向上に資する公共性の高い施設(教会、診療所、道路、港湾施設、上下水道施設、集会場等)の整備事業。
    (2)試験的事業
     開発事業のうち試験的に行われる事業であって、技術の改良又は開発と一体として行わなければその達成が困難な事業。具体的な例としては、農業分野の栽培試験、家畜等の飼養試験、林業分野の造林試験、未利用樹加工試験、鉱工業分野の原料炭・燐鉱石等資源の採掘・選鉱・精錬試験、社会開発分野の低価格住宅の建設等がある。
    (ロ)調査・技術指導業務
     調査・技術指導業務は、開発事業が円滑に実施され、開発途上国にとっても有益な効果をもたらすように、企業等の要請に基づいて各種の技術支援を実施するものである。この技術支援には、融資前に行われる現地踏査や資料収集を中心とした各種調査と、融資実行後に行われる技術指導がある。
    (1)調査
    a)開発基礎調査
     開発投融資の対象となりうる開発事業について、資料収集や現地踏査を行い、事業の可能性を検討し、開発の基本計画や事業計画を立案する調査。
    b)投融資審査等調査
     現地において、開発投融資資金の適正使用を審査するとともに、事業の実施状況を把握し、事業実施後に発生した問題への対処方針の検討等を行う調査。
    c)現地実証調査
     本邦企業の海外投資活動のうち、技術・データ等がないため直ちに事業化することが困難なものについて、現地において基礎的データを収集し、技術的可能性を実証する調査。
    d)地域開発効果等評価調査
     一定期間経過した開発投融資案件について、当該事業が地域の社会・経済開発にどの程度寄与しているか等を測定・評価し、地域開発効果に何らかの阻害要因がある場合には、その軽減・除去のための方策を探る調査。
    e)環境保全関連開発投融資促進調査
     開発途上国では経済開発が優先され、環境保全は二次的なものとされる傾向があることに対応するため、環境保全案件の発掘形成を行う調査。
    (2)技術指導
    a)専門家派遣技術指導
     開発投融資対象事業及び一般の開発事業を対象に、本邦企業等の要請に基づき、当該事業の分野に精通した専門家を派遣し、現地において技術指導を行うもの。
    b)研修員受入技術指導
     開発投融資対象事業及び一般の開発事業を対象に、本邦企業等の要請に基づき、現地従業員の技術水準の向上のために、同従業員を研修員として本邦に受入れ、技術指導を行うもの。

    (2) 審査・決定プロセス
     融資を希望する本邦企業等からJICAへ提出された企画書により、事業の適格性、安全性等を詳細に検討、必要に応じて開発基礎調査を実施する。その結果、融資案件として適当と判断されたものについて、当該企業等から事業計画書を添付した借入予備申請書の提出を受ける。JICAにおいて書類審査後、関係各省、国際協力銀行との協議を経て、さらに当該企業等から正式な借入申請書を受け、JICAの投融資理事会にて承諾、融資が決定される。

    (3) 決定後の案件実施の仕組み
     上記(2)の承諾後、融資限度額を定めた融資契約を申請企業とJICAの間で締結する。資金の支出は、申請企業からJICAへ提出された資金交付願に基づき、融資契約の融資限度額の範囲内で、通常数回に分けて実行している。資金の交付中または交付後においては、投融資審査等調査団を現地に派遣し、事業の実施状況及び会計書類・会計帳簿等の調査を行い、資金の使途状況を確認するとともに、定期的に事業の実施状況、経営状況等について返済が完了時まで報告を受けている。
     また、技術指導(専門家派遣及び研修員受入)については、本邦企業等からJICAへ提出された申請書に基づき、審査の上必要と認められるものについて実施する。

  3. 最近の活動内容

    (1) 概要
     開発投融資業務においては、平成11年度の貸付実績は2件(2.0億円)、融資承諾実績は2件(1.3億円)であった。近年の本邦企業の海外進出は、日本国内の現下の経済情勢を反映して極めて低調にあり、収益の期待できない事業を対象としている本事業は、一層実施されにくい状況となっていることもあり、貸付実績及び融資承諾実績は停滞傾向にある。このような状況を打開するとともに、本事業をより利用しやすくするために、現在、担保・貸出金利等の融資条件のさらなる緩和等について検討中である。
     調査・技術指導業務においては、平成11年度は、調査団派遣が26件(2.9億円)、専門家派遣が37人(2.1億円)、研修員受入が15人(0.4億円)であった。

    (2) 地域別実績
    平成10年度と同様、平成11年度は、開発投融資業務、調査・技術指導業務とも、投資環境が比較的整備されているアジア地域が中心となっており、それに中南米地域が続いている。特に開発投融資業務の融資承諾実績は、1件がアジア地域、他の1件が中南米での案件となっている。

    開発投融資業務実績
    (貸付実績) (単位:億円)
    年度
    地域
    平成10年度平成11年度
    件数金額件数金額
    アジア63.310.1
    アフリカ00
    中近東00
    中南米11.311.9
    大洋州00
    東欧、中央アジア00
    74.622.0

    (融資承諾実績) (単位:億円)
    年度
    地域
    平成10年度平成11年度
    件数金額件数金額
    アジア 33.510.1
    アフリカ 00
    中近東 00
    中南米 010.3
    大洋州 00
    東欧、中央アジア 00
    73.521.3

    調査・技術指導業務実績
    (調査団派遣実績) (単位:億円)
    年度
    地域
    平成10年度平成11年度
    件数金額件数金額
    アジア211.8202.0
    アフリカ00
    中近東00
    中南米70.960.9
    大洋州00
    東欧、中央アジア00
    282.7262.9

    (専門家派遣実績) (単位:億円)
    年度
    地域
    平成10年度平成11年度
    人数金額人数金額
    アジア281.5331.1
    アフリカ00
    中近東00
    中南米51.041.0
    大洋州00
    東欧、中央アジア00
    332.5372.1

    (研修員受入実績) (単位:億円)
    年度
    地域
    平成10年度平成11年度
    人数金額人数金額
    アジア200.4120.3
    アフリカ00
    中近東00
    中南米100.230.1
    大洋州00
    東欧、中央アジア00
    300.6150.4

    (3) 主要な具体的事業・案件名及び内容
     分野別にみると、平成10年度同様、平成11年度は、農林業が中心となっている。特に開発投融資業務においては、農林業のみの実績となっている。
     平成11年度新規に融資承諾された案件としては、試験的事業ではマレイシア「園芸作物栽培試験事業」、パラグァイ「イチョウ葉生産試験事業」の2案件がある。
     前者は、輸入代替農産品の生産振興を図り低地における市場性の高い園芸作物生産を奨励するマレイシア政府の意向に合致する形で、日本向けに現地で生産される天ぷらの具材に供するタマネギ、ニンジンや健康食品用のアロエベラを生産するものである。後者は、薬用効果が高いとされ栄養補助の健康食品としての需要の大きなイチョウ葉エキスの原料となるイチョウの亜熱帯地帯での栽培方法の確立を試みるものであり、パラグァイ側からは作物の多様化による農業振興とともに、輸出作物創出による新たな外貨収入源となることが期待されている。
     また、過去の融資承諾案件で、平成11年度においても貸付実行が行われた案件の例としては、平成8年度承諾のモンゴル「馬肥育試験事業」がある。木曾馬のルーツと目されているモンゴル馬に着目し、将来の馬肉生産基地を確保し、安定供給を図ることを目的に、素馬の選抜試験及び肥育試験等が実施されているものである。


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