巻頭言

私は、外務大臣就任以来、着実な成果を目指す結果重視の「実のある外交」を全力で進めてきました。途上国が抱える貧困削減、持続的成長、環境問題などの様々な問題の解決のために、政府開発援助(ODA)は具体的な成果を上げる上で極めて重要な手段です。

震災後、私は、世界各国の子どもたちから日本を励ますために届けられた沢山の絵を見る機会がありましたが、世界中から寄せられた善意と激励の背景には、日本への大きな信頼と連帯感があるのだと深く感じました。それは、これまで我が国が世界の平和と発展のために地道な努力を積み重ねてきたことで培われたものだと思います。東日本大震災を通じて、世界と日本の強い相互依存を改めて実感しました。グローバル化が進み、相互依存が高まる現代においては、世界全体の利益を実現していかなければ国益の実現もありません。長年にわたり国際協力の現場に身を置いてこられた緒方貞子氏は、その経験から「日本だけが利益を得る『繁栄の孤島』という考え方は通用しない」と述べています。

そして、世界全体の利益、即ち国際益と国益を共に実現する手段としてODAが存在します。このODAの実施にあたっては、人間一人ひとりの能力を開花させることによってこそ、その国と社会を発展させることができるという「人間の安全保障」の基本的考え方を踏まえることが重要です。そして、ミレニアム開発目標の達成をはじめ、防災や平和構築、世界全体のグリーン成長促進などの地球規模の諸課題に率先して取り組み、近年急速に存在感を増している新興国との協力を強化しつつ、日本の総力を結集した国際協力を進めていくべきだと考えます。私は、こうした考えの下、政府、地方自治体、NGO、中小企業を含む民間企業、個人など様々な主体が協力して相乗効果を産み出していく「フルキャスト・ディプロマシー」の推進を提唱しています。

平成24年度外務省ODA当初予算では、無償資金協力予算の増額などにより、今まで14年間で半減していたODA予算を反転させる端緒を開きました。日本人は昔から、「情けは人のためならず」、また、「人を思うは身を思う」という考え方を大切にしています。ODAは「情け」ではなく、国際的な責務でもありますが、国際益の実現に貢献することで、我が国自身の国益も増進されるよう、引き続きODAを戦略的かつ効果的に活用していく考えです。

2012年3月

外務大臣 玄葉光一郎


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