columnI-1 世界の結核対策に対する日本の貢献
結核は、一年間に約900万人の患者が発生しているといわれ、その8割は22か国に集中しています。日本はこれらのうち、中国、フィリピン、ミャンマー、アフガニスタン、カンボジアなどで、施設の建設や整備、医薬品や検査機材等の供与、検査・治療などの技術支援を含む総合的な協力を実施してきました。その中でも鍵となるのが専門家派遣を通じた技術的指導と途上国の人々の育成・能力開発です。
結核の発病、死亡、そして新たな感染を減らすため、WHOを中心としてDOTS(ドッツ、直接服薬確認下短期化学療法)と呼ばれる戦略が世界中で推進されています。これは、政府の強力な取組のもとで、長引く咳などの症状のある患者の痰(たん)を顕微鏡で検査(喀痰検査(かくたんけんさ))することにより結核を早期に発見すること、6か月以上の長期間にわたって薬をきちんと飲むよう医療従事者やボランティアが患者をサポートしていくこと、それに必要な薬剤を安定して供給する体制を作ること、患者を登録してそれぞれの治療が成功しているか、そして対策全体が正しく行われているかを評価することを柱とする包括的な戦略です。
日本はこのDOTS戦略に対して、様々なレベルで専門家を通じた技術支援を行い、対策に必要な人材の育成を行ってきました。特に、日本の結核予防会結核研究所を通じて育成した人材は、過去40年あまりで91か国、延べ1,800人以上にのぼり、途上国の保健大臣や結核対策責任者、WHO専門官、そして最前線で結核と戦う真摯な医師たちを輩出しています。
上記の取組とあわせて、日本は、それぞれの国のニーズや状況に合わせた、多様できめの細かい技術指導、人材育成を実施しています。例えば、フィリピンにおいて1992年より実施した結核対策支援は、国の結核対策の戦略作りから現場でのモデル作り、そして全国への普及に至るまでの技術支援と人材育成を実施して成功を収め、現在、国全体の対策の向上に貢献しています。さらに、これに必要な人材育成と喀痰検査の精度管理を推進するため、日本は2002年3月に無償資金協力により国立結核検査センターを建設しましたが、これはフィリピンのみならず、ASEAN諸国の人材育成の拠点としても活用され、フィリピンの経験を南南協力として他国に伝えています。
こうした技術や人材を有効に活用するための施設や機材の整備・拡充、不足する薬剤や試薬の供与を同時に実施できるのも、日本の援助の強みです。

病理組織学実習 (写真提供:結核予防会結核研究所)

解剖学実習 (写真提供:結核予防会結核研究所)