本編 > 巻頭言
わが国はこれまで、10年連続で世界第一位のODA供与国として、アジアをはじめとした開発途上国の発展と安定、さらには貧困の削減に大きく貢献してきました。このようなわが国のODA政策は、国際社会からも評価され、わが国と諸外国との友好関係の増進にも役立っています。しかし、近年、国民世論のODAに対する見方には批判的なものも多く、厳しい経済・財政事情の中でわが国がなぜこれほど大規模なODAを行う必要があるのか疑問が投げかけられています。また、同時に、個々のODA事業の効率的・効果的実施についても一層努力するとともに、その実施過程をこれまで以上に丁寧に説明し、ODAの透明性を高めることが求められています。
私は、外務大臣に就任直後、「開かれた外務省のための10の改革」(骨太の方針)を発表しました。その中の一つとして、国民の税金を無駄にしないようODAを効率的かつ透明性を持った形で実施することを約束しました。具体的には、外部の方の参加によりODAの透明性を高めるための新たな仕組みを設けること、すなわち在外公館において現地で活動するNGOの意見を聞いた上で判断を行うこと、本省において、選択肢の一つとして、第三者の参加を得た委員会で援助の分野やプロジェクトの優先順位を議論し決定することを考えることとしました。また、経済協力局幹部(評価担当)への外部の人材の起用やODAの実施に当たり適切な監査手法の導入を検討することも打ち出しました。
もとより外務省はこれまでもODA改革に真剣に取り組んできており、特に第2次ODA改革懇談会は、昨年5月より、約10か月にわたる議論を重ねて、3月末に最終報告を提出していただきました。同報告書では、「国民参加」、「透明性の確保」、「効率性の向上」をキーワードとしてODA改革についての具体的提言を頂いておりますが、その方向性は、先にご紹介した「骨太の方針」とも一致しています。今後は、「ODA総合戦略会議」の設置や「第三者による外部監査の導入」といった具体的な提言を、できることから直ちに実施していきたいと考えています。
以上のように、ODAは現在抜本的な改革を求められております。しかし、このことは、ODAの必要性をいささかも減ずるものではないと私は思っております。2001年9月11日の米国における同時多発テロは、貧困がテロの温床ともなりうることを示しました。再び同じような悲劇を繰り返さないためにも、国際社会は一致団結してアフガニスタンの復興や他の国・地域の貧困問題に取り組んでいかねばなりません。人々に多くの恩恵をもたらしているグローバリゼーションは、同時に、一部の国・地域において貧富の格差の拡大をも招いています。今なお、世界では5人に1人が1日1ドル以下で生活しており、途上国を中心として、貧困、感染症、環境破壊、紛争といった人間の安全保障を脅かす脅威が引き続き数多く存在しています。また、途上国の中には、教育や医療サービスといった基礎的な社会インフラ整備が依然として不十分であるために、国造りの基盤となる人造りが十分行われていない国も多くあります。途上国の多くは、自らの力のみではこうした問題を克服することができず、国際社会は、途上国の努力に対し支援の手を差し伸べることが求められているのです。
国際社会はこのことを深刻に受けとめており、本年は開発を主なテーマとする大規模な国際会議が相次いで開催される予定です。すでに、3月のメキシコにおける開発資金国際会議においては、ODAのみならず貿易や民間投資などさまざまな資金をいかに途上国の開発のために動員するかについて、首脳レベルでの話し合いが行われました。来る6月には、G8カナナスキス・サミットにおいて、アフリカが議題の一つとして取り上げられる予定です。また、8月末から9月にかけて、「持続可能な開発のための世界首脳会議」(WSSD)が南アフリカのヨハネスブルグで開催されますが、持続可能な開発を可能とするために、その大きな障害となっている途上国における貧困問題にどのようにして取り組むかが主要な論点の一つとして取り上げられる見込みです。このような状況の中で、米国やEU諸国はODAを大幅に増額する考えを示しています。日本もこうした国際社会の努力の中で積極的役割を果たし、ODAを通じた途上国の開発、貧困の削減にできる限り貢献する必要があります。こうした努力は、途上国の人々のために役立つだけでなく、わが国と他の諸国、特に途上国との友好関係を増進し、ひいては、わが国自身の安全と繁栄の確保を通じて国益を守ることとなるのです。
本書では、国民の皆様にODAについていかに理解を深めていただくかという視点に立って、最近のわが国ODAの特徴や果たした役割、ODA改革への取組、途上国の開発問題や開発の世界を取り巻く国際環境について図表やデータを多用しつつわかりやすく説明するよう心がけました。また、トピックスを通じて、実際に日本のODAが世界でどのように役立っているかを具体的に紹介しています。この本を通じて、一人でも多くの方々がODAについての理解を深め、わが国ODAのサポーターとなって下さることを願ってやみません。この本を読まれた感想やODAについての御意見をお寄せ頂ければ幸いです(電子メールアドレスはご意見メール)。私としても、読者の御意見を参考にするとともに、タウンミーティングといった場を利用して、国民の皆さんとODAのあり方につき議論してまいりたいと考えております。
2002年5月
外務大臣 写真
外務大臣
川口順子