パキスタン(国別援助方針)


  1. 基本方針

    (1)我が国の援助対象国としての位置付け

    (イ)パキスタンは南西アジア地域及びイスラム諸国の中で、政治・経済面で重要な役割を担っており、また我が国と伝統的に友好関係にあること、
    (ロ)高い人口増加率、低い識字率、失業の増大、エネルギーの不足、恒常的な財政赤字・貿易赤字等困難な経済社会問題に直面しながら積極的に国内開発に取り組んでおり、援助需要が高いこと、
    (ハ)近年、パキスタンは資源外交上中央アジア諸国へのゲートウェイという地政学上重要な位置を占めるようになっていること、
    (ニ)近年、経済の自由化、国営企業の民営化を含む各種規制緩和を進めており、97年2月に成立したシャリフ政権もかかる動きを推進していく旨表明していること、

    等を踏まえ、援助を実施することとしている。
     しかしながら、98年5月、パキスタンは同月のインドの地下核実験実施を受け、初の地下核実験を行った。我が国はこれを重大に受け止め、パキスタンに対し核実験及び核兵器開発の中止を強く申し入れるとともに、ODA大綱の原則に鑑み、新規の無償資金協力(緊急・人道的性格の援助及び草の根無償を除く)や新規の円借款を停止する等の措置を講じた。
     なお、パキスタンは我が国の二国間援助実績(97年までの支出純額累計)で第7位の受け取り国である。

    (2)我が国の援助の重点分野

     我が国は、パキスタンにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び96年2~3月に派遣した経済協力総合調査団等におけるパキスタン側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としているが、具体的な実施にあたり、現時点では、上述のパキスタンの核実験実施を受けての我が国の措置の制約下にある。

    (イ)社会セクター

     社会セクターへの取組み強化を旨とする社会行動計画(SAP)への支援を重視していく。教育面では特に基礎教育及び初等レベルの女子教育水準向上への協力を推進する。また、人口及びエイズ対策を含む健康保健等の分野を中心する人材育成支援を行うとともに、上下水道未整備等の現状に鑑み、居住環境改善への協力を進める。

    (ロ)経済基盤整備

     パキスタンにおける経済開発の制約要因たる経済インフラ整備への協力を推進する。
    電力需要の増加に供給が追いつかない状況を踏まえ、農村電化、電力設備の効率化に対する支援を行うとともに、輸送網の整備を進めるため、国道及び地方道等の新設・改修、鉄道施設及び車両のリハビリ支援を行っていく。

    (ハ)農業

     農業は、GDPの約1/4、全就業人口の約半分を占める基幹産業であるが、農業生産性は極めて低く、生産の増大、食料の安定供給の確保は急務である。また、耕地面積の約80%を占める世界最大級の灌漑施設を有しているが、施設の老朽化が著しいところ、灌漑施設等の農業生産基盤が脆弱な地域への整備・拡充、既存灌漑施設の整備及び維持管理・補修、農業研究支援等の協力を行っていく。

    (ニ)環境保全

     パキスタン政府は、自然環境保護及び公害対策の必要性を近年強く認識しつつあり、環境保護局の設立他の取り組みが行われているところ、森林破壊の進行による土壌浸食、洪水、砂漠化、都市環境悪化等の環境問題、産業公害防止に関する協力を推進していく。

    (3)留意点

    • 実施体制の強化等援助吸収能力の一層の向上が必要である。
    • パキスタン側による我が国の技術協力の一層の活用の余地がある。

    (4)ODA大綱の運用状況

     パキスタンについては、核開発の可能性に関する内外の懸念を踏まえ、我が国は核不拡散に関する二国間協議(93年2月第1回、93年11月第2回、95年1月第3回)及び経済協力総合調査団派遣時等の累次の機会を捉え話し合いを行っている。これら協議においては、ODA大綱の原則を踏まえ、我が国としての関心を申し入れ、核不拡散条約(NPT)及び包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を引き続き働きかけると共に、核関連プログラムの透明性を高めていくよう求めてきている。
     また、98年4月、パキスタン政府は新型の中距離弾道ミサイル「ガウリ」の発射実験に成功した旨発表した。我が国としては、南アジアにおけるミサイル開発・配備の状況は、同地域の安定及び世界の安全保障に重大な影響を及ぼしかねないものと懸念しており、パキスタンに対し自制的な対応をとることを希望する旨申し入れている。
     更に、98年5月、隣国インドが2度にわたり地下核実験を実施したが、我が国はパキスタンに対し、インドに対抗して核実験を行うことのないよう登総理特使を派遣する等最大限の自制を求めてきた。
     にもかかわらず、98年5月28日及び30日、パキスタンは地下核実験を実施した。我が国はパキスタンに対し核実験及び核兵器開発の即時中止、NPT及びCTBTへの無条件の締結を求めるとともに、援助に関しては新規無償資金協力の停止(緊急・人道的性格の援助及び草の根無償を除く)、新規円借款の停止、国際開発金融機関による対パキスタン融資につき慎重に対応することを内容とする措置をとった。

  2. パキスタン経済の現状と課題

    (1)主要経済指標

    一人当たりGNP (96年)と同成長率
    (90-96年平均)
    実質GDP成長率
    480ドル、1.1%
    (世銀資料)
    91年5.5%、92年7.8%、93年1.9%、94年3.9%、95年4.4%、96年5.9%
    (IMF資料)

    (2)現状

     経済自由化、規制緩和を通じた構造調整が進められてきたが、経済は依然として低迷しており、大幅な財政赤字、貿易赤字、低い外貨準備レベル等の問題を抱えている。シャリフ首相は、減税を柱としたサプライサイド重視の「首相経済再生プログラム」、農業に焦点を当てた振興策等を相次いで発表し、聖域の国防費も新年度予算で実質的削減を断行した。一方、総需要抑制の観点から、財政赤字を削減するために支出削減を行っている。しかし、98年5月の核実験実施に伴う国際社会の反応等が経済に重大な影響を及ぼすことが懸念される等、今後の見通しが難しい状況となっている。

    (3)課題

    • 税制改革、非開発支出の削減等の財政改革
    • インフレの抑制
    • 各種規制緩和、民営化等の経済自由化の継続
    • 工業の国際競争力強化
    • 貿易収支赤字の削減
    • 貧困対策と高い人口増加率の抑制
    • 教育や保健・医療等の社会サービスの向上
    • 電力、運輸等の経済インフラの整備
    • 食糧の安定自給に向けた農業の生産性向上

  3. 開発計画

    第8次5か年計画(1993年7月~1998年6月)

    (目標)

    • 国民の社会的・経済的福祉の向上

    (課題)

    • 貧困、経済的自立、雇用の創出、環境問題

    (主要目標値)

    • GDP成長率年平均7%、財政赤字対GDP比4.3%、貯蓄率対GDP比20.5%

    (具体的施策)

    • 投資:民間投資の重視、公共投資における重点は人材育成とインフラ整備
    • 財政:直接税の比重の拡大、補助金削減等
    • 国際収支:繊維製品、軽工業、スポーツ用品等の輸出の増加
    • 主要セクター:農業、製造業、エネルギー、輸送・通信、社会セクター

    「パキスタン2010年計画」(98年2月に発表された包括的な長期計画)

    • 一人当たり国民所得を倍増して1000ドルに
    • 産業を輸出指向産業に転換

  4. 援助実績

    (1)我が国の実績(支出純額、単位:百万ドル)

    有償無償技協合計供与先順位
    97年(暦年)3443169211位
    97年(暦年)までの累計2,1179812113,3097位

    (2)DAC諸国からの実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)

    二国間総額1位2位3位
    339日本 282英国 61スペイン 22

    (3)国際機関のODA実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)

    国際機関総額1位2位3位
    603ADB 352IDA 241CEC 28
CEC:Commission of the European Communities (EC委員会)

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