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第4節 援助実施の原則の運用状況
日本は、ODA大綱に従って援助を実施しています。ODA大綱の援助実施の原則では、ODA大綱の理念(目的、基本方針、重点課題、重点地域)にのっとり、国際連合憲章の諸原則(特に、主権、平等及び内政不干渉)及び以下に示した諸点を踏まえ、開発途上国の援助需要、経済社会状況、二国間関係などを総合的に判断した上でODAを実施する旨規定しています。

援助実施の原則の運用にあたっては、特に開発途上国の軍事支出や大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向、民主化の促進、市場経済導入の努力、基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払い、適時、適切に対応しています。相手国に好ましい動きがあった場合には、他の外交的手段とあわせ、援助を通じてもそうした動きを積極的に促進することが重要です。逆に、好ましくない動きがあった場合には、相手国に対し事態の改善を求めるなどの外交的働きかけを行った上で、相手国の政治・経済・社会状況、さらには、そういった状況が過去と比較して改善されているかなど総合的に判断の上、必要に応じ援助の停止も含め当該国に対する援助を見直すこととしています。
援助実施の原則の具体的な運用に際しては、一律の基準を設けて機械的に適用するのではなく、その背景や過去との比較なども含めて相手国の諸事情を考慮し、総合的にケース・バイ・ケースでの判断が不可欠です。
また、援助実施の原則の運用にあたっては、開発途上国国民への人道的配慮も必要です。日本が援助実施の原則を踏まえ、援助の停止や削減に至る場合、最も深刻な影響を受けるのは当該開発途上国の一般国民、特に貧困層の人々です。したがって、援助の停止や削減に至る場合でも、緊急的・人道的援助の実施については、特別な配慮を行うなどの措置もあわせて検討することが必要です。
さらに、近年、日本は平和の構築に積極的に貢献していますが、日本の援助によって供与される物資が軍事目的に使用されるようなことがあってはならないことから、平和の構築のためにODAを活用する場合であっても、援助実施の原則を踏まえることとしています。このことは、新ODA中期政策においても、ODA大綱との整合性に留意しつつ治安の強化・紛争再発予防のための支援を実施する旨、確認されています。
ODA大綱の援助実施の原則はすべての援助について踏まえられるべき原則ですが、以下では、援助実施の原則の適用が問題となった最近の具体的事例について説明します。
1.ネパール
ネパールでは1990年にこれまでの王制から立憲君主制及び議会制民主主義を採用し、民主化への移行が行われましたが、1996年以降、国王体制の廃止や共和国の樹立などを掲げるマオイストが武装闘争(テロ行為)を開始して以来、今日まで不安定な国内情勢が続いています。南アジア地域でもっとも所得水準の低いLDCであるネパールは、貧困問題や社会的不平等などの問題を抱えていることから、日本は同国に対する最大の援助国として、開発の重点課題である社会セクターの改善や農業を基軸とする地域開発を中心に支援してきました。
2005年2月1日に、ギャネンドラ国王はデウバ内閣を解散するとともに、政党関係者などの拘束や自宅軟禁、報道機関への規制など憲法で保障されている基本的人権や自由を制限する措置をとりました。これに対し、日本は基本的人権と自由の回復が重要であるとの観点から、あらゆる機会を通じてネパール政府に人権状況の改善を強く働きかけてきています。また、同国において基本的人権や自由が制限されている状況を踏まえ、対ネパール経済協力は、人権状況の推移などを見極めつつ、慎重に判断することとしています。
日本は同年2月の事態以降も、マオイスト問題の根底にある貧困問題や社会的不平等などの軽減に資するとの考え方に基づき、ネパールに対する食糧増産援助(肥料購入資金の供与)や食糧援助(コメ購入資金の供与)などを実施しました。これらの供与を行うに際しても、日本はネパール政府に対し、改めて人権状況の改善を働きかけています。