第3節 地域別の取組
世界では国や地域によって抱える課題や問題が異なります。日本は、これらの問題の背景にある構造を理解した上で、ODAなどを通して開発途上国が抱える問題の解決に取り組んでいます。
1. 東アジア地域
東アジア地域には、韓国やシンガポールのように高い経済成長を遂げ既に開発途上国から援助国へ移行した国、カンボジアやラオスに代表される後発開発途上国(LDCs(注51))、中国のように著しい経済成長を成し遂げつつも国内格差を抱えている国、そしてベトナムのように中央計画経済体制から市場経済体制への移行の途上にある国など様々な国が存在します。日本は、これらの国々と政治・経済・文化のあらゆる面において緊密な関係にあり、同地域の安定と発展は、日本の安全と繁栄に必要不可欠です。こうした考えの下、日本は、東アジア諸国の多様な経済社会状況や、援助需要の変化などを踏まえつつ、援助活動を行っています。
ソマート・ラオス公共事業・運輸大臣と会合後、
日本のODA事業がデザインされたラオスのお札および
切手の贈呈を受ける徳永久志外務大臣政務官(左から3人目)
< 日本の取組 >
日本は、インフラ整備、制度および人づくり支援、貿易の振興や民間投資の活性化など、ODAと貿易・投資を連携させた経済協力を進めることで、同地域の目覚ましい経済成長に貢献してきました。現在は、基本的な価値の共有に基づいた開かれた域内協力・統合をより深めていくこと、相互理解を推進し地域の安定を確保していくことを目標としています。そのために、自然災害、環境・気候変動、感染症、テロ・海賊などの国境を越える問題に積極的に対応するとともに、大規模な青少年交流、文化交流、日本語・日本普及事業などを通じた相互理解促進に努めています。
東アジア地域は、2008年に始まった世界金融・経済危機の影響はおおむね克服しましたが、日本とアジア地域諸国がさらなる経済的繁栄を遂げていくためには、アジアを「開かれた成長センター」とすることが重要です。そのため、日本は、同地域に対して成長力強化および内需拡大のための支援を行っており、具体策として2009年4月には、最大2兆円規模のODA支援を表明しました。現在、同支援の下、アジア諸国に対し、インフラ整備支援、脆弱層への支援、低炭素社会の構築のための支援、人材育成などを着実に実施しています。
● 東南アジアへの支援
ASEAN諸国は2015 年までの域内統合を最大の目標としていますが、日本はこの目標に沿って域内の連結性強化や格差是正への支援を実施しています。特に、ASEANの後発加盟国が多いメコン諸国を支援することは、域内格差是正の観点から重要です。2009年11月には、初めての日本・メコン地域諸国首脳会議が開催され、<1>総合的なメコン地域の発展、<2>環境・気候変動(「緑あふれるメコン(グリーン・メコン)に向けた10年」イニシアティブの開始)および脆弱性克服への対応、<3>協力・交流の拡大の3本柱での取組を強化し「共通の繁栄する未来のためのパートナーシップ」を確立するとの認識が共有されました。この取組を進めるため、メコン地域およびカンボジア、ラオス、ベトナムに対するODAを拡充し、また、地域全体で3年間で合計5,000億円以上のODA支援を行うことを表明しました。また、2010年7月に行われた第3回日メコン外相会議においては、「グリーン・メコンに向けた10年」イニシアティブのコンセプトが発表されました。さらに、2010年10月に開催された第2回日本・メコン地域国首脳会議では、「グリーンメコンに向けた10 年イニシアティブ」行動計画および「日本・メコン経済産業協力イニシアティブ行動計画」が採択されました。
また、日本とインドネシア、ブルネイ、フィリピン、およびASEAN全体との経済連携協定(EPA)が2008年に発効しました。ベトナムとの協定も2009年10月に発効し、日本は、貿易・投資の拡大を図るとともに、物流制度の改善、知的財産制度や競争政策などの各種経済制度の調和などを含む幅広い経済関係の強化に向けた取組を行っています。このような取組を進めるとともに、貧困の削減を図り、ASEAN域内の格差を是正することにより、域内統合を支援しています。また、ASEANは、2010年10月のASEAN首脳会議において、ASEAN域内におけるインフラ、制度、人の交流などの各分野での連結性強化を目指した「ASEAN連結性マスタープラン」を採択しましたが、日本は同マスタープランの具体化に向けてODAの活用や官民連携を通じて積極的に支援を行っています。さらに、フィリピンのミンダナオの元紛争地域への集中的な支援や東ティモールの国づくり支援など、平和構築のための取組も行っています。
日本は、アジア地域において様々な地域協力に取り組んでいるアジア開発銀行(ADB)との連携を強化しています。たとえば、アジアの開発途上国における取組を支援するため、投資や省エネなどの促進を目的に「アジアの持続的成長のための日本の貢献策(ESDA(注52))」として、ADBと新JICAとの連携強化を進める「ADBとの円借款協調融資促進枠組(ACFA(注53))」、「投資環境整備基金(ICFF(注54))」および「アジアクリーンエネルギー基金(ACEF(注55))」を創設しました。また、東アジア地域の国際的な研究機関である東アジア・ASEAN 経済研究センター(ERIA)とも、「アジア総合開発計画」や「ASEANコネクティビティ・マスタープラン」具体化への検討など、様々なレベルで連携を強化しています。
また、特に金融面では、急激な資本流出により外貨支払いに支障を来すような危機的な状況が生じた国に対し、短期の外貨資金を供給することで危機の連鎖と拡大を防ぐことを目的とする、チェンマイ・イニシアティブ(CMI(注56))の取組をASEAN+3の枠組みにおいて主導してきています。さらに、2010年3月には、支援の迅速化・円滑化を図るため、二国当局間の契約に基づいた従来のCMIの仕組みを、一本の契約に基づく仕組みとする「マルチ化」の契約が発効しました。これによりASEAN+3 域内国の国際収支や短期資金の流動性の困難への迅速な対応が可能となり、世界経済の増大するリスクおよび課題に対処する能力が強化されました。
また、日本は、CMIと並行して東アジア地域の債券市場を育成する取組を主導してきました。特に、2010年5月には、アジアの企業が現地通貨建てで発行する債券を保証するため、「信用保証・投資ファシリティ」を当初7億ドルの資本規模でアジア開発銀行(ADB)の信託基金として設立することが合意されました。日本も国際協力銀行(JBIC)を通じて2億ドルを出資しています。
● 中国との関係
日本の対中国ODAは、1979年以来中国沿海部のインフラ整備、環境対策、保健・医療などの基礎生活分野の改善や人材育成など中国経済の安定的発展に貢献し、中国の改革・開放政策を維持・促進させる上で大きな役割を果たしてきました。これらの協力の大部分は円借款の形で中国に供与されました。このような対中国ODAは、日中経済関係の発展を支えるとともに、日中関係の主要な柱の一つとして重層的な関係を下支えしてきたと評価し得るものであり、中国側も、首脳レベルを含め、様々な機会に謝意を表明してきました。近年の中国の著しい経済発展を踏まえ、日本からの円借款は、2008年の北京オリンピック前までに新規供与を円満終了するとの両国の認識に基づき、2007年12月に交換公文に署名した6案件をもって、新規供与は終了しました。
一方、環境問題や感染症をはじめとする日本にも直接影響が及び得る地球規模課題など、日中両国民が直面する共通課題が数多く存在します。2008年5月の胡錦濤(こきんとう)中国国家主席訪日の際には、「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」において、エネルギー、環境分野における協力を特に重点的に行っていくことを確認し、気候変動に関する共同声明を発表しました。また、日中関係の健全な発展を促進するという観点からは、両国民間の相互理解の増進も重要な課題となっています。このような状況を踏まえ、無償資金協力の対象は現在、<1>環境、感染症など両国民が直面する共通の課題の解決に資する分野、<2>日中両国の相互理解、交流の増進に資する分野に絞りつつ実施しています。また、技術協力は、これらに加えて、市場経済化や国際ルールの遵守、良い統治の促進、省エネを目的とした案件を中心に実施しており、人的交流を通じ、日本の価値観、文化を中国に伝えるための重要な手段となっています。対中経済協力については、今後とも日中関係全体や中国を巡る情勢を踏まえつつ、日本自身の国益に合致する形で、総合的・戦略的な観点から適切に判断した上で実施していきます。
注51 : LDCs:Least Developed Countries
注52 : ESDA:Enhanced Sustainable Development for Asia
注53 : ACFA:Accelerated Co-Financing scheme with ADB
注54 : ICFF:Investment Climate Facilitation Fund
注55 : ACEF:Asian Clean Energy Fund
注56 : CMI:Chiang Mai Initiative
●インドネシア「ルムットバライ地熱発電事業」
インドネシアは、森林の減少や泥炭地荒廃などによる温室効果ガス排出を加えると、2005年時点で中国、米国、ブラジルに次ぐ世界第4位の温室効果ガス排出国です(注57)。経済成長に伴うエネルギー需要の増加などにより、石炭消費が拡大し、エネルギー分野からの温室効果ガス排出量が増大しているため、温室効果ガス排出削減に向けた再生可能エネルギー開発などの気候変動対策の具体化が急務となっています。
日本はインドネシア・スマトラ島における電力供給の安定性の改善を図り、民生の向上、投資環境の改善などを通じた経済発展および再生可能エネルギー開発の促進による地球環境負荷の軽減に寄与するため、約270億円規模の円借款を通じてルムットバライ地熱発電所の建設を進めています。本計画の実施により、直接の効果として、完成2年後には59万,385トン/年の二酸化炭素排出削減量が達成される見込みで、インドネシアにおける電力供給の安定性の改善および温室効果ガスの削減が期待されています。