コラム 7 さいたま市水道局によるラオスの人材育成 ~地方自治体が支援する人づくり~

  現在、ラオスでは都市部においても、安全な水道水の供給を受けることができるのは二人に一人の割合です(2002年現在、48.9%)。日本は、これまでも無償資金協力や技術協力を通じ、浄水場の改善や拡張などの協力を実施し、2020年までに都市部給水率を80%まで上げるというラオスの国家計画実現を、アジア開発銀行(ADB)やフランスなどとともに支援しています。
  また、この計画によって、各県の水道局が増加し、その運営管理に携わる技術系職員が不足することに対応するため、2003年9月から3年にわたって、JICAは水道局の指導的技術者を育成するための技術協力プロジェクトを実施しました。さいたま市水道局は協力機関として専門家を派遣し、現地の水道局職員に対して、水道管の敷設や管理、浄水場運転管理、水質管理についての研修を行いました。
  このように、上水道施設の拡充のようなハード面に、技術協力というソフト面での支援をプラスして、総合的な援助を展開するのは、日本の国際協力の特徴でもあり強みでもあります。さいたま市水道局では、地方自治体としての経験とノウハウをいかして、更にきめ細かなソフト面での支援を行おうと、技術協力プロジェクト終了後も、JICAの草の根技術協力事業(地域提案型)(注1)として、継続的にラオスへの支援を実施しています。
  さいたま市水道局の川島康弘さんは次のように説明します。「さいたま市水道局のラオスへの技術協力は、1992年に(社)国際厚生事業団(JICWEL)の要請で、ラオスの水道事情調査団に2名が参加したことをきっかけに、実に15年以上続いています。そのため、ラオスの水道事情を理解している職員も多くおりますし、日本とラオスの水道事業体の組織体制が似ていることもあって、より現状に即した支援ができます。先の技術協力プロジェクトで研修を受けた水道技術者たちが中心になって、ラオスの水道事業体が自立的に発展していくためにも、現場レベルでの更に具体的なスキルアップを図ってもらおうと、さいたま市水道局独自の支援継続を考えました」

JICA技術協力プロジェクトでの講義の様子。右奥が川島さん
JICA技術協力プロジェクトでの講義の様子。右奥が川島さん
(写真提供 : さいたま市水道局)

  川島さんによると、ラオスの国家計画に沿った上水道の施設整備の支援が進むことで、水道の水圧が改善され、水の出はよくなりますが、既設の配給水管が老朽化しているため、漏水の多発が予想されるそうです。水道の安定供給と健全な経営のためには、漏水修繕・防止を行い、無収水率(注2)を下げる必要があります。そこで、管理者レベルの技術者に対して日本で研修を行い、効率的な漏水対応の組織体制づくりや対応フロー、原因分析、修繕報告書類、月次年次集計表の作成などを習得してもらうというプログラムが組まれました。
  研修では研修員の主体性を伸ばすための工夫がなされました。「『日本の技術はすばらしかった』と感銘を受けるだけにはしたくなかったんです。研修の最後に、研修員自身がラオスでの課題を整理して改善案を考えます。それを研修レポートとして、パワーポイントによる資料とともに作成し、発表を行います。それに対してこちらから講評することで彼らの理解も深まります。研修員はラオスに帰国後、実際にワークショップを開催するのですが、日本での発表では30分だったものが、ラオスでは1時間半続けられたのは、確実に自分のものにしてくれた結果だと思ってうれしくなりました」と川島さんも研修の手ごたえを感じています。この研修は2008年度まで毎年続けられる予定ですが、その後は研修を受けた技術者たちが講師となって、ラオス全土の水道局へその技術を普及していくことが期待されています。

JICA技術協力プロジェクトで、現地職員に給水圧力の測定方法を指導中の川島さん(左)
JICA技術協力プロジェクトで、現地職員に給水圧力の測定方法を指導中の川島さん(左)
(写真提供 : さいたま市水道局)


注1 : 日本のNGO、大学、地方自治体、公益法人団体等が、これまでに培ってきた経験や技術をいかし、開発途上国で国際協力を行う際、JICAがその活動を支援し、共同で実施する事業。
注2 : 配給水の過程で生じる漏水や盗水など、配水量に対して収入に結びつかない水量の割合。



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