1. CDMは、気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で国際合意された「京都議定書」に基づく京都メカニズムの一つ(注1)です。CDMは、先進国と開発途上国が共同で温室効果ガス排出量削減に資する事業を実施し、その削減分を投資国(先進国)がクレジットの形で取得し、自国の目標達成に利用できる制度です。開発途上国における持続可能な開発の達成を支援しつつ、地球全体の温暖化防止を図る上で、有効な手段であると考えられています。
2. 日本のように、省エネルギーの技術が相当程度進んでいる国にとっては、自国内での省エネルギーの努力だけでは排出目標の達成が困難です。そのため、CDMを活用してクレジットを得ることは、京都議定書上の約束達成のためにも重要です。
3. 一方、開発途上国においては、資金面、技術面の制約から、自国だけで排出量削減に資する事業を優先的に推進することが困難です。そこで政府開発援助(ODA)を活用し、京都メカニズムを推進することが、開発途上国の温室効果ガス排出量の抑制に役立ちます。日本は、政府開発援助を活用したCDM事業を推進することにより、開発途上国における開発支援と温暖化防止の双方に貢献することが重要との考えです。そこで、気候変動に関する交渉の場において(注2)、日本は京都メカニズムを活用する観点からも、政府開発援助のCDMへの活用を積極的に主張してきました。そして2001年、「CDM事業のための附属書 I 国(先進締約国)からの公的資金は、政府開発援助の流用を招かないこと」を条件に、政府開発援助によるCDM事業を認めることが合意(マラケシュ合意)されました。
4. 日本は、援助国と被援助国により、CDM事業が政府開発援助の流用に当たらないことが確認されれば、政府開発援助をCDM事業に活用できると考えています。この方針に基づいて、登録申請していたエジプトのザファラーナ風力発電事業は、2007年6月、日本の政府開発援助事業として初めてCDM事業として承認されました(後述)。日本は、今後とも政府開発援助を活用してCDM事業を推進していく方針です。
5. なお、CDMの具体的な流れは、以下のとおりです。
(1) 先進国(投資国)が、資金や技術支援等を通じて、開発途上国において温室効果ガスの排出削減や吸収につながる事業を実施。
(2) その事業がなかった場合と比較して、実施事業により排出量が削減。
(3) 先進国と開発途上国の間でCDM事業として相互に承認。
(4) 承認後、その事業を第三者機関(CDM理事会)に申請し、登録が認められると、事業により発生した排出削減量の全部、または一部を温室効果ガスクレジット(CER)として、先進国が自国の排出削減目標達成に使用。
エジプトは、化石燃料への依存度を下げるために新・再生可能エネルギーの活用促進に取り組んでいます。これに対して日本は、首都カイロから南東220キロに位置する紅海沿岸のザファラーナ地区に、120MWの風力発電所の新設を支援しました。同事業は、再生可能エネルギーである風力発電によって温室効果ガスの排出削減に貢献します(注3)(2003年度に、円借款により134.97億円を供与)。
さらに、2007年6月、ザファラーナ風力発電事業の登録申請が、国連のCDM理事会により承認され、日本の政府開発援助事業として初めてCDM事業として登録されました。これにより、日本カーボンファイナンス株式会社(JCF)が排出削減量の一部をクレジットとして取得することとなっており、日本の京都議定書上の温室効果ガスの排出削減目標の達成にも貢献することが期待されます。
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注1 : 京都メカニズムは、海外における排出削減量等を、自国の排出削減約束の達成に利用することができる制度。「CDM」のほか、先進国同士が共同で事業を実施し、削減分を投資した国が自国の目標達成に利用できる「共同実施(JI)」と、各国の削減目標達成のため、先進国同士が排出量を売買する「排出権取引」の3つの制度からなる。
注2 : ただし、これまでCDM理事会に登録されたCDM事業のうち、小規模なCDMを除くと、政府開発援助を利用したものは数件あるのみ(2007年10月24日現在、CDM理事会に登録済みのCDM事業は844件。日本が関係するCDM事業は245件)。
注3 : この発電所の稼働によって、同規模の火力発電所を稼働させた場合に比べ、年間約25万トンのCO2を排出削減することができると期待されている。