海外経済協力基金(OECF、円借款)の概要と実績
- 事業の開始の時期・経緯・目的
(1) 開始時期
昭和36年に業務を開始。(2) 経緯・目的
海外経済協力基金(以下、「基金」という。)は、海外経済協力基金法(昭和35年12月27日法律第173号)により、昭和36年3月16日に設立された。
基金は、東南アジア地域その他の開発途上にある海外の地域(以下、「開発途上地域」という。)の産業の開発又は経済の安定に寄与するため、その開発又は安定に必要な資金で日本輸出入銀行からの貸付けその他の信用の供与及び一般の金融機関からの供給を受けることが困難なものについてその円滑な供給を図る等のために必要な業務を行い、もって海外経済協力を促進することを目的としている。
なお、平成11年10月1日に、基金は日本輸出入銀行(以下、「輸銀」という。)と統合され、新たに国際協力銀行が設立されることとなっている(その際、基金が行っているODA業務と、輸銀が行っている非ODA業務は、勘定・経理上明確に区分される)。
- 事業の仕組み
(1) 概要
基金は、開発途上地域の政府・政府関係機関等に対して、経済・社会開発若しくは経済の安定に必要な資金を直接融資する円借款業務と、本邦企業、現地企業等が開発途上地域で実施する開発事業等に必要な資金をこれら企業等に対して融資又は出資する海外投融資業務を行っている。(2) 審査・決定プロセス(円借款業務)
開発途上国政府より在外公館等を通じた要請がなされた後、関係4省庁(経済企画庁、外務省、大蔵省及び通商産業省)及び基金による検討が行われる。基金は、補完的な調査が必要と判断した場合に、案件形成促進調査(SAPROF)を行うことがある。
その後、原則として、政府調査団の派遣による相手国政府との協議を経た後、基金審査ミッションが派遣され、相手国政府、実施機関等との協議、調査等を行う。この基金審査ミッションの結果を踏まえて、4省庁によって借款供与額、条件等に係る協議、決定が行われ、その内容が相手国政府に事前通報される。
続いて、政府間で交換公文が締結され、それを受けて、基金と相手国政府等との間で借款契約の調印が行われる。(3) 決定後の案件実施の仕組み(円借款業務)
円借款案件においては、通常、設計、入札補助等のためにコンサルタントが雇用されるが、その場合は、国際的に行われている選定方法(ショートリスト方式等)によって選定される。続いて、プロジェクトに必要な資機材・サービスが、原則として、国際競争入札によって調達される。なお、こうした調達は借入国の責任において、基金が公表しているガイドラインに沿って行われることとなっているが、基金は、調達の各段階において必要に応じて、調達手続の確認を行い、経済性、効率性、透明性及び非差別の確保の原則に従った調達の確保を図っている。
借款資金の貸付は、原則として、事業の進捗に応じて実際に資金需要が発生したときに行われる。
プロジェクトの実施主体は、あくまで借入国であるが、基金はその円滑な実施に向け、必要に応じて適宜助言等を行って協力している。このような実施管理の重要性は年々高まっており、事業の効果的な実施のために特に必要と判断される場合には、追加的、補足的調査を行う案件実施支援調査(SAPI)を行うことがある。
プロジェクトの完成後は事後評価を実施し、そこから得られた教訓を基金内部、及び、相手国政府、実施機関にフィードバックし、その後のプロジェクトの形成、審査、実施、事後監理に役立てる。また、完成したプロジェクトの効果の持続あるいは一層の向上のために、借入国の求めに応じ、援助効果促進業務(SAPS)を行うことがある。
- 最近の活動内容(円借款業務)(実績数字はすべて借款契約(L/A)べ一ス)
(1) 概要
10年度の円借款実績は、承諾額1兆1,116億円(前年度比8.1%増、過去第3位)、貸付実行額9,031億円(前年度比39.9%増、過去最大)となった。また、円借款の貸付残高は、9兆7,941億円(前年度比6.7%増)となった。
(備考)
(承諾、実行及び残高実績) (金額単位:億円)年度 承諾額 実行額
(グロス)残高 9 円借款 10,286 6,457 91,810 海外投融資 12 39 1,841 合計 10,299(▲19.4) 6,496(5.4) 93,650(3.2) 10 円借款 11,116 9,031 97,941 海外投融資 16 69 1,886 合計 11,132(8.1) 9,100(40.1) 99,826(6.6) 昭和36年~ 平成10年累計 円借款 179,453 124,123 97,941 海外投融資 5,141 4,651 1,886 合計 184,594 128,774 99,826
1.承諾額、実行額については、債務救済分を除く。
2.数値は四捨五入の関係上合計が一致しない場合がある。
3.( )内は、対前年度伸び率(%)。(2) 地域別実績
10年度の円借款の地域別承諾状況は、アジア90.7%、アフリカ3.5%、中南米3.1%、東欧・その他2.7%、と従来通りアジア向けが中心となっている。前年度比では、アジア向け承諾の割合が増加しているが(前年度83.6%)、これは主に新宮澤構想に基づく円借款額が増加したことによる。
一方、国別承諾状況は、インドネシア20.7%、中国18.6%、フィリピン14.1%、タイ13.3%、マレイシア9.7%が上位を占めている。
なお、10年度中に、新規供与国としてボスニア・ヘルツェゴヴィナ、スロヴァキア及びアルメニアの3カ国を新たに加えて、円借款供与実績国は93カ国に達した。(3) 主要な具体的事業・案件及び内容
(備考)
(円借款地域別承諾額) (単位:億円、%) 年度
地域9年 10年 昭和41年~平成10年
合計アジア 8,599
(83.6)10,077
(90.7)145,753
(81.2)中近東 71
(0.7)0
(0.0)7,694
(4.3)アフリカ 447
(4.3)394
(3.5)12,805
(7.1)中南米 926
(9.0)350
(3.1)11,633
(6.5)オセアニア 23
(0.2)0
(0.0)591
(0.3)東欧・その他 220
(2.1)295
(2.7)977
(0.5)合計 10,286
(100.0)11,116
(100.0)179,453
(100.0)
1.債務救済分を除く。
2.数値は四捨五入の関係上合計が一致しない場合がある。
(イ) 借款条件
地球環境問題対策やアジア諸国の経済改革支援の二一ズが高まり、これらの案件に対し優遇された貸付条件が適用されたことから、10年度に承諾された円借款の平均金利は1.33%、平均償還期問は32年6ヶ月(うち据置期問9年7ヶ月)であった。この結果、円借款の援助条件の緩やかさを示す指標であるグラント・エレメントは72.2%まで増加し、過去最高となった。
また、調達条件については、一般アンタイド(調達先に一切の制限が無い調達条件)の比率が91.5%、部分アンタイド(日本及びDAC援助受取国リスト(パートI及びパート2の両者)の全てを調達適格国とする調達条件)の比率が7.2%、二国間タイド(日本及び借入国のみを調達適格国とする調達条件)の比率が1.3%であった。(ロ) 部門別実績
承諾状況を部門別に見ると、アジア通貨危機に対応するため、新宮澤構想に基づくノン・プロジェクト借款が増加したことにより、商品借款等が全承諾額全体の26.7%(前年度5.1%)と約3割を占めた。また開発途上国における根強いインフラ需要を反映して電力・ガス、運輸、通信、灌概・治水等の経済インフラが全体の53.8%と半分以上の割合を占めた。(ハ) 環境円借款 近年の開発途上国における環境案件に対するニーズの増大を反映して、10年度の円借款環境案件は合計32件、3,220億円となった。承諾額及び全体の円借款承諾額に占める割合(29.0%)は過去最高の水準に達し、件数も8年度と並んで最多となった。
円借款部門別承諾額
(単位:億円、%)(備考)
年度 電力・
ガス運輸 通信 灌漑・治
水・干拓農林水・
鉱工業社会的
サービス商品
借款等その他 合計 9 2,876
(28.0)3,232
(31.4)311
(3.0)893
(8.7)757
(7.4)1,697
(16.5)520
(5.1)0
(0.0)10,286
(100.0)10 2,129
(19.2)3,355
(30.2)134
(1.2)352
(3.2)750
(6.7)1,428
(12.8)2,968
(26.7)0
(0.0)11,116
(100.0)昭41~ 平10年計 40.992
(22.8)47,432
(26.4)9.036
(5.0)9,693
(5.4)22,544
(12.6)18,456
(10.3)30,807
(17.2)562
(0.3)179,453
(100.0)
1.債務救済分を除く。
2.数値は四捨五入の関係上合計が一致しない場合がある。
また、温暖化対策に代表される地球環境問題対策案件や公害対策案件といった、特別に優遇された貸付条件が適用される特別環境案件は27件(合計2,773億円)にのぼった。
環境案件の推移(承諾べース)(金額単位:億円)
(ニ) 人材育成、中小企業支援 平成9年12月に、開発途上国における民間投資受け入れの基盤強化を図るために、人材育成支援借款及び中小企業支援借款につき、特別環境案件と同等の緩和された貸付条件が適用されることとなった。10年度の基金の円借款承諾実績における人材育成支援案件は合計4件、353億円であり、中小企業支援案件は合計2件、203億円であった。
(備考) 数値は四捨五入の関係上、合計が一致しない場合がある。
年度 承諾額
(件数)全体の円借款承諾額に占める割合 9 2,123(26) 20.6% 10 3,220(32) 29.0% (ホ) アジア経済支援<
(1) 経済改革支援(10年4月)
平成10年4月の総合経済対策において、急激な為替レートの変動により経済危機に見舞われているアジア諸国の経済回復努力を支援するため、構造調整支援のための足の早い円借款につき、3年間に限って特別金利1%が適用されることとなった。10年度は、新宮澤構想に基づき、本制度が積極的に活用された結果、基金の円借款承諾の実績は合計8件、3,008億円であった。
また、アジア通貨危機の影響により、ドルベースの所得水準が大幅に低下している国について、最近の為替レートを用いて計算された所得水準に基づき円借款金利を適用することとされ、インドネシア、フィリピン及びマレイシアの適用金利がそれぞれ引き下げられた。(2) 新宮澤構想(10年10月)
本構想は、アジア諸国の実体経済回復等を目的として、円借款、輸銀融資等の資金支援を含む、合計300億ドル規模の支援スキームである。10年度において、本構想に基づき、基金は、社会的弱者対策、景気対策に重点を置き、2,545億円の円借款の貸付承諾を行った。
10年度の新宮澤構想案件(L/Aべ一ス)
(備考) 数値は四捨五入の関係上、合計が一致しない場合がある。
国名 案件名 承諾日 承諾額
(単位:億円)マレイシア 東方政策 10.3.4 140 マレイシア ベリスダム建設事業 10.3.4 97 マレイシア ポートディクソン火力発電所リハビリ事業 10.3.4 491 マレイシア サラワク大学建設事業 10.3.4 185 マレイシア 中小企業育成基金 10.3.4 163 フィリピン メトロマニラ大気改善セクター開発計画 10.3.10 363 インドネシア ソーシャル・セーフティー・ネット借款 10.3.12 452 インドネシア 保健・栄養セクター開発借款 10.3.12 353 タイ 経済復興・社会セクタープログラムローン 10.3.12 300 全9件 2,545 (3) アジア諸国等の経済構造改革のための特別円借款(!0年12月)
平成10年11月の緊急経済対策を受けて、我が国企業の事業参加機会の拡大を図りつつ、経済危機の影響を受けているアジア諸国等の経済構造改革を実現することを目的として、以下の内容の特別円借款制度が創設された。
○ 事業規模:平成11年度より3年間で6,000億円を上限。 ○ 供与条件:当面、金利1%、償還(据置)期間40(10)年。 ○ 融資比率:総事業費の85%までを融資対象。 ○ 調達条件:原則として、主契約は日本タイド、一次下請け契約は二国問タイド、二次下請け以降の契約は一般アンタイド。 ○ 原産地ルール:円借款融資金額の50%未満については、日本以外の国を原産とする資機材・サービスの調達を認める。 ○ 対象国:経済危機の影響を受けているアジア諸国等。 ○ 対象分野: 1) 物流の効率化(道路、港湾、空港、橋梁、鉄道)
2) 生産基盤強化(発電所、灌概、天然ガスパイプライン、上水道)
3) 大規模災害対策
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