政府開発援助をより効果的・効率的に実施するためには、その実施状況や効果を的確に把握し、必要に応じて改善することが重要です。また、納税者である国民に対して政府開発援助がどのように使われて、どのような効果があったのかを説明することも重要です。これらの目的を果たすため、外務省を含む関係各府省庁、および実施機関であるJICA、JBICではモニタリングや評価を実施しています。
政府開発援助評価は企画(Plan)→実施(Do)→チェック(Check)→反映(Act)のサイクル(PDCAサイクル)の中に位置付けられ、評価の結果は政府開発援助政策の策定および実施の改善に役立つように担当部局にフィードバックされるとともに、被援助国の関係者に対しても伝えられます。このように政策策定や事業の改善に役立てるとともに、ホームページなどを通じて国民に対する説明責任を果たす役割を担っています。
外務省では、政策レベルでの評価(国別評価および重点課題別評価)、プログラムレベルの評価(セクター別評価および援助手法別(スキーム別)評価)を中心に評価を実施しています。また、評価の客観性を確保するため、第三者による評価を行うなど外部の視点を入れるよう努めています。
2006年度は、国別評価ではベトナム、ブータン、モロッコ、ザンビア、マダガスカルにおける日本の援助を検証しました。特に、日本の援助政策が開発途上国の需要に整合しているか、援助政策の効果はあったのか、適切な実施プロセスによって援助が行われていたのか、といった点を中心に評価を実施しました。
例えば、ベトナムの国別評価では、日本の援助政策は、ベトナムの経済開発計画の基本方針・方向性と十分整合的であることが確認されただけでなく、ベトナムの貧困削減に日本の支援が大きく貢献しているとの評価結果が得られました。将来に向けた提言としては、今後は世界貿易機関(WTO (注27))加盟に伴って新たな社会・経済的課題が発生してくることが予想され、これに対応する支援を重視していく必要があること、両国間で援助の方針のみならず、到達目標を共有することが望ましいとの指摘がなされました。
重点課題別評価では、「農業・農村開発」、「環境・森林保全」、「地域協力(中米地域)」といった課題を対象とした評価を実施しました。これらの評価においては、国際社会の取組との整合性、結果の有効性、プロセスの適切性などについて検証を行いました。その結果、「環境・森林保全」では、無償資金協力、技術協力および有償資金協力それぞれの特長をいかし、連携させて実施したことにより、相乗効果を発揮した取組も見られたことが確認されました。同時に、相手国の技術や植林計画等の有無により有効な援助方法も異なり、相手国の自助努力を支援する適切な手法の適用が重要であるとの指摘もなされました。
プログラムレベルの評価では、1か国における1分野を対象とした分野別評価として、NGOと合同でタイの保健分野の援助を、手法別評価として、開発調査についての検証を行いました。
個別プロジェクトの評価も、効果的・効率的な援助実施のため、また国民への説明責任を果たすために重要であり、その充実を図っています。
円借款では、JBICがすべての事業に関して、事業の準備段階において「事前評価」を実施するとともに、完成後2年目に国際評価基準に基づいて、妥当性、効率性、有効性、インパクト、持続性の観点から外部評価者による「事後評価」をしています。さらに、これらの評価体制をより充実させるため、2004年度から、借款契約締結後5年目に事業計画の妥当性・有効性等を検証する「中間レビュー」と、事業完成後7年目に有効性・インパクト・持続性等を検証する「事後モニタリング」を実施しています。
また、円借款事業が人々に与える効果を定量的に分析するインパクト評価も実施しました。具体的には、ペルーにおける「アマゾン地域社会インフラ整備事業/山岳地域社会インフラ整備事業」の事後評価に加え、テーマ別評価として「貧困地域における生活環境改善・生計向上」を実施しました。これは、フジモリ政権下で設置された社会投資基金(注28)における小規模インフラ事業(給水、道路、小規模電化)の住民へのインパクトを計量経済学の手法を活用して分析したものです。その結果、給水プロジェクトが実施された地域では、実施されていない地域と比較し、受益世帯において水くみ労働時間の削減や乳幼児の下痢罹患率の低下等が確認されています。また、小規模電化プロジェクトでも、同様に受益世帯において起業増等が確認されました。
技術協力では、JICAが、プロジェクトの開始前、実施中、終了時、終了後の各段階を通じた一貫した評価に取り組むとともに、これらの評価を通じて得られた提言、教訓を案件の計画・実施に、組織的にフィードバックしています。また、終了時評価結果の外部有識者による二次評価や、事後評価結果への外部有識者によるコメント取付けなど、評価の透明性、客観性を高めるため、様々な形での外部有識者の評価への参加を拡充しています。
セネガル「保健人材開発促進プロジェクト」では、2004年に行われた実施中(中間)評価において、プロジェクトの当初の対象が「一次健康医療システムで働く保健人材」と抽象的で、複数にわたる実施機関の間で対象に対する意識が共有されにくく、各機関が、現場で異なる優先順位に沿った活動を行っている状況に対し、各活動に共通する対象である保健ポストの責任者を対象に設定し、一方で、実施機関の間の調整会議を定期的に開催することを提言しました。この提言により、プロジェクトの後半には、各実施機関がプロジェクトの成果を効果的に相互活用し、相乗効果を上げ、2006年に行われたプロジェクト終了時評価では、プロジェクトの各活動において、良好な結果が得られたことが確認されました。
無償資金協力については、2005年度から外務省がプロジェクトの事後評価を実施し、施設や機材の活用状況、効果の発現状況等について確認し、それぞれの事業の課題や問題点を検証しています。2006年度には、81案件に対する事後評価を行いました。このうち、完成後3年から5年を経過した10億円以上の無償資金協力案件69案件(38か国)については外務省が一次評価を行い、さらに、2006年度からは、一次評価の妥当性や適正性を検証するため、第三者による二次評価を導入しました。また、分野別および国・地域別のプロジェクト・レベル事後評価についても、2006年度から、第三者に委託して実施しています。これらの事後評価により得られた教訓は新規案件の形成および実施に反映していきます。
2008年10月に発足する新JICAの下で、技術協力、有償資金協力、無償資金協力といったすべての援助手法で、整合的なモニタリング・評価体制を確立するよう検討しています。また、外務省、新JICAがそれぞれ実施するプログラムレベルでの評価については、両者が評価計画立案の段階から調整し、重複がないよう効果的・効率的な役割分担を行うこととしています。