開発協力トピックス
アフガニスタンに関する東京会合
2012年7月8日、日本政府はアフガニスタン政府と共に、「アフガニスタンに関する東京会合」を開催しました。この会合には、カルザイ・アフガニスタン大統領、潘基文(バンギムン)国連事務総長、米国のクリントン国務長官をはじめ、世界中から55の国と25の国際機関・市民社会等の代表が参加し、2015年から2024年の「変革の10年」※においても、アフガニスタンの自立と開発に向けた努力を国際社会が支えていくという意思が表明されました。この会合の狙いは、こうした国際社会の協力の強い意思を示すことで、「2015年以降も国際社会はアフガニスタンを見捨てない」というメッセージを出すことにありました。
※2011年12月にドイツのボンで開催されたボン会合において、アフガニスタンの治安維持についての責任が国際治安支援部隊(ISAF)(注1)からアフガニスタン政府側に完全に移譲される2014年末より後の10年間を「変革の10年」と名付け、国際社会とアフガニスタンの新たな協力関係を深めることに合意しています。
1.東京会合の狙い
「アフガニスタンを見捨てない」とはどういうことでしょうか。若干歴史をさかのぼると、それが明確になります。冷戦の最中である1979年には、ソ連がアフガニスタンに侵攻し、アフガニスタンにおいて共産主義政権が成立しました。しかし、冷戦終結後には国際社会のアフガニスタンへの関心は薄れていきます。特に1991年のソ連崩壊を受けて、1992年にはムジャヒディン(ソ連侵攻に対するイスラム義勇兵)政権が共産主義政権を打倒しました。それ以降、アフガニスタンでは各派間の勢力争いにより、内戦状態に陥った結果、1996年にタリバーンが政権を取り、極端なイスラム原理主義に基づいた政治を行うとともに、アフガニスタン内で国際テロ組織アル・カーイダの根拠地となって、それが、2001年9月11日の同時多発テロの悲劇を招くことにつながりました。国際社会には、こうした冷戦終結とソ連崩壊に伴う国際社会の関心低下が、タリバーンをはじめとするテロ組織の伸張を招いたのではないかとの反省があります。
現在アフガニスタンでは、これまでISAFが担ってきたアフガニスタンの治安維持の役割を、アフガニスタン政府に移譲するとのプロセスが進行中であり、2014年末を目標にISAFは撤収し、アフガニスタン政府が治安維持の任務を完全に担うことになります。今回の会合は、冷戦後の経験を踏まえて、治安権限移譲後の2015年以降も、国際社会が支援し続けるとの意思をアフガニスタン国民および反政府武装勢力にアピールすることで、タリバーンやテロ組織が再び活発になることを防ぐ狙いがありました。
世界中から55か国と25の国際機関・市民社会等の代表者が参加した
2.東京会合の成果
東京会合では、こうした意思を具体的に示すために、国際社会とアフガニスタン政府のそれぞれの責任を明確にするとともに、それを定期的に確認・検証する枠組(東京フレームワーク)を創設しました。アフガニスタン政府は、まず、現在から「変革の10年」を通じた成長・開発戦略を効果的に、そして透明性を持って実施すること、そしてガバナンスの改善を確実に実施することを約束しました。国際社会側は、アフガニスタン政府の成長・開発戦略を踏まえて、アフガニスタン政府が今後必要とする資金を満たす160億ドルを超える規模の支援を供与することを約束しました。また、こうしたそれぞれの約束・責任を、2年ごとに開催する閣僚級会合などを通じて、確認していくことに合意しました。
3.日本の貢献
日本は、国際社会の責任ある一員として、2012年からおおむね5年間で、開発分野および治安維持能力の向上に対し、最大約30億ドル規模の支援を行う旨を率先して表明しました。このうち開発分野においては、アフガニスタンの成長・開発戦略を踏まえ、農業・農村開発、インフラ整備、人づくりの3つの柱を重視して支援を行っていくものです。また、内陸国であるアフガニスタンの成長を促進するには、周辺国との交易を促進すること等が重要であるとの考え方に基づいて、パキスタンや中央アジア等の周辺国に対し、総額約10億ドル規模の事業を行うこと、そしてそれら事業を通じて、中央アジアからパキスタンのカラチまで至る、アフガニスタンを縦断する回廊の整備を支援することを表明しました。東京会合は、2015年以降のアフガニスタンの持続的な成長に向けた枠組みを創設したものであり、日本の資金協力とあわせて、日本の努力と貢献は多くの国や参加者から非常に高い評価を得ました。(「日本のアフガニスタン支援の主な実績」の図版を参照)
4.支援の成果と今後
2001年のタリバーン政権崩壊後、2002年に日本でアフガニスタン復興東京会議が開催されてから、10年の節目に東京会合が開催されました。この10年の間に、国際社会が行った支援は大きな成果を上げています。基礎教育を受けられる子どもの数は、2001年には100万人でしたが2011年には800万人に増え、基礎的な医療を受けられる国民の割合は、2001年の10%未満から2011年には57%に増加しました。これらは、人間の安全保障の確保にもつながります。
こうした成果を踏まえて、アフガニスタンが再びテロの温床とならないよう、アフガニスタン政府への治安権限移譲を着実に進展させ、自立に向けて2015年以降のアフガニスタン自身の努力を支えていくことが、国際社会に求められています。
カルザイ・アフガニスタン大統領をはじめ各国の要人が多数出席した
校舎が無いため青空教室で勉強するアフガニスタン・カブール県デサブ郡の小学生(写真:サイッド・ジャン・サバウーン/JICA)
注1 : 国際治安支援部隊 ISAF:International Security Assistance Force