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(3)「保健と開発」に関するイニシアティブ~保健関連ミレニアム開発目標達成への日本の貢献~

平成17年6月21日
日本政府

1.基本的な考え方

(1)2000年、国連は貧困削減を中心とする国際開発目標を盛り込んだ国連ミレニアム宣言を採択した。この開発目標(ミレニアム開発目標:MDGs)8つのうち3つは保健関連目標であり、これらの達成は極めて重要と位置づけられているが、多くの開発途上国においては、その達成に向けた進捗状況は必ずしも充分とは言えない。

(2)開発途上国における保健問題は、住民一人ひとりの生命への脅威即ち「人間の安全保障」に対する脅威であるだけでなく、経済社会活動にも影響を与えることから、単に保健医療上の問題にとどまらず、開発を達成する上で重大な阻害要因となっている。例えば、脆弱な医療システム、保健医療サービスや健康教育へのアクセスの欠如、栄養不良、安全な飲料水と適切な衛生へのアクセスの欠如は人々の健康水準を悪化させ、結果として国レベルで労働力の損失や医療負担の増大、教育水準の低下を招き、貧困を助長する。貧困削減に取り組むにあたって保健関連MDGsの達成は極めて重要な意義をもっている。

(3)グローバル化の進む国際社会においては、HIV/エイズやインフルエンザ、SARSなどの感染症が容易に国境を越えて流行している。ODA大綱、中期政策においても地球的規模の問題として重視されている感染症は、人類共通の脅威である。我が国としては開発途上国、他のドナー、国際機関等の国際社会と協力し、感染症対策を実施し、日本国民を含む世界の人々の健康を守ることに貢献していく責務がある。

(4)我が国は、2000年の九州・沖縄サミットの機会に発表した「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」を通じて、2000年7月から2005年3月の5年間に保健医療分野で、当初予定した30億ドルを大幅に上回る支援を実施した。同イニシアティブは感染症対策の重要性を国際的に認知させることに大きく貢献し、官民パートナーシップの理念を具現化する世界エイズ・結核・マラリア対策基金創設につながった。過去に遡れば、我が国は1994年に米国と共同で「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」を発表し、人口・家族計画に関する協力に加えてエイズ対策に資する様々な協力を含む包括的な支援に取り組んできた。また、97年には「国際寄生虫対策(橋本イニシアティブ)」を提唱し、翌98年にはアフリカにおける感染症をはじめとする保健分野への取組を含む「TICAD東京行動計画」を採択している。

(5)こうした中、2005年3月をもってIDIが終了したことを契機に、また、MDGsを含むミレニアム宣言レビュー会合が開催されるなど、MDGs達成に向けた取組が更に重要さを増していることを念頭に、特に2015年を期限とするMDGs達成に対する貢献に重点を置きつつ、ODAを通じた保健医療分野への貢献を継続・拡充すべく、ここに「保健と開発」に関するイニシアティブを発表する。

2.基本方針

 開発途上国に暮らす人々の健康を増進し、保健関連MDGsの達成に貢献するため、我が国は、以下の方針に基づき、ODAを通じて開発途上国の自助努力を支援していく。

(1)「人間の安全保障」の視点の重視
 国際社会がより深い相互依存関係を持つように至った現在、HIV/エイズ等の感染症のような国境を越えた脅威による人道上の危機に対処するためには、国レベルの視点とともに、個々の人間に着目した「人間の安全保障(注1)」の視点を踏まえた支援が必要である。一人ひとりの人間を中心に据えて、脅威にさらされる恐れがある個人及び地域社会の保護と能力強化を通じ、各人が尊厳を持って生命を全うできる社会づくりを目指す「人間の安全保障」の視点は、特に人々の生命に直接的に関わる保健医療分野の取り組みにおいても重要な考え方である。このような認識に基づき、栄養失調、劣悪な水・衛生環境、保健サービスの欠如や感染症の蔓延といった人々の健康に対するさまざまな脅威に対処し、個人や地域社会が自らの健康を守れるよう、地域における保健サービスの充実や予防教育、啓発活動を通じた、持続的な能力強化への支援を行う。また、地域、所得レベル、性別による格差によって、保健サービスへのアクセスが十分でない地域や少数民族などの社会的弱者が存在する場合、これらの地域・人々に保健サービスへのアクセスが可能となるよう配慮する。

(2)横断的取組
 保健分野における課題や、人々が直面する問題の構造が多様であることから、これらの課題に効果的に取り組むためには、横断的な取組を実施することが重要である。このため、保健分野における個別の課題に対する直接的な支援だけではなく、例えば保健システム強化など、保健分野全体に関わる支援を行う。また、保健分野に密接に関係する他分野への支援による貢献にも配慮し、様々な取組を統合した横断的な支援を行う。
 戦後、我が国は栄養改善、母子手帳の活用、学校保健の徹底、水供給・衛生施設の整備、地域保健活動の充実、保健医療制度や関連法の整備等、保健に関係する横断的な取組を通じて、乳幼児死亡を激減させ、平均寿命を世界最高水準へと引き上げるとともに、結核患者数を激減させ、マラリア、住血吸虫、フィラリアといった寄生虫による疾患の根絶を実現した経験を持っている。こうした横断的な取組を通じて、国民が良い公衆衛生環境のもとで健康を享受できるようになった我が国の経験を生かし、保健医療分野において効果的な協力を行っていく。
 例えば、保健医療サービスの基盤整備と保健システムの構築、それらによる地域全体の医療水準の向上は、保健分野における多くの課題の克服に共通して貢献できる取組である。こうした保健分野への支援と、保健と密接な関連を有する水と衛生、教育、インフラ整備(道路、通信、電力、廃棄物処理等)といった関連分野における支援との効果的連携を通じて、保健関連MDGsの達成に貢献する。また、これら取組において、ジェンダーの視点に配慮する。

(3)国際社会における連携と協調
 援助の効果を向上させるためには、国際機関、他の援助国等、さらには被援助国間での連携を強化する必要がある。共通の課題を抱える開発途上国の間で、有効な対策や経験を共有し、それらの活用に取り組む南南協力(注2)を推進する。また、各援助機関と協調し、目標や戦略を共有することによる効率的かつ一貫した支援を推進する。国際機関が比較優位を有する分野については、我が国の二国間支援との有機的連関に留意しつつ、我が国拠出金を通じた貢献を積極的に検討する。保健分野で活動するNGO等とも、MDGs目標達成の視点からより戦略的な連携、協力を実施していく。

(4)開発途上国の多様な事情に応じた援助戦略の形成
 各開発途上国が抱える問題を正確に把握し、それに対応した保健医療分野の援助戦略を策定する必要がある。各国において優先的に取り組むべき課題を整理し、それぞれの課題に沿った適切な戦略を立て、効果的かつ効率的な援助を行っていく。開発途上国において保健医療分野の開発計画や戦略が存在する場合は、これらを踏まえた協調した援助を実施する。

(5)援助実施現場における研究機能の強化と現場固有の事情への配慮
 施策の実施には国や特定地域が有する固有の伝統や文化、人々の疾病に対する考え方や生活習慣などを十分理解することが不可欠である。例えば、ある種の下痢が成人になるための通過儀礼と考えられている社会では下痢症対策が効果的に実施されない可能性がある。したがって、こうした現地固有の文化や伝統、考え方に配慮した援助を行う必要がある。保健医療分野に限らず、社会学・人類学を含む様々な分野の知見を活用しつつ援助の現場における調査研究、特に対策実施に資する調査研究(注3)を強化する。

3.具体的取組

(1)保健医療体制の基盤整備に関する支援
 全ての保健関連MDGsに係る土台を強化するための保健分野の支援として、以下の取組を実施する。地域保健医療システムは保健分野の基盤であり、これらの取組を通じたその構築への支援は開発を促進するものである。また、地域保健医療システム構築にあたり、地域の能力強化や格差の是正という視点を重視しながら、保健行政・医療従事者の人材育成や、拠点となる病院の建設等、施設の機能強化などを含めた多面的な支援を行う。

(イ)保健医療システムの強化
 レファラル・システム(注4)の構築・強化、疾病サーベイランス(注5)機能の向上、保健医療情報管理システムの構築、必須医薬品の供給体制の整備を支援する。また、人口・保健に関する統計、モニタリング・評価能力の強化を支援する。

(ロ)保健医療従事者の育成
 人材育成、開発のための中長期計画づくり、中央・地方の保健医療行政にかかわる人材育成、医師、保健師を含む保健医療に従事する人材の育成を支援する。

(ハ)保健医療施設の整備と機能強化
 保健所や病院等の施設建設、医療機材の供与を通じて、保健医療システムの拠点整備及び機能強化を支援する。

(2)保健医療分野の支援を補完する関連分野の支援及び分野横断的取組
 保健MDGs達成のためには、保健分野の取組のみでは不十分であり、他分野における支援を有機的に組み合わせて、問題の解決に努力することが重要である。例えば、安全な飲料水の供給は、小児下痢症の予防につながり子供の健康改善に寄与する。識字率向上と健康教育は疾病に対する正確な知識を理解し伝達することにより疾病の予防に貢献する。道路の整備は地域住民の保健医療サービスへのアクセスの改善に貢献する。また、ジェンダーの視点から、社会的に弱い立場にあり、保健医療サービスへのアクセスにおいても不利な立場にあることの多い女性に配慮することが重要である。こうした側面を踏まえ、保健MDGsの改善に寄与する以下の取り組みを実施する。

(イ)ジェンダー平等のための支援
 保健分野の取組全体にジェンダー平等の視点が必要である。女性固有の健康上のニーズに対応しつつ、リプロダクティブヘルス・ライツ(注6)分野の支援等に加えて、男女の保健医療サービスへのアクセス格差の解消や、女性の能力開発のための支援を行う。

(ロ)教育分野における取組
 初等・中等教育、および、非就学児童・正規学校中退者・ストリートチルドレン等を対象としたノン・フォーマル教育、成人識字活動等の場を活用して、HIV/エイズ、寄生虫症等感染症の予防教育や衛生教育など、地域に根ざした保健医療問題への取組を支援する。また、エイズ遺児を学校からのドロップアウトや差別から保護するための取組を支援する。更に、学校給食を支援することにより、児童の栄養向上を図る。

(ハ)水と衛生分野における取組
 安全な水の確保や適切な衛生へのアクセスは公衆衛生環境の改善に大きく貢献し、乳幼児死亡の主要因の一つである下痢症を予防する。また、トイレの設置といった衛生施設の整備は寄生虫症などの感染症への対策として有効である。したがって、安全な飲料水の供給やトイレの設置といった衛生施設の整備を支援する。特に、学校建設において水場・トイレの設置と学校保健教育を組み合わせたり、水系感染症の多い地域への水供給・衛生施設の整備とその地域における健康教育を適切に組み合わせるなど、包括的な対策を実施する。

(ニ)社会経済基盤(インフラ)整備支援
 道路、通信、電力、廃棄物処理場などのインフラ整備は、保健サービスへのアクセス向上及びサービスの質の確保のために重要である。こうした保健医療サービスの質の向上に資するようなインフラ整備を支援していく。また、道路などのインフラ整備が保健サービスの向上に貢献するためにはどのような配慮をすることが効果的かなど、分野横断的な取組の効果を最大化するために必要な調査研究も併せて行う。

(3)ミレニアム開発目標(MDGs)の達成への貢献に向けた取組
 上記(1)、(2)の取り組みに加えて、MDGsの保健関連目標である目標4~6の達成に貢献するために、以下の取組を行う。

目標4:幼児死亡率の削減
ターゲット4:2015年までに5歳児未満の死亡率を3分の2減少させる
指標13:5歳未満児の死亡率
指標14:乳児死亡率
指標15:はしかの予防接種を受けた1歳児の割合

[現状]世界では毎年、約1,100万人の子供が死亡している。その殆どが開発途上国に暮らす子供たちであり、またその多くは現在の医療技術を持ってすれば予防可能な原因で死亡している。地域でいえば、サブサハラ・アフリカ地域の指標が最も悪く、多くの国で出生千人に対し乳幼児死亡は100を超える。北アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ、東南アジアでは目標達成が可能と見られているが、地域間、国内地方間、貧富、男女などによっては格差がある。現在のペースでは全世界で42%の減少(目標は3分の2=約67%)しか達成できないと推測されている。乳幼児死亡でいえば、肺炎、下痢、マラリア、はしか、HIV/エイズが死亡原因の半数以上を占める。また、60%以上の子供たちに栄養不良が見られる。栄養や衛生、予防接種、教育の普及、医療サービスへのアクセス向上などの対策を講じれば、将来の開発を担う人材である子供たちの死亡の多くは防ぐことができる。子供の健康を守るためには、保健医療サービスだけでなく、児童虐待、性的搾取、児童労働など、子供に対する福祉と保護も強く求められている。

[取組]下痢症については、安全な水の確保や適切な衛生へのアクセス、ORS(経口補水塩)(注7)の普及、また、肺炎等ARI(急性呼吸器感染症)については、抗生物質投与といった対策に取り組む開発途上国の努力を支援する。あわせて、ビタミンAやヨードの投与、栄養状態の改善に対する途上国の取り組みを支援する。子供が多く犠牲になっているマラリアについては、殺虫剤浸漬蚊帳の配布や抗マラリア薬の供与を行う。また、未だに子供の死亡の主要原因となっているはしかについては、安全、効果的で比較的安価なワクチンによって予防可能であることから、予防接種実施を支援していく。これらの疾病については、住民への予防教育活動にも取り組む。また、乳幼児検診の普及や子供の体重管理などにより、乳幼児の健康管理を支援する。乳幼児死亡には複数の疾患が関わっており、小児疾患に対する包括的ケアとして各国で取り組まれているIMCI(小児疾患の包括管理)(注8)の推進を支援するとともに、コミュニティーを中心とした新生児ケアにも取り組む。

目標5:妊産婦の健康の改善
ターゲット6:2015年までに妊産婦の死亡率を4分の3減少させる
指標16:妊産婦死亡率
指標17:医療従事者の立ち会いによる出産の割合

[現状]妊娠、出産にかかわる女性の死亡は世界の妊娠可能年齢(15~49歳)にある女性の死亡の13%を占め、HIV/エイズ、外傷に次いで第3番目の死亡原因となっている。こうした妊産婦の死亡は、適切な措置を施せば避けられる場合が多い。社会の最小単位である家族の健康を担う女性の死亡は、数値に表れにくいが、子供や家族の健康管理に大きな問題を引き起こす。特に、サブサハラ・アフリカ地域、南アジア地域では状況が芳しくない。経済的要因(地方や貧困層において死亡率が高い)に加えて社会的要因(保健医療における男女間格差や健康上悪影響がある伝統)も関与しているため、改善のための課題は山積している。中東と北アフリカ以外での目標達成は厳しいと見られているが、目標達成への貢献のためには、誰もがアクセスできるリプロダクティブヘルスに関するサービスを提供することが求められており、助産師・医師等の立ち会いによる出産の割合の向上、妊産婦検診の受診率の向上、家族計画実施率の向上等、妊産婦死亡率改善に寄与する取組が必要となる。一方で、MDGs目標2の教育や目標3の女性のエンパワーメントを推進する事業との連携が重要となる。

[取組]望まない妊娠、早すぎる出産を避け、出産間隔をあけるなどして、母体を保護し、妊娠、出産に係る女性の死亡率を低下させるために、啓発・住民教育、避妊薬具の配布に取り組む。その際、特に若者への教育を重視する。また、医師・助産師の立ち会いによる出産を増やすために、現場の医療従事者育成を支援するとともに、産院・診療所・救急車・薬等の利用可能設備の整備や機材供与を行うことにより安全な出産を確保し、緊急産科ケア(注9)の質を向上させる。さらに、道路等周辺のインフラ整備により、医療機関へのアクセス改善をはかる。加えて、継続ケアの視点を取り入れ、母子手帳の普及、妊産婦検診普及に努め、妊産婦の健康管理を支援する。

目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
ターゲット7:HIV/エイズの蔓延を2015年までに阻止し、その後減少させる
指標18:15~24歳の妊婦のHIV感染率
指標19:避妊具の普及率
指標20:HIV/エイズにより孤児となった子供の数

[現状]HIV/エイズにより、2003年の1年間で約300万人が死亡、これまで2,500万人以上がエイズによって死亡したと推計されている。HIV感染者のうち、90%は開発途上国に住む人々であり、エイズ蔓延によって生産年齢人口が大きな影響を受け、社会や経済に深刻な影響を与えている。HIV/エイズは貧困の大きな原因となっている。サブサハラ・アフリカ地域の状況が最も深刻であり、カリブ地域や東欧・旧ソ連邦諸国でも感染率の急激な上昇が見られる。アジア地域では、特に東アジア、南アジアにおいて非常に急速な感染拡大が起きている。特に女性については社会的要因も感染拡大に影響を与えており、ジェンダーの視点からの対策も求められている。また、2003年末までに1,500万人の子供が片親もしくは両親をエイズで失っている。エイズ遺児に対する配慮も欠かせない。

[取組]HIV/エイズに関する感染リスクを低下させるために、啓発・教育、コンドーム使用による予防は、有効かつ重要な対策であり、特に若者に重点を置きつつ、予防啓発活動を行う人材育成に対する支援と同時に、コンドーム等の供与を実施する。予防対策を効果的に行う観点から、HIV感染リスクの高いグループをターゲットにして早期に実施する。大規模なインフラ整備事業を実施する際には、労働者として流入してくる移動人口や周辺コミュニティに対する予防啓発活動や、コンドームの供与を行う。また、HIV感染リスクを増大させる性感染症への対策や、感染リスクの高い脆弱な人々への対策を実施する。検査キットの供与、カウンセリングのための人材育成支援、施設整備支援を実施することで自発的検査とカウンセリング(VCT)の普及を促進する。一方で感染者に対しては、主に国際機関への拠出を通じ、抗ウィルス薬(ART)治療の普及、日和見感染に対する対策支援を行うとともに、母子感染予防、感染者の社会参加を促進する。患者や家族だけでなく、差別を受け、社会からドロップアウトしやすいエイズ遺児に対してのケアに取り組む。安全な血液を供給するためのシステムづくりを支援し、それにより輸血によるHIVなどの感染リスクを低減させる。また、現場レベルにおける援助の効率的な実施のため、UNAIDSの提唱するThree Ones(注10)原則を促進しつつ、援助調整・調和化を具体化していく。更に世界エイズ・結核・マラリア対策基金が承認したプログラム資金を利用しつつ、人材育成や予防等我が国が比較優位を有する分野との援助協調を現場レベルで図っていく。

目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
ターゲット8:マラリア及びその他の主要な疾病の発生を2015年までに阻止し、その後発生率を下げる
指標21:マラリア有病率及びマラリアによる死亡率
指標22:マラリアに感染しやすい地域において、有効なマラリア予防及び治療を受けている人の割合
指標23:結核の有病率及び結核による死亡率
指標24:結核と診断された患者のうち、DOTS(短期化学療法を用いた直接監視下治療)によって完治された結核患者の割合

(イ)マラリア、結核
[現状]世界では毎年3億人がマラリアに罹患し、100万人が死亡している。また、毎年6,000万人が結核に感染しており、200万人が死亡している。マラリアによる犠牲者は80%がサブサハラ・アフリカ地域の子供であり、結核の場合は患者数で約57%、死亡者数で約55%がアジア太平洋地域に集中しているアジアの感染症であり、ほとんどが働き盛りの大人である。効果的な対策があるにもかかわらず、依然多くの人々がこれらの疾病で死亡している。また、結核については、HIV/エイズの流行と関係が深く、エイズ流行に比例する形で被害が拡大している。これらの疾病による直接的、間接的労働力の低下や治療に要する費用は、個人及び国家の財政を圧迫し、貧困の大きな原因の一つとなっている。

[取組]マラリアについては、予防教育及び検査・治療を支援する。特にWHO、UNICEF、世界銀行による「ロールバック・マラリア・イニシアチブ」(注11)でも有効な取り組みとされている殺虫剤浸漬蚊帳の供与や、抗マラリア剤の供与を実施する。また、灌漑設備整備はマラリアの発生を助長する可能性もあり得ることから、こうした機会に、啓発・教育といったマラリア対策をあわせて行う。結核については、DOTS(注12)戦略が有効であることから、我が国もDOTS拡大支援のため抗結核薬や検査機材の供与、及び対策に必要な人材育成支援に取り組む。

(ロ)その他の疾病
(a)ポリオ
[現状]世界のポリオ報告数は、1988年の35,251件から2002年には1,919件にまで減少した。南北アメリカ、西太平洋地域、ヨーロッパ地域でポリオの根絶が宣言されたが、一方で南アジアやサブサハラ・アフリカでは、患者発生数は激減しているものの依然根絶には至っていない。

[取組]我が国はこれまでも経口ワクチン供与のほか、診断技術やサーベイランス手法、ワクチン製造などの技術指導により大きな貢献を行ってきた実績があり、引き続き協力を行っていく。

(b)寄生虫
[現状]代表的な寄生虫疾患には、フィラリア症、住血吸虫症、ギニアワーム症、オンコセルカ症、トリパノソーマ症等がある。世界的にみれば、世界人口の半数以上がこうした寄生虫疾患に感染しており、そうした感染者の多くは途上国に暮らす人々である。

[取組]学校やコミュニティーを通じた予防、治療、啓発活動への支援、トイレの設置等の衛生対策支援が有効である。南南協力を推進しつつ、シャーガス病、ギニアワーム症、住血吸虫症等について、対策に必要な人材の育成に取り組む。特にフィラリア症については、世界保健機関・西太平洋事務局(WHO、WPRO)との協力の下、西太平洋地域において2010年を目途に撲滅に取り組んでいることから、我が国としてはこの実現を目指していく。灌漑設備整備は、これら寄生虫疾患の発生を助長する可能性もあり得ることから、こうした機会に、寄生虫対策や予防の意識強化といったソフト面での支援も行う。

(c)新興感染症
[現状]SARSあるいは高病原性鳥インフルエンザといった感染症は、人類にとって新たな感染症であり、健康上大きな脅威となる可能性がある。また、インフルエンザのように感染力が強くかつ変異の早いウイルス感染症は、新たな病原性を獲得しながら世界的な流行を引き起こす可能性がある。

[取組]WHO等国際機関や他ドナーとも協力し、流行の早期発見に資する世界的な疾病監視システムの構築に更に寄与することによって、流行に対する早期の対策づくりに貢献する。

(4)我が国の援助実施体制の強化
 イニシアティブ実施に向け、我が国の国内における取組を強化していく。具体的には、保健関連分野における開発援助を担う専門家が不足していることから、国内の人材育成を積極的に行っていく。また、援助に関する戦略の策定、実施に際しては、関連省庁間でより緊密な連携を図り、研究機関のネットワーク化の推進などにも取り組む。さらには政府とNGO、大学、研究機関、民間企業等との間の連携も強化し、オールジャパン体制で保健医療分野における国際協力に取り組む体制を構築する。こうした支援活動による成果を検証し、より効率的・効果的な実施につなげるため、モニタリング・評価体制を充実させる。