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本編 > 第I部 > 第1章 > 第1節 > (1) 開発問題への国際的関心の高まり


第I部 激変する国際社会におけるわが国ODAの展開

第1章 21世紀の主要課題としての開発問題


ODA写真館[1]:ピサック町灌漑用水貯水池建設計画引渡式(ペルー:無償資金協力)

Summary
過去数十年の国際社会の努力により、途上国の開発問題は多くの面で良い方向に向かっている。しかし、依然として、途上国は多くの困難に直面しており、特に、グローバル化の進展や2001年9月の米国同時多発テロなどを契機に、国際社会の開発問題への関心が増大している。

過去数十年の国際社会の努力により、途上国の開発問題は、多くの面で良い方向に向かっています。過去30年間で低・中所得国の乳幼児死亡率や成人の非識字率は半減しました。また、わが国ODAの大半が向けられてきた東アジア諸国においては、ODAによって整備された経済・社会インフラが貿易・投資の誘い水となって目覚ましい発展を遂げました。
しかし、途上国の多くは依然として様々な困難を抱えています。グローバル化の進展により、新たな開発上の課題が生まれています。また、世界の経済状況を反映して途上国への民間投資等の資金の流れが減少傾向にあることも途上国経済に打撃を与えています。さらに、2001年9月11日の米国同時多発テロを契機として、貧困にあえぎ、良い統治の行き届かない国がテロの温床ともなり得るとの観点からも国際社会の開発問題への関心が高まっています。
この章では、まず、国際社会が開発問題への関心を高めている現状について説明します。これを受けて、2002年に行われた主要な国際会議において開発に関する議論が活発に行われた現状を振り返ることを通じ、開発に関する主要な論点について解説し、それらに対するわが国の対応について説明します。

図表I-1 開発上の様々な成果と課題

開発上の様々な成果と課題


第1節 開発援助を巡る新たな潮流

Point
1. 国際社会において開発問題への関心が高まり、2002年に入り、欧米諸国は相次いでODAの大幅増額を表明。
2. 国際社会での開発目標の共有と開発戦略の構築が進展。
3. わが国は、経済成長を通じた貧困削減が重要との考え方に立って経済セクター支援等を通じた貿易・投資の促進にも協力。


(1) 開発問題への国際的関心の高まり
グローバル化に伴う貧困問題の深刻化
2002年8月、南アフリカのヨハネスブルグにおいて「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」が行われました。この会議は、92年にブラジルのリオデジャネイロで行われた「地球環境開発サミット」から10年経ち、世界が、その間、アジェンダ21にいかに取り組んできたかを見直し、今後の対策を議論する会合でしたが、地球環境問題とともに途上国が抱える貧困問題を始めとした開発問題について活発に議論が行われました。
この背景には、グローバル化が益々進展し、世の中がより豊かで便利になる中で、途上国の人々の多くがその恩恵に十分浴していないと感じているという現実があります。ヨハネスブルグ・サミットで採択された「実施計画」も、「グローバル化は十分に包括的かつ公正なものであるべきである」と述べるとともに「途上国と経済移行国は、グローバル化のもたらす挑戦と機会に対応する上で特別の困難に直面している」と指摘しています。
実際、グローバル化の中で格差が拡大しています。例えば、世界銀行の統計によれば、現在、最も豊かな20か国の平均所得は、最も貧しい20か国の37倍にもなり、この比率は過去40年間で2倍に拡がっています。世界銀行は、1日1ドル以下の所得層を絶対的貧困層としていますが、世界の人口の約5分の1にあたる約12億人がこうした貧困にあえいでいます。このうち65%あまりがアジア地域におり、同地域は目覚ましい経済発展を遂げ、貧困人口が劇的に減少したにも拘わらず、依然として世界最大の貧困人口を抱える地域となっています。他方、アフリカ地域は、絶対数こそアジアより少ないものの全体としてみれば貧困人口が逆に増加しており、紛争の頻発や経済の停滞により、現在最も深刻な困難を抱える地域となっています。
また、2001年9月に起きた米国の同時多発テロを契機として、米国を中心として、国際社会が貧困や格差の拡大に対処することの重要性を再認識し、開発問題への取組を強化しています。

図表I-2 世界の地域別貧困人口

世界の地域別貧困人口


グローバル化の進展により、世界的な規模で人、物、サービス、資本などが迅速に移動するようになったことにより、地球温暖化や砂漠化をはじめとする地球環境問題やHIV/AIDSなどの感染症、小型武器や地雷等の武器の拡散、薬物の密輸、国際組織犯罪といった一国だけでは解決することが不可能な問題への国際社会全体による一致した取組がますます求められています。国際社会は、これら地球規模の問題についても取組を強化しています。
また、冷戦終了後、宗教的、民族的要因に根ざした紛争、とりわけ国内紛争が頻発しています。特に、東ティモールやアフガニスタンのように騒乱や紛争の結果、経済基盤のみならず、政治、社会制度といった国の基本的枠組みそのものが破壊され、現地政府が存在しないか、あるいはその統治能力が極めて脆弱化した国(破綻国家)への支援が国際社会の重要な課題となっています。最近では、スリランカ、インドネシアのアチェ、フィリピンのミンダナオにおける和平及び復興支援のプロセスを国際社会がいかに支え、促進していくことができるか、わが国を含め関係国の対応に注目が集まっています。開発援助は、こうした紛争との係わりで、紛争回避のための紛争予防、紛争の被害を被った人々の苦難をやわらげるための人道支援、さらには紛争後の平和の定着と国づくりという一連の取組の中で、さらなる役割を果たすことが期待されています。


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