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13 EU(欧州連合)
(1)援助政策等
(イ)総論
EUは、EU加盟各国による援助に加え、欧州共同体(European Community、以下EC)単独としても援助を実施している。
ECは、人権・民主主義・法の支配及び良い統治の促進を不可分一体とする、持続可能で、公平な人材・社会開発を共同体の開発政策の基本原則としている。ECは援助の主要政策目的を貧困の削減及び究極的にはその撲滅に置き、そのための持続可能な経済・社会・環境開発への支援、途上国の漸進的な世界経済への統合の促進及び不平等と戦う決意が必要としている。その上で、[1]貿易と開発のリンク、[2]地域統合と協力への支援、[3]貧困削減戦略に直接リンクしたマクロ経済政策への支援、[4]運輸、[5]食料安全保障と持続可能な農村開発、[6]グッド・ガバナンス及び法の支配を中心とした制度の強化、の6つを重点分野としている。
EUのODA総額(支出純額ベース)は2002年で、EU加盟国全体で299億4,900万ドルで、DACメンバーのODA総額全体の半分以上を占め、世界最大のドナーであるが、このうちECによるODA総額も65億6,100万ドルで、日本、米国に次ぐ世界第3位の規模である(2004年DAC統計値)。
EUは援助の質・効率向上を根拠に、ドナーの援助活動政策・手続きの調和・協調及び、援助のアンタイド化を提唱している。また、パートナーシップと援助受益国のオーナーシップを重視し、長期的にセクター全般にインパクトを与えるとの観点から、受益国政府主導のセクター政策・支出プログラムを支援し、その一環として財政支援(budget support)にシフトしている。
さらに、MDGs等で掲げられているODAの対GNI比0.7%目標の達成を提唱し、EU自身の中間的目標として2006年までにEU加盟国平均で0.39%を達成するとの目標を設定している。具体的には、現時点で0.7%に達成していないEU加盟国(デンマーク、オランダ、スウェーデン、ルクセンブルク以外)は0.33%まで増やすよう努力している(開発資金国際会議に関する2002年3月のEU理事会結論)。2004年3月に発表された国際開発資金会議でのコミットメントに関する報告書では、援助経験の少ないEU新規加盟国を加えても、現在の予測を基礎として2006年までにEU全体でGNI比0.42%達成可能としている。同報告書によれば、新規加盟国については、2002年は、GNI比0.03%から2006年には0.11%になると予想している。
(ロ)各地域への援助
[1]アフリカ・カリブ・大洋州(ACP)諸国(77か国)に対する援助
EUは伝統的に加盟国の旧植民地諸国に対する援助を重視してきている。ACP諸国に対する援助の基本的枠組みは2000年6月、EUと77のACP諸国との間で署名されたコトヌ協定である(各国の批准手続きを経て、2003年4月に発効)。同協定は、1975年以来EUとACP諸国間の協力を規定してきたロメ協定の後継として、両者間の協力、貿易及び政治的対話の枠組みを規定している。コトヌ協定は、2000年から2020年を対象とし、政治的対話の重視、市民社会その他の民間部門の参加促進、開発戦略において貧困削減に一層の焦点を当てること、新たな貿易の枠組みの形成、財政的協力の改革を柱に据えている。
資金協力については、2002年は約24億ユーロのプレッジを行った。また、本協定の下で設置された第9次欧州開発基金(EDF、EC一般予算とは別途EU加盟国が拠出、対象期間は2000年から2007年)については、長期開発のための無償資金援助と投資手段(Investment Facility、欧州投資銀行が管理する民間部門に対する投資・貸付)という2つの手段を通じて援助が行われ、規模は前者が113億ユーロ、後者が22億ユーロである。EDFに加えて、欧州投資銀行は独自の財源により17億ドルをACP向け貸付分として保留している(2000-2005年)。
また、貿易については、ACPを地域の経済統合と貿易を通じた開発を促進するため、WTO協定と整合する新たな経済パートナーシップ協定の2008年発効を目指し、2002年9月に交渉が開始された。
[2]アジア
2002年の援助額(約束額ベース)は、5億4,000万ユーロである。保健と教育を重点分野とし、また、エネルギー、環境技術、バイオ等にも力を入れている。地域としては、アフガニスタン、東ティモール、スリランカ等にも積極的に関与している。中国に対する2002年の援助額(約束額ベース)は、約3,100万ユーロ、北朝鮮に対する同額は、約5,900万ユーロ(人道支援、食料援助が中心)である。
[3]ラテン・アメリカ
2002年の援助額(約束額ベース)は、3億8,200万ユーロである。対話を重視した分野別アプローチと、財政支援が中心となっている。
[4]地中海地域
1995年に打ち上げられた欧州-地中海パートナーシップ(Euro-Mediterranean partnership)の下でのMEDAプログラムを中心に援助が行われている。2002年の援助額(約束額ベース)は、約7億6,200万ユーロである。
[5]東欧・中央アジア
NIS諸国(旧ソ連12か国)及びモンゴルについては、技術支援スキームであるTACISを中心に、2002年の援助額(約束額ベース)は、4億3,000万ユーロである。
南東欧諸国については、1999年に始まった安定化・連合プロセスの下で援助を実施している。南東欧諸国の再建・開発・安定化のための主要なECの援助スキームであるCARDSによる2002年の援助額(約束額ベース)は6億5,400万ユーロである。
また、新規EU加盟候補国(中東欧等10か国)に対する援助は、PHARE(加盟のために必要な組織構築や基礎インフラ整備への支援)、ISPA(運輸及び環境分野での支援)及びSAPARD(農業及び農村開発分野への支援)の3つのプログラムからなる支援枠組みに基づき行われており、EU新規加盟国(中東欧等10か国)に対しても、加盟後3年間、引き続き同様の援助が行われている。2000年から2006年までの7年間については、中期財政枠組みにより支援の上限が総計218億4,000万ユーロに設定されている。
(ハ)人道援助
人道援助はEC通常予算を主な財源として欧州委員会人道支援事務局(ECHO 注1))が実施している。2002年の人道援助額(約束額ベース)は5億2,032万ユーロである。このうちACP諸国が最大の被援助国で、援助額は2億110万ユーロ(全体の38.6%)に上る。
(2)実施体制
(イ)欧州委員会が主にECの援助プログラムを運営・実施しているが、複数の総局が関与している。
[1]政策レベル(政策的方向性及び複数年計画を被援助国と交渉しながら策定)
(i)開発総局
コトヌ協定に責任を有し、ACP諸国との対外関係や経済協力を担当。
(ii)対外関係総局
NIS、地中海諸国、中東、ラテン・アメリカ及び殆どのアジア諸国との関係や人権・民主化関連予算を担当。
(ロ)援助実施レベル:欧州援助・協力事務局
援助体制の機構改革の一環として2001年1月に新たに発足。5名の欧州委員注2)で構成される理事会が監督し、開発総局、対外関係総局が策定する国毎の複数年援助計画に沿って、プロジェクトの特定・策定から、予算策定、プロジェクトの実施・モニタリング・事後評価に至る援助実施の一連の周期を一括して受け持つ。
(ハ)その他の総局としては、人道援助を担当する欧州委員会人道支援事務局、EU加盟候補国への支援を担当する拡大総局、第三国経済の監視やマクロ財政支援を担当する経済・金融総局等がある。
(ニ)ECでは対外援助運営に関する改革が進められている。改革の主要目的は、[1]援助計画の質の向上、[2]援助実施のための時間の短縮、[3]財政上・技術上・契約上の運営手続きを国際的な最高水準に適合するよう確保すること、[4]EU対外援助の影響・ビジビリティの向上、としている。その一環として、上記の欧州援助・協力事務局の設置に加え、国別複数年援助計画の策定、援助計画の一貫性や高い質を確保するための総局横断的な質支援グループ(Quality Support Group)の設置、援助の評価・監視の強化などを進めている。また、欧州援助・協力事務局は、援助運営の権限・責任を現場の欧州委員会代表部に委譲(devolution)することを進めてきた。
(ホ)欧州投資銀行(EIB:European Investment Bank)
1958年、EC設立条約に基づき、その金融活動を通じて欧州の統合とECの後進地域の経済開発に資する投資を促進することを目的に設立された融資機関である。EUの開発援助・協力政策の一環として、加盟候補国、バルカン諸国、地中海諸国、ACP諸国、アジア諸国、ラ米諸国等EU域外への融資も行っている。
