コラム 15 官民でODA卒業国に協力~サウジアラビアの自動車技術訓練~

ジッダはサウジアラビア南西部にある経済都市です。ここに世界でもユニークな職業技術訓練学校、サウジ日本自動車技術高等研修所(SJAHI*1)があります。この研修所は、日本とサウジアラビアの官民*2 の協力により設立されました。

サウジアラビアでは石油などの豊富な天然資源を背景に経済が成長する一方、人口の半数近くを占める若者の高い失業率が問題となっています。これに対し、政府は労働力の半数を占める外国人を自国民に置き換えていくサウダイゼーション(サウジアラビア人雇用拡大政策)に取り組んでいます。こうした中、自動車保有率の高い同国において、将来的に自動車整備士の需要が見込まれることなどから、サウジアラビア政府の要請を受け、日本は2001年から政府開発援助(ODA)により協力を始めました。2008年にサウジアラビアがODA卒業国となったことを受けて、2009年9 月よりJICAを引き継いだ経済産業省事業として、(財)日本国際協力センターおよび(財)日本国際協力システムを通じ引き続き支援しています。*3

SJAHIでは、2年間の自動車整備士カリキュラムでアフターセールスサービス分野の人材を育成し、卒業生は、サウジアラビア各地の日本車販売代理店整備工場で自動車の点検・整備や顧客サービスの仕事をします。この自動車整備士育成事業は2010年8月には7期生の約1,300人の卒業生を送り出しました。優秀な成績を収めた学生の中には、SJAHIのインストラクターとなる者もあり、その数も今では12人になり、SJAHIの将来の自立的経営を担うことが期待されています。

このSJAHIに専門家として派遣されているのが海藤茂(かいとうしげる)さんです。海藤さんは1970年に日産自動車に入社後、シリアでアラビア語の研修を受け、社内では一貫してアフターセールスサービスに携わってきました。2006年に専門家としてジッダに着いたとき、「これでアラブの人々に恩返しができる」と思ったそうです。

しかし、海藤さんは、着任当初不安もあったといいます。文化や習慣の異なる国での指導の上、日本国内およびサウジ国内ではお互い競合関係にある自動車関連企業が、共同して支援体制を築き上げることへの気がかりがあったそうです。しかし、実際に現場に足を踏み入れ、サウダイゼーションという共通の目的に企業の利害を超え結束している日本車販売代理店の社長やSJAHI 担当者および学校スタッフの皆を見て、「大いに勇気付けられた」といいます。そして、自らの使命を果たしていく決意を新たにしました。

2007年の国際技能オリンピックに、当時SJAHIインストラクターだったオスマンさんはサウジアラビア代表として参加し、好成績を収めました。オスマンさんは現在、ジッダ市内のマツダ販売代理店に勤務しています。当時をふり返りオスマンさんは、「終始父親のように親身になって熱心に指導してくれた海藤さんには、心から感謝している」といいます。

オスマンさんを含め、SJAHIの卒業生の技術と勤務態度はサウジアラビア政府と自動車業界から高く評価されています。新たに方針管理を導入し、新しい他メーカーからの専門家と一緒に指導体制を強化している海藤さんは「次はマネージメントの自立化が肝心だ。サウジの若者は鍛え甲斐がある」とサウジアラビアの若い人々に期待を寄せています。


*1 : SJAHI : Saudi-Japanese Automobile High Institute

*2 : 日本側 : 経済産業省、社団法人日本自動車工業会 サウジ側 : 技術訓練公社

*3 : 自動車技術高等研修所計画プロジェクトフェーズ1、2(技術協力プロジェクト)フェーズ3(経済産業省プロジェクト2009年9月以降)

国際技能オリンピック静岡大会のサウジ代表

国際技能オリンピック静岡大会のサウジ代表 (中央 : オスマンさん、左 : 海藤専門家)(写真提供 : 海藤さん)

故障診断機の使い方の指導方法を教示

故障診断機の使い方の指導方法を教示(写真提供 : 海藤さん)

サウジアラビア地図


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