国際協力銀行(JBIC)が行う円借款の概要と実績
- 事業の開始時期・経緯・目的
(1) 開始時期
昭和36年に、海外経済協力基金法(昭和35年12月27日法律第173号)により、海外経済協力基金が設立され円借款業務を開始した。その後、平成11年10月1日に、国際協力銀行法(平成11年4月23日法律第35号)により、海外経済協力基金と日本輸出入銀行が統合し、国際協力銀行(略称 JBIC:以下、JBICという。)が設立された。(2) 経緯及び目的
JBIC は、一般の金融機関と競争しないことを旨としつつ、わが国の輸出入若しくは海外における経済活動の促進又は国際金融秩序の安定に寄与するための貸付け等(「国際金融等業務」という。)並びに開発途上にある海外の地域(「開発途上地域 という。以下同じ。)の経済及び社会の開発又は経済の安定に寄与するための貸付け等(「海外経済協力業務」という。以下同じ)を行い、もって我が国及び国際経済社会の健全な発展に資することを目的としている。
- 事業の仕組み
(1) 概要
JBIC の海外経済協力業務では、開発途上地域の外国政府等その他経済企画庁長官が定める者に対して、その行う開発事業の実施に必要な資金又は当該地域の経済の安定に関する計画の達成に必要な資金を貸し付ける円借款業務と、我が国又は開発途上地域の法人等その他経済企画庁長官の定める者に対して、その行う開発事業の実施に必要な資金を貸し付け、又は当該事業の遂行のために特に必要があるときは出資をする海外投融資業務を行っている。(2) 審査・決定プロセス(円借款業務)
開発途上国政府より在外公館等を通じた要請がなされた後、関係4省庁(経済企画庁、外務省、大蔵省及び通商産業省)及び JBIC による検討が行われる。JBIC は、補完的な調査が必要と判断した場合に、案件形成促進調査 (SAPROF) を行うことがある。
その後、原則として、政府調査団の派遣による相手国政府との協議を経た後、 JBIC アプレイザルミッションが派遣され、相手国政府、実施機関等との協議、調査等を行う。この JBIC アプレイザルミッションの結果を踏まえて、4省庁によって借款供与額、条件等に係る協議、決定が行われ、その内容が相手国政府に事前通報される。
続いて、政府間で交換公文が締結され、それを受けて、JBIC と相手国政府等との間で借款契約の調印が行われる。(3) 決定後の案件実施の仕組み(円借款業務)
円借款案件においては、通常、設計、入札補助等のためにコンサルタントが雇用されるが、その場合は、国際的に行われている選定方法 (ショートリスト方式等) によって選定される。続いて、プロジェクトに必要な資機材・サービスが、原則として、国際競争入札によって調達される。なお、こうした調達は借入国の責任において、JBIC が公表しているガイドラインに沿って行われることとなっているが、JBIC は、調達の各段階において必要に応じて、調達手続の確認を行い、経済性、効率性、透明性及び非差別の確保の原則に従った調達の確保を図っている。
借款資金の貸付は、原則として、事業の進捗に応じて実際に資金需要が発生したときに行われる。
プロジェクトの実施主体は、あくまで借入国であるが、JBIC はその円滑な実施に向け、必要に応じて適宜助言等を行って協力している。このような実施管理の重要性は年々高まっており、事業の効果的な実施のために特に必要と判断される場合には、追加的、補足的調査を行う案件実施支援調査 (SAPI) を行うことがある。
プロジェクトの完成後は事後評価を実施し、そこから得られた教訓を JBIC 内部、及び、相手国政府、実施機関にフィードバックし、その後のプロジェクトの形成、アプレイザル、実施、事後監理に役立てる。また、完成したプロジェクトの効果の持続あるいは一層の向上のために、借入国の求めに応じ、援助効果促進業務 (SAPS) を行うことがある。(3) 経済社会理事会
経済社会理事会は、国連、専門機関等諸機関の経済的、社会的活動を調整する機関である。経済社会理事会は、経済、社会、文化、教育、保険、人権分野の国際事項について、研究と報告を行い、これらの事項について、総会、加盟国及び関係専門機関(国際労働機関(ILO)、国連食糧農業機関(FAO)等17機関)に勧告し、右勧告を通じて専門機関の活動を調整することを主な任務としている。理事会は3年の任期を持つ54ヶ国の理事国で構成される。表決は単純多数決で、各理事国は1票を持つ。
- 最近の活動内容(円借款業務)(実績数字はすべて借款契約 (L/A) ベース)
(1) 概要
11年度の円借款実績は、承諾額1兆537億円(前年度比5.2減)、貸付実行額7,874億円(前年度比12.8減、過去第3位)となった。また、円借款の貸付残高は、10兆2,716億円(前年度比4.9増)となった。
(備考)
(承諾、実行及び残高実績) (金額単位:億円) 年 度 承諾額 実行額
(グロス)残 高 10 円借款
海外投融資11,116
169,031
6997,941
1,886合 計 11,132(8.1) 9,100(40.1) 99,826(6.6) 11 円借款
海外投融資10,537
97,824
25102,716
1,871合 計 10,546(▲5.3) 7,899(▲13.2) 104,587(4.8) 昭和36年~
平成11年
累 計円借款
海外投融資190,931
5,151131,997
4,679102,716
1,871合 計 196,082 136,673 104,587
1.承諾額、実行額については、債務救済分を除く。
2.数値は四捨五入の関係上合計が一致しない場合がある。
3.( )内は、対前年度伸び率(%)。(2) 借款条件
昨年度に続き、地球環境問題対策やアジア諸国の経済改革支援に対し優遇された貸付条件が適用されたことから、11年度に承諾された円借款の平均金利は1.36、平均償還期間は33年1か月(うち据置期間9年4か月)であった。この結果、円借款の援助条件の緩やかさを示す指標であるグラント・エレメントは72.0と、過去最高を記録した昨年度とほぼ同水準となった。
また、調達条件については、一般アンタイド(調達先に一切の制限が無い調達条件)の比率が83.6、部分アンタイド(日本及び DAC 援助受取国リスト(パートI及びパートIIの両者)の全てを調達適格国とする調達条件)の比率が3.0、二国間タイド(日本及び借入国のみを調達適格国とする調達条件)の比率が11.6、タイド(日本のみを調達適格国とする調達条件)の比率が1.9であった。(3) 地域別実績
11年度の円借款の地域別承諾状況は、アジア81.5%、中南米8.1%、中近東6.9%、アフリカ3.5%と従来通りアジア向けが中心となっている。平成11年の供与対象国数は20か国であった。
一方、国別承諾状況は、中国18.3%、タイ14.4%、フィリピン12.9%、マレイシア11.9%、ベトナム9.6%が上位を占めている。
(備考)
(円借款地域別承諾額) (単位:億円、%) 年度
地域10年 11年 昭和41年~平成10年
合計アジア 10,077
(90.7)8,592
(81.5)155,197
(81.3)中近東 0
(0.0)726
(6.9)8,496
(4.4)アフリカ 394
(3.5)367
(3.5)13,172
(6.9)中南米 350
(3.1)851
(8.1)12,498
(6.6)オセアニア 0
(0.0)0
(0.0591
(0.3)東欧・その他 295
(2.7)0
(0.0977
(0.5)合 計 11,116
(100.0)10,537
(100.0)190,931
(100.0)
1.債務救済分を除く。括弧内は地域別割合。
2.数値は四捨五入の関係上合計が一致しない場合がある。(4) 部門別実績
承諾状況を部門別に見ると、開発途上国における根強いインフラ需要を反映して電力・ガス、運輸、通信、灌漑・治水等の経済インフラが全体の53.8と半分以上の割合を占めた。また、上下水道・衛生案件の増加を受けて、社会サービスが全承諾額の22.3と大幅に増加した。(備考)
(円借款地域別承諾額) (単位:億円、%) 年度 電力・ ガス運輸 通信 灌漑・治
水・干拓農林・
水産業鉱工業 社会的
サービス商品
借款等その他 合計 10 2,129
(19.2)3,355
(30.2)134
(1.2)352
(3.2)399
(3.6)351
(3.2)1,428
(12.8)2,968
(26.7)0
(0.0)11,116
(100.0)11 1,127
(10.7)3,468
(32.9)428
(4.1)643
(6.1)300
(2.8)620
(5.9)2,353
(22.3)1,598
(15.2)0
(0.0)10.537
(100.0)昭41年~
平11年計42,621
(22.3)51.032
(26.7)9,572
(5.0)10,336
(5.4)7,306
(3.8)16,279
(8.5)20,818
(10.9)32,406
(17.0)562
(0.3)190,931
(100.0)
1.債務救済分を除く。
2.数値は四捨五入の関係上合計が一致しない場合がある。(イ) 環境円借款
近年の開発途上国における環境案件に対するニーズの増大を反映して、11年度の円借款環境案件は合計37件、4,620億円となった。承諾額及び件数は過去最高となり、円借款承諾額全体に占める環境案件の割合は初めて4割を超えた。
また、温暖化対策に代表される地球環境問題対策案件や公害対策案件といった、特別に優遇された貸付条件が適用される特別環境案件は21件(合計3,439億円)にのぼった。
(備考)数値は四捨五入の関係上、合計が一致しない場合がある。
(環境案件の推移(承諾ベース))(金額単位:億円) 年度 承諾額
(件数)全体の円借款承諾
額に占める割合10 3,220 (32) 29.0% 11 4,620 (37) 43.8% (ロ) 人材育成、中小企業支援
平成9年12月に、開発途上国における民間投資受け入れの基盤強化を図るために、人材育成支援借款及び中小企業支援借款につき、特別環境案件と同等の緩和された貸付条件が適用されることとなった。11年度の円借款承諾実績における人材育成支援案件は合計3件、65億円であり、中小企業支援案件は合計1件、354億円であった。
(ハ) アジア経済支援 (1) 経済改革支援(10年4月)
平成10年4月の総合経済対策において、急激な為替レートの変動により経済危機に見舞われているアジア諸国の経済回復努力を支援するため、構造調整支援のための足の早い円借款につき、3年間に限って特別金利1%が適用されることとなった。11年度は、同制度による円借款承諾の実績は合計2件、1,079億円であった。
また、アジア通貨危機の影響により、ドルベースの所得水準が大幅に低下している国について、最近の為替レートを用いて計算された所得水準に基づき円借款金利を適用することとされ、11年度はマレイシアの適用金利が引き下げられた。(2) 新宮澤構想(10年10月)
本構想は、アジア諸国の実体経済回復等を目的として、円借款、輸銀融資等の資金支援を含む、合計300億ドル規模の支援スキームである。11年度において、本構想に基づき、JBIC は、社会的弱者対策、景気対策に重点を置き、3,658億円の円借款の貸付承諾を行った。(3) アジア諸国等の経済構造改革支援のための特別円借款(10年12月)
特別円借款制度は、平成10年11月の緊急経済対策を受けて、我が国企業の事業参加機会の拡大を図りつつ、経済危機の影響を受けているアジア諸国等の経済構造改革を実現することを目的として創設された。その後、平成11年11月の「経済新生対策」を受けて、対象国及び対象分野が拡大された。特別円借款制度の内容は以下の通り。
○事業規模: 平成11年度より3年間で6,000億円を上限。 ○供与条件: 金利0.95%(平成12年3月末現在)、償還(据置)期間40(10)年。 ○融資比率: 総事業費の85%までを融資対象。 ○調達条件: 原則として、主契約は日本タイド、一次下請け契約は二国間タイド、二次下請け以降の契約は一般アンタイド。 ○原産地ルール: 円借款融資金額の50%未満については、日本以外の国を原産とする資機材・サービスの調達を認める。 ○対象国: 経済危機の影響を直接又は間接に受けたアジア諸国を中心とする開発途上国。 ○対象分野: 1)物流の効率化(道路、港湾、空港、橋梁、鉄道、情報通信、輸送基地)
2)生産基盤強化(発電所、送配電、灌漑、パイプライン、上下水道、廃棄物処理、工業団地)
3)大規模災害対策(大規模災害が発生する危険性の高い国(過去に発生した国を含む。)においては、集合住宅を含む耐震性公共施設、消防・救急設備、気象網等の予防措置を含む。)
(備考)括弧内は件数。
(アジア経済支援承諾実績)(単位:億円) 年度 経済改革支援 新宮澤構想 特別円借款 10 3,008( 7) 2,545( 9) 0( 0) 11 1,079( 2) 3,658(22) 751( 3) 累計 4,087( 9) 6,203(31) 751( 3)
- より詳細な情報
(1) 書籍等
以下に示す年次報告書をはじめ、海外経済協力業務の事後評価報告書など各種の刊行物を発刊し、情報公開に努めている。なお、ホームページに刊行物の一覧を示している。
- 年次報告:
国際協力銀行の行う、国際金融等業務及び海外経済協力業務について報告するもの。本年度は8月末に刊行を予定してる。 (2) ホームページ
http://www.jbic.go.jp
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