コラム 1 パートナーシップで効果的な援助を ~国連人口基金(UNFPA)東京事務所長 池上清子氏インタビュー~
これまで国連人口基金(UNFPA)で仕事をされてきて、どのようなことが一番印象に残っていますか。
タンザニアのある伝統的助産師との出会いが強く印象に残っています。彼女の手元には黒い石が2、3個と白い石がたくさん入った2つの瓶がありました。取り上げた赤ちゃんが無事だと白い石、亡くなると黒い石を瓶に入れて、彼女なりの統計をつくっていました。開発途上国、特に地方では、自宅分娩が多いので、出産に関連する保健システムや衛生に関する知識とトレーニングが必要でした。当時その村では、出産に際し、へその緒を石で切っていました。それをカミソリやはさみなど消毒できるものを使うようにアドバイスし、ビニールシートや石鹸など、安全な出産用に最低限必要な道具を約1ドルで揃えた「1ドルキット」を配布しました。国際機関、日本のNGOとタンザニアのNGOと協働して衛生指導を展開した事例です。
しかし、こういった支援も限られた地域でしか行われていなかったので、活動や取組の成果をまとめ、地元の地方政府の保健担当者に対し支援規模を拡大するよう求めました。
現在の世界人口の69億人の約半分は、25歳未満です。この若い人々に対し、正しい情報を提供すること、特にすべての人が母子保健や出産間隔をあけるための家族計画の知識やサービスを利用できるようにすることは重要です。
2010年のG8で、一つの開発課題として、開発途上国の母子保健を支援する取組の強化が打ち出されましたが、これについての考えをお聞かせください。
日本政府が、G8で開発途上国の母子保健支援を提唱したことはすばらしいと思います。ミレニアム開発目標(MDGs)の8つの目標のうち、特に5番目の「妊産婦の健康の改善」に対する取組は大変遅れています。子どもの命は予防接種などで救うことができる可能性が高いのですが、出産が原因で命を落とすお母さんの数はなかなか減っていません。妊産婦死亡の原因は様々ですが、最も多いのは出産に伴う出血です。しかし、単に止血薬があれば解決する問題ではありません。最終的に母子の命を救うためには帝王切開になりますが、このためには医療施設や輸血のシステムも必要です。開発途上国でも、大都市では整備されていますが、地方では必ずしもあるとは限りません。ぜひ日本の援助で緊急産科ケア*1を整備してほしいと思います。
国連人口基金東京事務所は "お母さんの命を守るキャンペーン"*2を行い、3万6,666人の方にご賛同いただき、サポーターになっていただきました。この全サポーターのお名前をまとめたリストは、より多くのODAがお母さんの命を守る活動に向けられるよう、日本政府に提出することになっています。
日本のODA、国際機関やNGOなどの活動を含め、今後どのような開発協力が望ましいと思われますか。
途上国のオーナーシップが大前提となりますが、先進国としては、他の援助国や国際機関、NGOとのパートナーシップの推進が不可欠だと思います。
加えて、日本などの先進国と開発途上国のNGO間との連携により、一層効果的な援助ができるのではないでしょうか。さらに、民間企業を巻き込むことも重要です。民間企業による開発途上国援助には、住友化学のオリセット®ネット*3のようなすばらしい例があります。身近な日本企業の貢献は何よりも私たちの意識を変えてくれます。地球市民であるという視点からのパートナーシップを持てるかどうかが問われていると思います。
*1 Emergency Obstetric Care (EmOC)
*2 2009年6月~2010年7月
*3 マラリア対策のために開発された殺虫効果のある蚊帳
UNFPA東京事務所長 池上清子さん(写真提供 : 吉富祐一)
UNFPAが支援する助産師学校の生徒が妊婦健診を行う様子(スーダン) ©Sven Torfinn/Panos/UNFPA
「お母さんの命を守るキャンペーン」バナー(提供 : UNFPA)