囲み II-7 一般財政支援に対する日本の取組 ~タンザニアにおける経験を通じて~
1.一般財政支援とは
援助には、大別して、開発途上国が直面する特定の課題に対してプロジェクトの実施を通じて個別・限定的な効果を目指す「プロジェクト援助」と、プロジェクトによらず特定の社会開発分野全体や国家経済全体などの広範な対象やプログラムに支援を行うことで包括的な効果を目指す「プログラム援助」がある。「一般財政支援」とは、プログラム援助の一つで、国家レベル注1)での開発効果を目指し、開発途上国と援助国・機関が合意した戦略に基づき、被援助国政府の一般会計に資金を直接拠出する援助方法を指す。
2.一般財政支援が生まれた背景とその仕組
(1)多くのサブ・サハラ・アフリカの開発途上国においては、政府の援助吸収能力注2)が不足しているために個別の援助が、それ自体は効果が発現しても、国全体の開発や貧困削減への効果が限定的なケースもあること、また、各々の援助国・機関がそれぞれの方式や手続で援助を実施することが、被援助国政府にとって大きな行政的負担になっていることなどが指摘されるようになった。
(2)このような事情を背景に、1990年代初め頃からサブ・サハラ・アフリカ諸国において、セクター(保健、教育、農業など)全体の開発に関する能力強化と援助活動を総合的に調和化する必要性が認識されるようになり、国家レベルでの制度構築支援という包括的なアプローチ、すなわち一般財政支援が採用されるに至った。
(3)一般財政支援を行うに当たっては、被援助国の国家政策(貧困削減戦略など)の実現に向けて、被援助国政府と援助国・機関が協調して、財政管理などの能力構築・向上のための各種行財政改革プログラムを策定する。その上で、これら改革プログラムが適切かつ継続して実施され、行政サービスを提供する政府の能力が向上するように、援助国・機関は安定した財政環境(複数年にわたる予算計画策定を可能にする援助資金の中長期見込み)を提供する一方、財政管理などの能力の向上のための技術的支援をあわせて行う。援助国・機関は、被援助国への長期の継続的対話と資金提供を通じて、包括的な開発効果の発現を目指すことになる。
3.タンザニアにおける一般財政支援
(1)タンザニアでは1998年から一般財政支援の前身に当たる方式での資金援助が開始され、2001年から本格的に開始注3)された。現時点(2005年10月)で、14の援助国・機関が1年間で総額約6億ドルの資金をタンザニア政府に提供し、国家財政の15%近くがこれで賄われている。
(2)一般財政支援と各種行財政改革プログラムが効果的に実施された結果、政府のサービス提供能力が向上し、各種行政サービスの内容改善など成果が見られるとの評価結果もある。
4.日本の対応
(1)日本は、2001年からタンザニアにおける一般財政支援に試験的に参加している。日本はこれまでの支援の実績からタンザニアの農業セクターにおいて中心的ドナーとして活動しており、農業セクター開発計画を推進するための調査を実施し、農業セクターに関し政策的アドバイスも行っている。農業セクターは一般財政支援の効果を高める上でも重要なセクターと位置付けられており、日本は一般財政支援における政策対話にも、自国の知見を十分活かして積極的に参加している。
(2)一般財政支援を、援助の手段(ツール)の一つとして持つことにより、従来のプロジェクト型援助による成果と相まって、日本の対アフリカ援助の質の向上に繋がることが期待されている。今後は、政策や財政のアドバイスができる専門的人材を育成する必要がある。また、中長期的な援助の予測可能性を高める観点からも、財政支援についても、他の援助案件同様、被援助国政府の開発計画及びドナー側の援助計画において、その役割が十分位置付けられることが重要である。
注1)セクター(教育、保健、農業など)レベルの予算に資金を直接投入する援助方法のことを「セクター財政支援」と呼ぶ。
注2)援助で受け取った技術やモノや資金などを、自らの力で適切に配分して効果的に利用する基本的な(行政管理)能力。
注3)重債務貧困国(HIPC)イニシアティブの基準に2001年に達し、債務帳消を受ける資格ができたため正式に開始された。