巻頭言

2009年9月の外務大臣就任以来、私は国民の理解と信頼に基づく外交を実現し、世界の人々の平和で豊かな生活の実現のため、そして、日本国民が平和で豊かな生活を実感できる世界のため、日本としていかに国際協力を推進すべきかにつき考えてまいりました。

現在の国際社会は、依然として解決すべき問題が山積しています。世界経済は最悪の時期を脱したと思われるものの、回復はいまだ途上にあります。また、世界各地には、飢餓や病気、紛争、気候変動や地震などの自然災害に苦しみ、人間としての尊厳を保てないような苦しい生活を営んでいる人々が数多くいるという厳しい現実があります。たとえば、2010年1月には、ハイチで大地震が発生し、多くの方々が犠牲になりました。日本は震災国として、その知見と経験を活かし、ハイチの復興に向けて積極的に取り組んでいきます。さらに、アフリカのサブ・サハラ地域を中心に、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成が危ぶまれるなか、アフリカ開発会議(TICAD)のプロセスを継続・強化し、MDGsの実現に向けた努力を日本は国際社会と共に倍加していきます。

このように、私たちは、内向きになることなく、世界各地で苦境にある人々と同じ人間として共感を持って、人間の安全保障の実現に向け、開発途上国の支援に取り組んでいくことが重要です。また、平和構築においても、緊急人道支援から政治プロセスの促進、治安の確保、復興・開発に至るまでの継ぎ目のない支援に取り組んでいきます。

こうした考えの下、新政権誕生以降これまでの比較的短い期間にも、日本は、国際社会が抱える課題に対して、リーダーシップを発揮し、様々なイニシアティブを表明してきました。2009年11月には、アフガニスタンへの新たな支援策として、おおむね5年間で最大50億ドル程度までの規模の支援を表明しました。また、気候変動については、同年12月の国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)において、「鳩山イニシアティブ」の下、排出削減などの気候変動対策に取り組む開発途上国や気候変動の悪影響に対し脆弱な開発途上国を広く対象とした新たな支援策を表明しました。

本白書では、これら新政権の取組も含め、世界金融・経済危機への対応、アフガニスタンおよびパキスタンに対する支援、環境・気候変動問題への日本の取組を特集として取り上げています。

現在の日本の開発援助について、国民の皆様の共感が十分には得られていないと考えています。そこで、私は、政府開発援助(ODA)のあり方について、2010年夏までをめどに、基本的見直しを行うことを表明しました。現在、政府内で、見直しに向けた作業を進めています。こうした取組により、国民の理解と支持の下、ODAをより戦略的かつ効果的に実施するとともに、ODAの質と量の双方を強化していきます。

日本の国際協力は、憲法前文に謳われている日本国民の「決意」としての国際社会への貢献の一環として、政府のみならず、幅広い層の国民の参加を得て行われています。NGO、民間企業、国際機関など、多様な関係者との連携をさらに推進していくことが不可欠です。本白書のコラムでは、主に援助の担い手として世界各地で活躍する日本人の方々の活動に焦点を当てて、日本の国際協力の具体的な事例を紹介しています。

この白書を手にした皆様が国際協力を身近なものとして感じ、さらに関心と理解を深めていただくことを期待しています。

2010年3月

外務大臣 岡田克也


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