コラム 1
エクアドル生まれの“あんぱん”完成!
~ 社会的弱者のための職業訓練強化 ~
パン作りを教える満島さん(写真提供:JICA)
アンデス山脈が南北に縦断し、国土の約3分の1が山岳地帯にある南米のエクアドル共和国。豊かな自然に恵まれる一方、約4割の国民は1日の所得が2ドル以下で暮らすなど、貧富の格差が社会問題となっています。この状況を変えようと、エクアドル政府は貧困削減を目的とした「職業能力開発機構(SECAP)」の職業訓練コースに貧困に苦しむ難民、先住民、障がい者などの社会的弱者の受け入れをスタート。しかし、機材や経験・知識の不足から成果が上がらず、2008年にJICAの「社会的弱者のための職業訓練強化」プロジェクトによる支援が開始されました。
プロジェクトのチーフアドバイザーを務める専門家の菊池四郎さんは「成果を根付かせるためには、地域、社会背景、人々の習慣に合った手法を選ばなければいけない。」と語ります。そこでニーズ調査を行い、調理、縫製、電気、建築、機械金属、自動車整備の6分野が設けられました。
その中の一つ、調理分野で活躍しているのが満島裕直(みつしまひろなお)さんです。満島さんはかつて会社勤めをしながら製パンの「師範」資格を取得。その後、転職し、製パン業務に従事した後、JICAシニア海外ボランティアとして途上国への支援活動を始めます。そして2010年からエクアドルの北に位置するインバブーラ州で製パンの指導に携わりました。
「現地の材料を使うレシピを作らねばならず、試行錯誤の毎日でした。また発酵器がないため、保温シートで覆った簡易的な発酵器も作りました。中に電熱器と鍋を入れて温度と湿度を一定に保つようにし、ようやく日本のようなふっくらとしたパンが焼けるようになったんです。」
また、満島さんは衛生管理にも力を注ぎました。地方の集落では上水道やトイレが整備されていない場合が少なくありません。それだけに衛生管理は重要です。満島さんは日本の衛生・品質管理の方法を指導するために、戸棚に収納機材の写真を貼って清掃計画を作るなど工夫を凝らし、整理・整頓、清掃の仕方を徹底しました。「苦労は多くても、異なる食文化や製パン技術の違いを発見する事ができ、いつも刺激を受けている。」と満島さん。中でも印象的だったのが貧しいアフリカ系住民が暮らすチャルガヤッコ村での黒豆を使った“あんぱん”作りでした。
「黒豆はこの村の唯一の農産物。高地に位置するチャルガヤッコ村は気圧が低く、黒豆が日本の小豆のように柔らかくは煮えてくれません。失敗を繰り返しながら、ようやく圧力鍋を使うなどして日本の味に近い餡子(あんこ)ができあがりました。実はエクアドル人は甘く煮た豆を食べる習慣がないんです。試食のとき、みんなの反応が心配でした。『おいしい、おいしい』と喜んでくれたときは本当にうれしかったです。」
満島さんに指導を受けたチャルガヤッコ村の住民は新たにパン屋を開業するための準備を始めています。目玉商品のアイディアもあります。この村出身のサッカー選手の写真入りあんぱんを売ろうというものです。
「誰でもおいしいものを食べると笑顔になります。みんながおいしいと喜び、幸せになってほしい。」と願う満島さんです。
チャルガヤッコの生徒と試食(写真提供:満島裕直)