Keyword 4 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
生物多様性は地球の長い歴史の中で育まれてきたかけがえのないものです。また、人類は生物多様性の恵みを食料、医療、科学など様々な分野において幅広く利用しています。近年、生物多様性が失われれば、地球全体の環境や人々の生活に多大な影響を与えかねないとの認識が高ま り、その重要性が注目されています。
こうした状況の下、2010 年10 月には愛知県名古屋市で第10回目の締約国会議(COP10)が開催され、松本龍環境大臣が議長を務めました。「2011年以降の世界目標」や、「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS *1)」などのCOP10 での主要な議題について、途上国と先進国の間での意見の相違か ら、厳しい交渉が夜を徹して行われましたが、最終的には歴史的ともいえる成果を収めることができました。
2002 年のCOP6 において「2010 年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という生物多様性に関する世界目標である「2010 年目標」が合意されました。しかし、各国、各利害関係者の十分な行動を促すことができず、2010 年目標は達成することができなかったと報告されました。 このため、COP10 においては、2011年以降の世界目標として明確さと現実性などを重視した「愛知目標(戦略計画2011-2020)」が採択されました。この愛知目標の採択により、生物多様性の損失を止めるための積極的な行動が促されることが期待されます。
日本は、この愛知目標の達成を目指す開発途上国の努力を支援するため、COP10 において菅直人総理大臣から、生物多様性分野の開発途上国支援のイニシアティブとして、「いのちの共生イニシアティブ」を発表しました。日本は、人間の安全保障の実現、環境と開発の両立、貧困削減への貢献というこのイニシアティブの理念に基づき、今後も引き続き、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組を支援していきます。
また、COP10 では、ABS に関する国際的な取り決めとなる「名古屋議定書」も採択されました。これまで10年の長きにわたり困難な交渉が続けられてきたABS について、COP10 を機に議定書の採択に至ったことは特筆すべき大きな出来事といえます。この「名古屋議定書」の採択により、遺伝資源のアクセスと利益配分に関する明確なルールが策定され、また、遺伝資源提供国と利用国との間の技術協力が進み、遺伝資源の利用と生物多様性の保全が促進されることが期待されます。
さらにCOP10 に先立って、バイオセーフティ*2 に関するカルタヘナ議定書*3 第5回締約国会議(COP-MOP5)が開催されました。遺伝子組換え生物の輸出入など国境を越える移動により、生物多様性の保全やその持続可能な利用に損害が生じた場合、誰が責任を負い対応措置をとるのかという責任と救済が議題となりました。そして、締約国が開発企業や輸出入業者など責任事業者を特定し、損害の防止策や原状回復などの対応策を求めることなどを定めた「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が採択されました。
このように、COP10 およびCOPMOP5は大きな成果を挙げ、成功裏に終了しました。今後、これらの成果を着実に実施することにより、生物多様性の保全とその持続可能な利用を続けていくことが極めて重要です。
インドネシアは、森林の減少および泥炭地荒廃などを含めると、中国、米国、ブラジルに次ぐ世界第4位の温室効果ガス排出国といわれています(注38)。また、同国では、 温暖化の進展に伴い、気候変動リスクが高まることが懸念されています。このような状況を受け、日本は、インドネシア政府による気候変動対策努力を支援するため、約374億円(緊急財政支援円借款約94億円を含む)の円借款を供与しました。これにより、<1>温室効果ガス吸収・排出削減による温暖化緩和に貢献するほか、<2>気候変動の悪影響に対する適応能力強化、<3>気候変動に係る分野横断的課題への対応の推進が期待されています。
注38(出展)World Resource Institute CIimate Analysis Indicators Tool(WRI CAIT)"Sum of"Total in 2007"and" LUCF in 2005"(2007)
COP10ハイレベルセグメントにおいて、伴野豊外務副大臣より、COP10議長国である日本政府として、 各国による支援活動を「眠れる森のび(美・微)生物」プロジェクトとして行うことを表明しました。このプロジェクトでは、開発途上国における微生物の保存・培養を支援するため、技術移転、人材育成などの事業を予定しており、最初の取組は、 JICAおよび独立行政法人科学技術振興機構(JST *4)の共同事業である地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS *5)の1つとして、2011年3月ごろからインドネシアにおいて実施するものです。この取組を通じて、開発途上国が国内で生物多様性と生態系の保全を図りつつ、自ら遺伝資源の研究・開発を進め、新たに未知の微生物の価値を発見していくことが期待されています。
「眠れる森のび(美・微)生物」プロジェクト(生命科学研究およびバイオテクノロジー促進のための国際標準の微生物資源センターの構築プロジェクト)インドネシア研究機関で現在保存管理している微生物の一例
*1 ABS : Access and Benefi t Sharing
*2 現代のバイオテクノロジーにより改変された生物が、生物多様性の保全やその持続可能な利用に悪影響を及ぼすのを防止すること。
*3 カルタヘナ議定書 : 2003年に発効した、生物多様性に悪影響を及ぼす恐れのある遺伝子組換え生物の国境を越える移動に一定の規制を加えることを定めた議定書。
*4 JST : Japan Science and Technology Agency
*5 SATREPS : Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development。環境・エネルギー、防災、感染症対策などの地球規模課題について、日本と開発途上国の大学や研究機関が、外務省・JICAおよび文部科学省・JSTの連携による支援の下で国際共同研究を実施するもの。