囲み⑥ 市民参加の拡大を目指して草の根技術協力事業

開発途上国の課題の克服のためには、政府のみならず市民社会による活発な国際協力活動が重要です。日本国内でも、国際協力への市民参加の動きが増大しています。JICAでは、このような国民の意識の高まりを受け、市民レベルでの国際協力活動を支援するため、2002年度から草の根技術協力事業を実施しています。この事業は、日本のNGO、大学、地方自治体、特例民法法人(注1)などの団体がこれまでに培ってきた経験や技術を活かして企画した途上国が抱える課題を克服するための協力活動について、JICAが支援および共同で実施するものです。実施希望団体は、途上国支援に関する企画をJICAに提案し、JICAは提案を受けた案件について、政府開発援助による実施が妥当であり地域住民の生活に直接裨益するか否かの審査を経て、JICAが提案団体に事業を委託する形で実施します。

草の根技術協力事業は、実施団体の種類や国際協力活動の経験などによって、「草の根協力支援型」、「草の根パートナー型」、「地域提案型」の3種類の支援手法に分けられています。

草の根協力支援型

日本国内での様々な活動実績はあるものの、開発途上国における支援実績が少ないNGOや特例民法法人などの団体が実施したいと考えている国際協力活動をJICAが支援するものです。開発途上国での支援活動は、日本国内における支援とは異なることが多くあります。JICAでは、これまでの途上国支援のノウハウを活用し、案件の企画段階から相談に応じ、在外事務所の知見も活かしつつ、共同で事業を作り上げていきます。

草の根パートナー型

国際協力の経験が豊富な日本のNGO、大学、特例民法法人などがこれまで培ってきた開発途上国支援の経験や技術に基づいて提案する開発途上国への国際協力活動をJICAが支援する制度です。この制度で経験を積んだ団体は、将来の国際協力のパートナーとして、JICAなどの政府の援助機関と併せて、途上国の発展に貢献していくことが期待できます。

草の根協力支援型および草の根パートナー型の例


園芸モデル村で花卉栽培を行う住民リーダーと杉本理事長(右側)

日本のNGOである宮崎国際ボランティアセンターは、2005年度以降、インドの西ベンガル州ダージリン県において、現地で学校運営を行っているNGOドクター・グラハムズ・ホームズとの連携の下、JICA草の根技術協力事業(協力支援型)を実施しています。宮崎国際ボランティアセンターは、2003年までインドにおいて教育活動の一環としての園芸活動を行ってきましたが、学校(ホームズ学校(注2))以外の周辺農家への技術指導の要望が多く寄せられたことから、JICA草の根技術協力事業として、2005年から園芸技術センターの建設や最新の花弁・野菜栽培技術の指導を行ってきました。これらの普及活動の結果、周辺農家においても栽培される花卉や野菜の種類が増加し、現在では、グラジオラスやスイートピー、スターチス、デルフィニウムなどの花弁類、白菜やさつまいも、トマトのみならず、日本米まで栽培しています。さらに、販売ルートの確立にも努め、現在ではコルカタ、シッキム、デリーなどのインド各地で販売されています。

宮崎国際ボランティアセンターは、これまでにも国際ボランティア貯金や宮崎県などの協力を得て、花弁用温室などを設置したほか、宮崎県海外技術研修員受入事業にも参加してきました。特に、センターの理事長である杉本サクヨさんは、1960年代に青年海外協力隊員としてインドで活動した経験を持ち、これまでホームズ学校の日本委員会の立ち上げや園芸科の設立を通じて、花弁や農作物の栽培などを推進しており、この事業でも中心的な役割を担っています。

2008年度、宮崎国際ボランティアセンターは、これまでの実績が認められ、「草の根パートナー型」事業の支援対象として承認されました。杉本さんは、近隣の農村における花卉生産技術の普及や生産者の集出荷に向けた組織化、さらなる販売ルートの拡大などを目指しています。

地域提案型

地方自治体が主体となって、地域社会が持つ知識や経験を国際協力に活かし、途上国支援を行うものです。地方自治体が培ってきた様々なノウハウや幅広いネットワークを最大限に活かし、途上国の経済社会の発展に貢献することを目的としています。特に、日本の地域社会への人材受入や現地における技術指導を組み合わせたきめ細やかな協力が期待されるほか、地域住民の国際交流にも貢献しています。事業実施に際しては、地方自治体がNGOや民間団体と連携することも可能です。

地域提案型の例


リンゴの木の下で枝の剪定技術を指導する佐藤専門家(右手前)

福島県伊達市を含む一帯は、果樹栽培が盛んな地域の一つです。この地域で培った優れた果樹栽培などの技術を途上国で活用するため、伊達市は、2005年、中央アジアのウズベキスタン、中でも肥沃な土地と果樹栽培に適した気候であるフェルガナ州において、果樹栽培技術の普及活動を開始しました。

この事業の窓口であり実施団体となっているのは、福島県ウズベキスタン文化経済交流協会です。理事長の宍戸利夫さんは、1970年代には、日ソ親善協会福島支部を結成し、1979年からはウズベキスタンとの交流・協力を中心に活動してきました。ウズベキスタン独立後は、毎年の相互親善訪問や医療、農業分野の研修員の受入なども行っています。また、この果樹栽培事業についても、計画全体の企画・運営、現地との調整などを行うプロジェクトマネージャーを務めています。具体的には、ウズベキスタンのフェルガナ州にモデル果樹園を設立し、伊達市の果樹栽培技術指導員の現地派遣やウズベキスタンからの研修員受入を通じて桃やリンゴの品種改良や農機具などの近代化支援、病虫害予防などについて、フェルガナ州の気候や土壌、環境、経験などに合致した形での技術協力を行っています。福島県やウズベキスタン現地におけるこれらの技術指導は、主に専門家の佐藤孝雄さんが中心となって実施しています。技術指導などの結果、現地では、伊達市から送られた苗木が育成され、品種改良のための作業も開始され、桃やリンゴが定植されています。これらの活動は現地などで大変高く評価され、2008年度からは、第2フェーズが開始されました。第2フェーズでは、適切な収入を得るために、病虫害予防・品種改良、土壌改良、霜害対策等の、より広範な技術の向上を目指しています。

この事業は、伊達市の優れた果樹栽培技術をウズベキスタンへ移転するのみならず、地域住民の国際交流にも大きく貢献しています。例えば、毎年、町の果樹園の近くの小学校での児童とウズベキスタンの研修員との交流や運動会参加など、地域ぐるみの様々な交流活動が行われています。

福島県ウズベキスタン文化経済交流協会の活動を通じて、伊達市とウズベキスタンとの交流や協力は確実に広がっています。例えば、ウズベキスタンとの農業協力を通じた交流を目指す団体(注3)が新たに結成され、農薬散布用の機械であるスピードスプレーヤーを無償で贈呈するなどの活動も行われるようになっています。