第1章 MDGsの達成状況
2000年代に入ってからのこの10年間、国際社会においてMDGs(ミレニアム開発目標)は開発分野の羅針盤としての役割を果たしてきました。MDGs達成に向けた国際社会の取組はある程度の成果を上げてきましたが、2015年までにすべての国・地域ですべての目標を達成するために、国際社会の一層の努力が求められています。
国連は2005年以降、年に一度、MDGs達成に向けた進ちょく状況を報告書にまとめています。2010年6月に発行された報告書によると、MDGs達成に向けた進ちょく状況は一様でなく、分野や地域によってばらつきが見られることが分かります。
いくつかの分野では、2015年までに目標が達成される見通しが立っています。たとえば、極度の貧困の半減については、開発途上地域全体で見れば目標が達成される見通しです。背景には、開発途上地域の経済成長がおおむね堅調であること、特に1990年時点で世界の貧困人口の約6割を抱えていた中国とインドが目覚ましい発展を遂げていることがあります。安全な飲料水のない人口の半減についても、主に農村で改良された飲料水源の普及が進んだ結果、目標が達成される見通しです。
このような進ちょくは見られるものの、2015年までの目標達成は難しいと見られる分野もあります。進ちょくが最も遅れているとされるのが、MDGsの8つの目標のうち3つを占める保健分野です。MDGsの目標4「乳幼児死亡率の削減」のターゲットである5歳未満児の死亡率は、1990年の出生1,000人当たり100人から、2008年には出生1,000人当たり72人へ28%低下しました。一方で、2015年までに1990年の水準の3分の1に削減するという目標の達成は厳しい状況です。目標5「妊産婦の健康の改善」のターゲットの1つである妊産婦死亡率については、最新のデータによれば、1990年の出生10万人当たり400人から、2008年には出生10万人当たり260人へ34%低下したと推計されています(注1)。ある程度は進ちょくがあったといえますが、それでも2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に削減するという目標の達成には一層の努力が必要です。目標6「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病のまん延の防止」については、国際社会の努力により比較的成果が出ているものの、支援の継続や拡大が必要な状況です。保健と大きく関連する衛生分野についても、改良された衛生施設を利用できる人口の割合はあまり伸びていません。
また、教育分野については、最貧国における就学率は改善されているものの、いまだに7,200万人の子どもが就学していません。本来は2005年までの達成を目指していた初等教育および中等教育における男女格差の解消についても、格差は縮小傾向にあるものの、2010年現在目標を達成できていません。
地域ごとに見ると、東アジアなどが比較的順調にMDGs達成に向け前進しているのに対し、サブ・サハラ・アフリカおよび南アジアは地域全体として厳しい状況にあります。また、同じ地域内や1つの国の中でも格差が存在しています。
MDGsの達成に向けた進ちょくには、開発途上国自身の政策や国際社会の支援だけでなく、世界経済の動きも大きく関係しています。2007年から2008年にかけて見られた食料・エネルギー価格の高騰や2008年からの世界金融・経済危機などは、開発途上国の食料供給や雇用に大きな影響を及ぼしました。気候変動に伴う様々な変化や、自然災害などの緊急事態もMDGs達成に向けた進ちょくを鈍化させる要因です。
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注1 出典 : 世界保健機関(WHO)、国連児童基金(UNICEF)、国連人口基金(UNFPA)および世界銀行“Trends in Maternal Mortality:1990 to 2008”(2010年9月)