フィリピン(国別援助方針)


  1. 基本方針

    (1)我が国の援助対象国としての位置付け

    (イ)フィリピンは近隣国として長年にわたり我が国と緊密な関係を保ち、両国関係は良好に推移しており、特に貿易・投資等の面で我が国と密接な関係を有すること、
    (ロ)フィリピンは、80年代後半以降、IMF等の指導の下、経済構造改革を積極的に推進し一定の成果を上げたが、アジア経済危機の影響により経済は減速した。生産性向上・国際的競争力の強化をはじめ、経済成長回復のための対策をとる必要があり、そのために支援を必要としていること、
    (ハ)依然として多くの貧困層を抱える国であり(98年の貧困人口率約3575)、援助需要が大きいこと、また、貧困撲滅は現政権の重点政策の一つであること

    等を踏まえ援助を実施する。
     また、我が国は、フィリピンの一層の経済・社会改革努力を支援するため、98年10月に発表された新宮澤構想の一環としてアジア開発銀行との協調融資により供与した円借款363億円、第23次円借款を含め、総額約1,865億円の支援策を99年3月に東京にて開催された対フィリピン支援国会合にて表明した。この他にも、同じく新宮澤構想に基づく、援助以外の公的資金協力として、輸銀を通じた総額16億ドル相当円の支援を表明している。
     なお、フィリピンは我が国の二国間援助実績(98年までの支出純額累計)で第3位の受け取り国である。

    (2)我が国の援助の重点分野

     我が国は、フィリピンにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び99年3月に派遣した経済協力総合調査団等によるフィリピン側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。

    (イ)持続的成長のための経済体質の強化及び成長制約要因の克服

    (a)適正なマクロ経済運営

     政府及び民間の資金調達の円滑化、技術協力を活用した中長期的な経済運営能力の強化

    (b)産業構造の強化

     サポーティング・インダストリーの育成、中小企業向け資本市場整備、産業構造強化のための人材育成

    (c)経済インフラ整備(エネルギー、運輸等)

     経済発展のボトルネックとなりうる経済基盤の未整備の克服(特に都市部と地方部のバランスや産業拠点の強化に配慮)

    (ロ)格差の是正(貧困緩和と地域格差の是正)

    (a)農業・農村開発

     農業生産性の向上、農村における基礎的社会・経済インフラ整備、農民組織の強化、農地改革の推進

    (b)基礎的生活条件の改善(保健医療、上下水道整備、都市貧困層への対策)

    (ハ)環境保全と防災

    (a)環境(行政能力の強化、一般廃棄物対策、産業公害対策、自然環境保全)

    (b)防災(災害常襲地帯を中心とした対策)

    (ニ)人材育成及び制度造り

    (a)初等・中等教育の普及と質の改善

     校舎・教室・教育機材等の供与ハード面の整備への支援、教員養成・研修、地方の教育行政官の能力向上等

    (b)技能・技術教育の充実

     各種技能・技術の向上および地域社会の産業ニーズに合った教育の提供

    (c)行政能力の向上と制度造り(特に地方政府に配慮)

     行政能力の向上と制度造り、特に地方政府に対する協力

    (3)留意点

    • エストラーダ政権発足以降、フィリピンは経済自由化政策を継続しつつ、社会的弱者対策として農業開発と貧困撲滅、格差の是正に政策の重点を置いている点に留意する。
    • 地域格差の是正のため、特に天然資源に恵まれ、ムスリム勢力との和平の進展の見られたミンダナオ島を中心とした南部フィリピン開発や地方分権化に伴う問題(行政経験や能力の不足等)に留意する。
    • 資金協力、技術協力の実施にあたり、フィリピンにおいて様々な分野で活発に活動するNGOとの連携を強化する。
    • アジア支援策を着実に実施することにより経済の安定を図り、また、フィリピンの経済構造改革支援を引き続き実施する。

  2. フィリピン経済の現状と課題

    (1)主要経済指標

    一人当たりGNP (97年)と同成長率
    (90-97年平均)
    実質GDP成長率
    1,200ドル、1.6%
    (世銀資料)
    93年2.1%、94年4.4%、95年4.8%、96年5.7%、97年5.2%、98年▲0.5%
    (比統計局資料)

    (2)現状

     フィリピン経済は、外資導入と輸出主導型政策により、これまで着実な経済成長(94~97年のGDP成長率は4~5%台)を達成してきたが、98年はアジア経済危機の影響を受けた通貨ペソの下落のほか、エル・ニーニョ現象による農業生産の不振により景気後退を余儀なくされた。
     従来からIMFの支援の下で構造改革と比較的慎重な経済運営が行われてきたこと、近隣諸国に比し多くの外貨が流入していなかったこと、対外債務に占める短期債務の割合が低かったことなどから、経済危機の影響は比較的小さいものであった。しかしながら、これまでフィリピン経済を牽引してきた好調な輸出と海外直接投資が伸び悩んでいるほか、インフレ率の上昇、エル・ニーニョ現象による農業生産の落ち込み等が徐々に顕在化してきており、98年のGDP成長率はマイナス0.5%と91年以来のマイナス成長を記録した。但し、99年は、積極財政、農業部門の回復、堅調な輸出、投資の回復により、フィリピン政府はGDP成長目標値2.6~3.1%を達成可能との見通しを示している。

    (3)課題

    • 反政府勢力MNLFとの和平合意等、ミンダナオにおける和平プロセスの進展を受けた開発
    • 財政収支の安定化、経常収支の改善、累積債務問題の解決、規制緩和等による経済構造改革の推進、貿易投資の促進、銀行システムの健全化
    • 経済発展の基盤となる経済インフラの整備
    • 電子・電気機器・自動車産業等ハイテク産業の基盤となるサポーティング・インダストリーの育成
    • 農地改革の実施促進と農業生産性の向上
    • 貧困対策、所得格差の是正、地域間格差の是正、雇用対策

  3. 開発計画

    中期開発計画(1993年~1998年)

    • 人造りと国際競争力の強化を2本の柱として持続可能な経済成長を目指す。具体的には積極的公共投資計画、外国投資の誘致、輸出促進政策、貧困撲滅等。

    中期公共投資計画(1993年~1998年)

    • 重点投資分野はインフラ整備、農工業部門開発、人造り、行政能力向上、災害予防復旧

    中期輸出振興計画(1993年~1998年)

    • 基本戦略は、(1)輸出指向型直接投資の誘致、(2)14項目の優先輸出産品の指定と輸出主導型中小企業育成

    社会改革アジェンダ(1994年~)

    • 中期開発計画に掲げられた貧困率を30%まで引き下げるとの目標達成のため、優先対象となる20州を特定し、プログラムを実施。

  4. 援助実績

    (1)我が国の実績(支出純額、単位:百万ドル)

    有償無償技協合計供与先順位
    98年(暦年)13978843017位
    98年(暦年)までの累計5,5161,7101,2048,4303位

    (2)DAC諸国からの実績(支出純額、97年(暦年)、単位:百万ドル)

    二国間総額1位2位3位
    567日本 319ドイツ 57オーストラリア 43

    (3)国際機関のODA実績(支出純額、97年(暦年)、単位:百万ドル)

    国際機関総額1位2位3位
    122ADB 49CEC 35UNICEF 9
CEC:Commission of the European Communities(欧州委員会)

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