第II部 新たな政府開発援助(ODA)のあり方 -ODAを改めて考える

第1章 ODAをめぐる環境の変化と新たな援助理念 -なぜ日本は開発途上国に援助を行うのか?

外務省では、国際社会のニーズに即した戦略的で効果的な開発援助を行うことを目指し、ODAのあり方を改めて検討しました。


2010年2月、外務省はODAのあり方についての検討を開始しました。これはODAが国民の共感を十分に得ていないという認識に立ち、国民の理解と支持を得るための見直しを行うことによって、ODAをより戦略的、効果的に実施していくことを目指したものです。

外務省にタスクフォースを設け、「国際協力の理念・基本方針」、「援助の効果的・効率的実施」、「多様な関係者との連携」、「国民の理解・支持の促進」、「JICA」といった5つの論点を中心に議論を重ねました。加えて、経済界やNGO、日本にある国際機関の代表者、各界の有識者の意見も聴取しながら作業を進めました。

そして、2010年6月、「開かれた国益の増進-世界の人々とともに生き、平和と繁栄をつくる:ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」を発表しました。

グローバル教育コンクール2009 外務大臣賞 (写真提供 : 小川千鶴子)

グローバル教育コンクール2009 外務大臣賞 (写真提供 : 小川千鶴子)

第1節 今回のODAのあり方に関する検討の背景と経緯 -ODAを取り巻く環境の変化

長年にわたり、世界で高く評価されてきた日本のODA。しかし今、国内外の情勢の変化によって、日本のODAの国際社会における存在感も国民からの支持も変化しています。


第2次世界大戦後、日本は、国際社会の平和と繁栄に貢献することが日本の平和と繁栄をもたらすとの理念に基づき、外交を進めてきました。ODAはこうした日本の外交理念を実現するための重要な手段でした。東アジアの安定と成長に見られるようにODAは開発途上国・地域の発展に大きく貢献してきました。そのこと自体が日本の外交にとって意味のあることであり、ODAの対象地域が拡大するにつれて、日本の国際的地位の向上、日本製品の市場拡大、対日感情の改善など、日本自身もその恩恵を受けてきました。また、日本のきめ細かい援助そのものが国際社会から高く評価されています。

しかしながら、ODAを取り巻く環境は、近年、国際的にも国内的にも大きく変化しています。国際的には、国境を越えてヒト、モノ、カネ、情報が大量かつ迅速に移動するグローバル化が急速に進んでいます。気候変動をはじめとする環境問題や感染症、テロなどのいわゆる地球規模課題も増大し、日本の社会にも大きな影響を与えています。日本のODAも、その対象地域を東アジア中心からアフリカや中東を含む世界全体に広げることが必要になったほか、国際社会の新たな課題への対応が求められるようになっています。

また、経済面でも政治面でも、新興国と呼ばれる国々が台頭してきています。開発途上国に対する支援は、以前は先進国のODAによるものが中心でしたが、近年、新興国の援助国、そしてNGO・民間財団・企業などの非公的部門による支援・活動の重要性が高まっています。この結果、開発途上国に流入する資金の面でも、先進国のODAが占める比重は低下しており、開発問題全体の中でのODAの役割も相対的に変化してきています。新興国の台頭もあり、国際的な資源や市場の獲得競争が激化し、相対的に見ると日本の国際社会におけるプレゼンス(存在感)は低下しつつあります。

こうした国際環境の下、日本の社会と国民の暮らしは国際社会の在り様とますます切り離せないものとなってきており、日本自身の平和と繁栄を維持していくためには、これまで以上に国際社会全体の平和と繁栄に貢献していくことが求められています。そのためには、従来のODAの枠にとらわれず、国際社会の新たな課題に適切に対処し、日本の国際社会におけるプレゼンスの向上にも資する取組が必要となっています。

これに対して、日本国内のODAを取り巻く環境は必ずしも好ましいものとはいえません。経済や財政の状況が厳しい中、ODA予算は大幅に減少しています。ODAに対する国民の共感も低下しており、世論調査の結果を見ると、経済協力を「積極的に進めるべきだ」との意見が減る一方、「なるべく少なくすべきだ」との意見が増える傾向にあります。この背景には日本の厳しい経済や財政の状況のほか、第2次世界大戦後の日本の復興・経済成長期に外国や国際機関からの支援を受けた経験がない世代が増加し、いわば「ご恩返し」としてのODAという発想が支持を得られにくくなっていることもあると考えられます。また、 海外の出来事や国際貢献そのものへの国民の関心と支持も低下していることも一因と考えられます。

今回の「ODAのあり方に関する検討」は、こうした内外の情勢の変化に対応し、ODAに対する国民の理解と支持を確保し、ODAをより戦略的かつ効果的に実施することを目指して行われました。その結果は、2010年6月に「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」(以下「ODAのあり方に関する検討」)として公表されています。第2節以下では、その内容を簡単に紹介します。


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