私は、2011年3月9日、外務大臣に就任しました。就任直後の3月11日、東北地方太平洋沖地震と津波が発生し、東北地方を中心に甚大な被害をもたらしました。この大災害に、これまで134の国・地域および39の国際機関から日本に対し支援の申し出がありました(3月31日現在)。その中には、日本が政府開発援助(ODA)などを通じて様々な国際協力を行ってきた開発途上国も多く含まれています。これほど多くの温かい支援の申し出をいただいたことに心より感謝申し上げます。また、相手国に資するODAを真剣に考えてきた日本の姿勢を評価するお言葉も寄せられていることは、たいへん有り難いことだと思っています。
日本がこの困難な時期を乗り越え、復興を果たすためにも、引き続き国際社会からの信頼を得ることが重要です。日本の平和と豊かさは、世界の平和と繁栄の中でこそ実現可能だからです。日本は今回の震災で大きな被害を受けましたが、こうした大変厳しい国難の状況にあっても、ODAをはじめとする国際協力の重要性に変わりはありません。
ODAをより戦略的かつ効果的に実施するために2010年6月に発表した「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」では、貧困削減、すなわちミレニアム開発目標(MDGs)達成への貢献、平和への投資、持続的な経済成長の後押しを重点分野としています。菅総理大臣は、2010年9月のMDGs国連首脳会合においてMDGs達成に向けた日本の具体的な貢献策である「菅コミットメント」を発表し、保健および教育に関する新しい政策を表明しました。日本は、「菅コミットメント」を着実に実施するため、人間の安全保障の視点を踏まえて、母親と子どもの健康を守る母子保健や、初等教育の完全普及の達成といった課題に積極的に取り組んでいきます。
また、環境・気候変動問題といった地球規模課題への取り組みも引き続き重視していきます。その解決に向けては、開発途上国の理解と協力が欠かせません。2010年10月、日本は生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の議長国として会議を成功に導き、生物多様性の保全と持続可能な利用に取り組む開発途上国を支援するため「いのちの共生イニシアティブ」を表明しました。
さらに、ODAの実施に当たっては日本の質の高いインフラの海外展開や、資源の安定供給確保といった経済外交の推進にもODAを積極的に活用していきます。これは、日本の国益に資するだけではなく、途上国の発展にもつながるものであり、日本と途上国双方が裨益する形で協力を行っていきます。
ODAを実施していくに当たっては、NGOや経済界の方々とより緊密に連携していくとともに、国民の皆様のご理解とご支持がますます重要になっています。ODA白書は、前年度1年間のODA実績を中心に、ODAの実施状況を国民の皆様にご報告するとともに、その年ごとの重要課題を分かりやすく紹介しています。また、MDGs達成への取組とともに、第II部「新たなODAのあり方」の中で経済外交へのODAの活用についても説明しています。この白書を手に取られた方が、国際協力をより身近なものに感じていただけることを願っています。
2011年3月