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9 カナダ
(1)援助政策等
2006年2月に政権交代により誕生した保守党政権は、2005年4月に自由党政権下で発表された『対外政策に関する基本方針』(International Policy Statement)で掲げられた新たな援助政策を継続している。保守党政権は誕生して日が浅く、少数与党でもあることから、旧自由党政権と異なる政策を特に内政に焦点を当てつつ、重点的に進めようとしているため、今のところ、援助政策については特に目立った変化や動きが見られない。保守党の最重点政策の一つである「説明責任」を援助分野にも適用するとともに、国費の有効利用との観点から「援助効果向上」を重視する方向性を示しているが、その具体策は現れていない。(なお、保守党政権の成立以降、“International Policy Statement”との名称は使用されなくなった。)
2005年のカナダの新たな援助政策は、援助対象国と対象分野を絞って限られた予算と資源を重点的に投入することにより、援助効果を最大限発揮すべく方向付けしたものであり、重点分野と重点対象国を明示した点で大きな意義がある。
重点援助分野については、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成を指針としつつ、「良い統治」、「保健(HIV/エイズに重点)」、「基礎教育」、「民間セクターの発展」及び「持続可能な環境」の5分野が挙げられ、ジェンダーはその横断的テーマとされている。
また、重点対象国(パートナー)として、アフリカ14か国を含む25か国が選定され、今後、二国間援助の3分の2を集中することとしている。これらの国々は、貧困の度合い、被援助国の吸収能力に加え、カナダのプレゼンスを維持できることを基準として選定されている。この基準に該当しない国については、イラク、ハイチ、アフガニスタン、スーダン等の「破綻国家・脆弱国家」や、外交的重要性を有する国ないし中東欧諸国等の移行国への支援は引き続き実施するが、それ以外の国への二国間援助は徐々に終了させ、国際機関やNGOを通じた支援に一本化するとされている。
更に、基本的人権の普及、平和構築にも力を入れており、体制移行国等における「良い統治」分野における専門家派遣の実施母体として「カナダ・コー(Canada Corps)」を設立し、政府各部門及び民間の専門家を統一した高度な専門性を有するチームとして派遣することが可能となり、選挙監視団の派遣等で実績を挙げている。
2004年のカナダのODA実績は、25億9,913万米ドル、対GNI比0.27%である(DAC統計ベース)。援助予算は、行政改革の影響を受けて1990年度を通じて削減傾向が続き、ODAの対GNI比は2001年には半分以下の0.22%まで落ち込んだが、2002年3月に開催された開発資金国際会議において、カナダの国際支援について毎年少なくとも8%増額し、2010年までに倍増するとの方針を表明するとともに、2005年度予算において、2008年までにアフリカ支援を倍増することが表明された。
なお、援助形態別では、一部国際金融機関向けプロジェクトを除き全額無償(資金協力及び技術協力)である。有償資金協力は1986年以降実施していないが、債務救済問題に関しては、最貧困国の債務全額削減等において債権国の中でも積極的な姿勢をとっている。
(2)実施体制
カナダの政府開発援助は、国際協力大臣の管轄下にある国際開発庁(CIDA)が中心となって実施されており、ODA予算全体の約4分の3が計上されている。その他、財務省は世銀グループを管轄するとともに、債務救済政策を主導している。外務省は、平和・安全保障基金やローカルイニシアチブ基金(在外公館を通じた小規模援助)等を主管している。また、カナダ国際開発研究センター(IDRC:主に途上国における調査研究活動の支援)は特別法に基づき設置されている民間研究機関であるが、ODA予算の約3%が直接計上されている。ODA予算全体について議会に対する責任はCIDAが負っている。
CIDAの職員数は1,866人、うち在外が125人である。在外においては、一般に、CIDAが独自の事務所を有することはせず、大使館内に1~2名のアタッシェを派遣している。また、NGOは現場における支援事業実施の主役であり、二国間援助の大部分を受注し実施する他、NGOパートナーシップの補助金事業も実施している。現在、このようなNGOとCIDAの二重の関係を見直し、透明な制度構築の検討が行われている。
援助政策の立案や支援実施の決定は、CIDAが外務国際貿易省をはじめ関係省庁と協議しつつ行っているが、近年、国際的に重要な事案に関しては、首相府の調整の下、外務国際貿易省とCIDAが連携して立案にあたっている。最近では、インド洋津波やパキスタン大地震等の大規模自然災害や、アフガニスタンやスーダン、ハイチの復興支援等がその例である。


